第27話 夢②

 気がつくと、また、あの場所に来ていた。


 ぼやけた景色、ぼやけた背景、ぼやけた空間。


 いつもと何ら代わり映えしないその世界で、俺はまた、何の意味もなく惚けていたのだ。


「あぁ、またか」と瞬時に現状を理解し、難しいことを考えるのをあきらめる。


 動じることもなく、不安に思うこともなく、ため息だけをついて、再び視線を見えない世界へと向かわせた。




 一度この世界に捕まってしまったら、開放されるまで気長に待つしかないということ。


 何をやったところで全て無駄になるということ。


 それを、俺は知っていた。


 だから、足掻くことはせず、ただぼんやりと、ぼやけた景色を眺めていた。




 ふと、アイツを見た。




 不気味な、影のかかったような女のシルエット。


 アイツもいつもと変わりはない。


 そして、アイツを見ている俺の心象も変わりはしない。




 後悔、悲しみ、苦しみ。




 そのような感情が、胸の中を渦巻いていく。


 この現象だっていつもと何ら変わりはしはない。


 全ては繰り返しであり、全ては焼き増しなのだ。


 アイツを見た時に感じるのは、後ろ暗い感情と、憂鬱な感情、それから……







 ……それから?







 そこで、俺はある重大な変化に気がついてしまった。


 アイツを見たときに生じる感情が、想いが、増えていたのだ。


 これは何だと、自分で自分が分からなくなって混乱する。


 その感情は決して悲しいものではなかった。


 その感情は決して冷たいものではなかった。


 それは、少し暖かく、心安らかな気持ち。


 まるで、特定の誰かと会う時のような。


 まるで、愛する人と共にある時のような。


 そんな気持ちを、後ろぐらい気持ちと一緒にアイツに対して抱いていた。


 いつもとは明らかに違う、あり得ない状況に俺は戸惑った。


 アイツは誰だ?


 アイツは何だ?


 自問自答を繰り返すけれど、答えは見つからない。


 考えて、迷って、思い出して。


 そうして無駄にもがいていると、不意に、とある人物の顔が、薄く、ぼやけるように俺の頭の中に浮かんだ。


 俺がそんな感情を抱くのは誰かと問われれば、その人物だと答えるだろう。


 そして、それとまったく同じ感情を、アイツにも抱いていた。


 つまり、アイツはその人物に似ているということになるのだろうか。


 訳が分からなかった。


 そうして度つぼにはまり思考が停止すると、また、お決まりのように俺の意識は暗闇の中へと落ちていった。

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