仮免の告白

結城彼方

仮免の告白

「俺はとんでもないことをしてしまった。」


警察署の取り調べ室で男は呟いた。話を聞いていた警官は無言のままだった。


「俺はとんでもない事をしてしまいましたよね?刑事さん?」


問われれば答えざるをえない。


「確かに、君は道を誤ってしまったね。」


警官が答えると、男は大声で泣き出した。


「あああああぁぁぁあああああ!!俺は何て事をしてしまったんだ!!ほんの少し注意していればこんな事にはならなかったのに。どうして、どうしてなんだぁ。」


動揺が治まらない男に、警官は無言で温かいお茶を出す。男はゆっくりとお茶を飲んだ。すると、また涙が溢れてきた。けれど、今度のは警官の優しさが心に染みたことから溢れ出た涙だった。


「はぁ・・・」


男はため息をついた。どうやら少しは落ち着きを取り戻したようだ。


「刑事さん。人生ってのは一瞬でダメになってしまうんだな。俺、思ってもみなかったよ。自分がこんなことやっちまうなんてさ。」


男の言葉に、警官が応えた。


「確かに。君のような人は珍しいかもしれない。だが、ありえないことではない。それと同じように、道を誤ってしまっても、そこから清く正しい道に戻ることも、ありえないことではない。」


男はまた涙した。そして何かを語ろうとした。でも上手く声が出せなかった。そんな男に警官は寄り添い、男の肩に手を乗せて言った。


「ゆっくりでいい。少しずつでいい。何があったのか話してごらん。」


警官は優しく語りかけた。男はその優しさが嬉しくてたまらなかった。この警官の優しさに応えたたい。そう思った。そしてゆっくりと語り始めた。





「すみません。『仮免許練習中の標識』をつけ忘れました。」


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仮免の告白 結城彼方 @yukikanata001

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