第0085話 闇奴隷商人たちの最期

「サリー。 お前さんが自分のアジトにおびきせようとしていた闇奴隷商人やみどれいしょうにんたちのすべてがここにそろっているのか?」


「はい、シンさん。 この国の闇奴隷商人の大物おおものはすべてここに来ていますよ。

 今のところは思い通りに事が進んでいますね?」


 ん? 背後になんか視線を感じるな?


 後ろを振り返ると、すぐ後ろの席でニヤニヤしながらこちらを見ている男と目が合った……


「何か用か?」


「いやなにね、実はその3匹のきつね族幼女ようじょが欲しくて目をつけていたんですよね。

 今夜のオークションが終わった後に買って帰ろうかと思っていたんですがねぇ……

 どうやら一足ひとあし遅かったようです。 あなたに先を越されてしまっていたとはねぇ。

 どうです? 購入金額こうにゅうきんがく倍額ばいがくで私に売りませんか?」


 "3匹"だとぉ? "3人"と言え! クソ野郎が! ったく! 困ったヤツだ!


「誰がてめぇなんかに売るかっ! おととい来やがれってんだ!」


「そ、そうですか……いやぁ残念ですねぇ~。

 私は獣人じゅうじん幼女ようじょ大好だいすきなんですよねぇ~。 モフモフするとやされるんです。

 あ~あ、まさか私の他にも同じような趣味しゅみの人がいるとはなぁ……不覚ふかくでしたよ。

 おしいなぁ~、これほどの毛並けなみの良さ! しかも3匹も!

 この国では滅多めったに手に入らないですからねぇ……

 ねぇねぇ、なんとか私に売ってもらえませんかねぇ?」


 ちょっと威圧いあつしながら……


「くどいっ! 売らねぇって言ってんだろうが! これだけは言っておくぞ?

 命がしかったらみょうな気だけは起こすなよ……いいな?」


「ひぃぃぃぃぃっ! わ、分かりましたよ。 ああ! くやしい!」


 3人の幼女は、というか幼女型ようじょがたゴーレムたちなんだが……は、全員が振り返って、男に向かって "にかぁ~" と笑っている。 ゴーレムなんだがなんともあいらしい……


 モデルとなった幼女たちがかわいかったからなぁ。


 それを見て男は、ニヤニヤしながら右手を軽く幼女型ゴーレムたちに向けて振っている……きしょく悪い! 


 そんな男をにらみつけているとサリーことサブリネが、3人の幼女型ゴーレム越しに俺の身体をツンツンと突っつく……


 俺たちは、オークション会場の舞台に向かって一番左にサブリネ、その右に3人の幼女型ゴーレムたち、そして、その右に俺という順で座っているのだが、サブリネは中腰ちゅうごしでこちらに身を乗り出すかのようにして俺に小声で話しかけてきた。


「ねぇねぇ。どうするんですか? やはり全員一気に『四肢粉砕ししふんさい』ですか?」

「いや。一気にサンドワームのへと転送しようかと思っているが……」


「えーーっ! そんなぁ~。そんなんじゃぁつまらないじゃないですかぁ!?

 ちぇっ! 激痛に "のたうち回る姿" を見たかったのになぁ。 ブーっ!」


 ぶ、ブーイングだとぉ!?


「た~っぷりと苦痛を味わわせてからぶっ殺すんじゃなかったんですかぁ?」

「ああ。そうだよ。サンドワームに生きたまま喰われちまうんだぜ?

 十分恐怖と苦痛を味わうだろ?」


「えーーっ!? それじゃぁつまんないよぉ! そうだ!

 オークションの商品たちにおそわせるってのはどうですか?

 ゴーレムたちにコイツらをぶっ殺させるんですよ。 どうですぅ?

 しいたげられてきた者たちが逆襲する! ……って、なんかストーリーがあっていいじゃないですかぁ? ねぇねぇ、そうしましょうよぉ~」


「ストーリーって……」


 サリーことサブリネは目をキラキラと輝かせて返事を待っている。


「分かったよ。今回の件ではお前さんには世話になっているからなぁ……

 しょうがない。ゴーレムたちに成敗せいばいさせることにするよ」


「わーいっ! やったぁ-ーっ!」


 サブリネは大喜びだ! 喜びのあまり今にも跳び上がらんばかりだ。


「おいおい。落ち着け、気付かれるだろうが!」

「す、すみません……嬉しくてつい……てへっ!」


 うわ~『てへぺろ』! ……な~んか腹が立つなぁ。



 この会場内には闇奴隷商人が十数名と、そのともの者、オークション運営側の人間を合わせるとおおよそ50人の成敗対象者がいることになる。


 一方で……オークションにかけられる女性たちとすり替えた、彼女たちそっくりのゴーレムは全部で10体いる。

 そのゴーレムたちのスペックは、外見を除いて全く同じである。 同じ身体能力と戦闘力他を持っている。


 というのも、女性たちとすり替えたゴーレムたちは、すべて全く同じ"ひな形"からコピーして生成しているからだ。


 ゴーレムを生成する時に、いちいち戦闘力等を"手動"で調整していては面倒めんどうなのであらかじめウチのハニーたちの戦闘訓練用に、ハニーたちと"ほぼ互角ごかく"の戦闘能力を持つように戦闘力等をチューニングしたひな形が用意してあるのだ。

 それをコピーして外見情報だけを与えてゴーレムは生成されるのである。



 そういえば一部のハニーたちはもうかなり強くなったよなぁ……

 このひな形じゃもう彼女たちの練習相手にはならないかもな?


 そろそろ特別チューニングした新しいひな形を用意する必要があるかもなぁ?



 50人の敵に対してゴーレム10体か……


 まあ、ウチのハニーたちを超える戦闘力を持つ者はいないだろうから、数としてはこれで十分だな。



 この会場を除いた商館内には、他にも商館の従業員や闇奴隷商人たちが売るために連れてきた奴隷、ヤツら自身がともとして連れて来た奴隷がおおよそ50人いる。


 その中で、奴隷たちの方は基本的に殺さずにすべて解放するつもりだが、従業員の方は魂の色を見て……そうだなぁ、黄色くらいまでは生かしておいてやろうかな。



 "スカイブルー" → "青色" → "緑色" → "黄色" → "オレンジ色" → "赤" → "黒"。


 魂の質によってヒューマノイド種族の魂の色はこの範囲内で決まる。


 右に行けば行くほど魂のしつは落ちて、悪人あくにん度合どあいが強くなるのだが……

 今回は黄色までは生かしておくことにしたのだ。


 魂の色が"黄色"というのは、人に対してひどい裏切り行為をしたことがあるような人間である。 まあ、その程度までは許してやろうか……と思ったのだ。


 色はおこなってきた悪事あくじ度合どあいにより微妙びみょうことなるため、無段階むだんかいで決まる。


 なんというか、量子化りょうしかされた値ではないと言えばいいのか……

 整数的せいすうてきではなく実数的じっすうてきに色は決まるということだ。 魂の色が取り得る色は無限色あるものと考えていただきたい。


 なお、善悪の判断はこの惑星の管理システムが決めた基準にもとづいてなされる。



『ゴーレムたち! 今からターゲット情報を送信するから、その情報に基づいて敵を殲滅せんめつせよ! その方法についはまかせる!

 俺が殲滅開始を指示したら、それ以後はおのおのの判断で行動せよ。

 だがいいか! ターゲットはひとりも逃すな! 繰り返す! ……(同内容)』


 念話で各ゴーレムに命令しておいた。 あとは俺がGOサインを出せば彼女殲滅せんめつ行動を各自かくじの判断で開始する。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 壇上だんじょうにオークションの対象となる女性たち10人が登場した。

 まあ、実際は10体のゴーレムなんだが……


 彼女たちは事前チェックの時とは異なり、今はぱだかではない。

 ベリーダンサーが着るような扇情的せんじょうてきな服装を着せられている。


 それぞれの腰に巻かれた布には番号が書かれたCDくらいの大きさの丸いバッジがつけられていて、舞台に向かって、左から右に並び順で1番~10番までが記されている。


 どうやら一番左の者から順に番号順でオークションにかけられていくようだ。


「さあ、それではオークションを始めます!

 1番前へ! 中央まで出てこい。 さあここまで来るんだ」


 オークションの司会者の男は、チラッと壇上の女性たちの方を見ると、そのように命令し、前を…つまり、客席の方を見た。


 命令されても1番の番号札をつけた女性は動かない。


 まあ、当然だわなぁ。 女性は……いや正確には女性型ゴーレムは俺の命令にしかしたがわないからなぁ。


 司会者は気付かずに進めようとする……


「えー、まずは1番目の商品です。 商品はダークエルフの生娘きむすめ! 17歳です!」


 ざわざわざわ……


「……って、あれ? おいどうした? 早く前に出て来ないかっ!

 これは命令だ! さあ早く!」


 女性(型ゴーレム)は動かない……


 ごうやした司会者が1番の女性(型ゴーレム)のそばまで行くと、左手で彼女の右手首をつかんで、舞台中央前面へと引っ張っていこうとした!


がかわいいゴーレムたちよ、今だ! やれ! ターゲットを殲滅せんめつせよ!』


 俺の命令を受領したと言わんばかりに、女性型ゴーレムたち10体すべての両目が一瞬だけ金色に光ると、彼女たちは即座そくざ殲滅行動せんめつこうどうを開始する!


 ぎゃあぁあぁぁぁぁぁぁっ! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い! 痛い!


 まず1番のゴーレムが右手首をつかんでいた司会者の腕をもぎ取った!

 激痛に司会者は絶叫して、腕がちぎれた肩口かたぐちから噴き出す血をまき散らしながら、舞台の上で転げ回る!


 ……うわーーっ! に、逃げろーーっ! 殺されるぞーーっ!


 オークションの参加者たちはその様子を見て一瞬だけ凍り付いたが、舞台の上から女性型ゴーレムたちが次々に客席の方へと飛び降りてくるのを見て恐怖した!


 言葉にならない大声を発しながら、蜘蛛くもの子を散らすかのごとく闇奴隷商人たちは散り散りに出口を目指して逃げていく……


「あははははははっ! ひぃーーひっひっ! あーおかしっ! うーふふふ!

 ひーひっひっ、上様見て! 見て! ヤツらの無様ぶざま格好かっこう! あはははは!」


 サリーことサブリネは席から立ち上がると大笑いしている!


 オークション会場の4カ所ある出口のひとつに、命からがらといった感じで逃げて行く闇奴隷商人たち数名の姿が目に入った……のだが……


 必死の思いでたどり着いた出口の前で彼等は驚愕きょうがくしている!? なぜだ?


 ああ、なるほど! なんと出口の扉の前では無表情の女性型ゴーレムが待ち構えていたのだ! 彼女たち、ゴーレムの身体能力なら、あっという間にそこに移動しても全く不思議じゃない。


 彼女たちは普通の人の何十倍ものスピードで移動可能だからだ。


 闇奴隷商人たちは、その出口で待ち構えていたその女性型ゴーレムによって次々になぐり殺されていく……ゴーレムは全く容赦ようしゃはしない。


 ぎゃあああぁぁぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ! ぁぁぁぁっ! ……


 阿鼻叫喚あびきょうかんだ!

 そこかしこでゴーレムたちによる一方的な殺戮さつりくひろげられている。

 その様子を見ていると不意ふいに俺のすぐ左隣で絶叫が!


「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーっ!」


 俺とサリーことサブリネが、ゴーレムたちの一方的な殺戮さつりくに気を取られているすきねらって後ろの席にいた男が、俺の左に3人ならんで座っていた幼女、幼女型ゴーレムのひとりをさらおうとしたらしい!


 バカなヤツだ……ちゃんと警告したのになぁ。


 男は幼女型ゴーレムに反撃はんげきされ、両腕を肩口かたぐちから引きちぎられてしまったのだ!

 男は大絶叫だいぜっきょうすると失血しっけつのためなのか、あるいは激痛げきつうえられなかったのか気を失ってその場に倒れた。


 男の両腕を引きちぎった幼女型ゴーレムは、両足を肩幅かたはばよりも大きく開いて立ち、右手には男の左腕を!? そして……

 左手には男の右腕をそれぞれの手首の部分を持って両方の手をてんげるかのようにげて『にまぁ~っ』と満面まんめんみをたたえている!?


 うわぁぁぁーーっ! ば、化け物だぁーーっ!

 ぐはっ! うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーっ!


 一見すると、ただの幼女にしか見えない小さな女の子が……

 その幼女が目の前で男を虐殺ぎゃくさつするのを見て、俺たちのまわりでふるえて小さくなってかくれていた者たちが一斉に俺たちから離れていった!


 ……のだが、その先で待っていたのも地獄じごくだった!


 もはや彼等には逃げ場などはない! どう足掻あがこうが結果は同じだ……殺される。

 ただ早いか遅いかだけの違いでしかない!



 ◇◇◇◇◇◇◆



「はぁはぁはぁはぁはぁ……な、なんてことだ!

 ま、まさか、あの奴隷たちが命令にそむいてあんなことをし出すだなんて!

 し、信じられない! ヘルカルマ! これは一体どういうことだ?」


「はぁはぁはぁ……ま、マリファさん。 き、聞きたいのはこっちの方ですよ!

 あなたの方こそ、何かごぞんじじゃないのですか?」


「はぁはぁはぁ……わ、分かってたら聞くか? ボケっ!」


「はぁはぁ……す、すみません」


 この国の、ある町の神殿が運営している孤児院の院長としてもぐんでいるシオン教徒の女、マリファと……

 この闇奴隷オークション会場となった奴隷商館の主、ヘルカルマはどうやらオークション会場からは、なんとか逃げ出せたようだ。


 緊急時きんkひゅうじ脱出用だっしゅつよう地下通路ちかつうろを通り、外へと通じる出口付近まで逃げてきたのだ。


「マリファさん。ここまで来ればもう大丈夫ですよ。 あのとびらの向こうは神都しんと防壁ぼうへきの外へとつながっています」


「ああ……助かった! とにかく一旦いったん神都内の我らが教団の隠れ家に行って、仲間と今後のことを話し合わねばならない……

 く、くっそぅっ! もうちょっとでシオン教の幹部かんぶが転がり込んでくるところだったのに!」


「あの状況ですよ? ひょっとしたらシンのヤツも奴隷どれいに殺されてやしませんかね?

 そうすれば結果オーライじゃないですか?

 ヤツが死ねばそれで成功と言えるんじゃないんですか?」


「なるほどな。ヘルカルマ。 それもそうだな。

 刺客しかくとして送り込もうとしていたあの女までもが、なぜか、気が狂ったように殺しまくっていたから、もうこれで計画はすべてダメになったと思ってしまったが……

 目的は邪神じゃしんシンを殺すことだからな! ヤツさえ死ねば成功だよな!

 お前いいところに気が付いたなぁ、ヘルカルマ! ほめてやるぞ! あはははは」


「ほおぅ? ずいぶんと嬉しそうだなぁ。 一体だれが死ねば成功だって?」


「だ、誰だ! くそっ! 暗くてよく見えないぞ! まさかシン!?」


 脱出通路内は、すうmおきに火がつけられている松明たいまつはあるものの、薄暗うすぐらくて普通ふつうの人間では遠くまで見通みとおしがかないのである。


 ……カツン カツン カツン……

 何者なにものかの靴音くつおとが近づいてくる……( ってバレバレなんだけどねぇ……ははは )


「ヘルカルマ! 声の正体を確かめるよりもここはとにかく逃げるぞ!」


「はい! あのとびらの向こうへ出て、外からかぎをかけてしまいましょう!

 その後で建物も地下通路もすべて、仕掛しかけけてある爆裂魔法壺ばくれつまほうつぼで吹っ飛ばします!」


 …………カツン カツン…… ヒタヒタ ヒタヒタ ヒタヒタ……

 靴音くつおとあとにはいくつかの裸足はだしの足音らしき音が続く……


 ガチャン……ギギギギギギ~~っ!


 扉までたどり着いたマリファとヘルカルマは、あわてて扉を開ける! が……


「「そ、そんなぁ……」」


 結果はご想像通りである! 扉の外、出口は巨岩きょがんによってふさがれていたのだ。

 悪者わるもの二人にとっては万事休ばんじきゅうすである! 二人はヘナヘナとその場にすわむ……


「よう、お二人さん。 ここまで逃げてこられたことは、一応ほめてやるぜ」

「「シン!?」」


 シンの後ろには、10体の女性型ゴーレムと3体の幼女型ゴーレム!

 そして、サリーことサブリネがいる。


「ゴーレムたち……やっちまいな!」


 ざざざざっ!……という足音を立てながらゴーレムたちはシンをし、前方でへたり込んでいる二人の方へと、すごいスピードで向かっていく!


 ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ! や、やめろーーっ! ぐはっ! うぐっ!……

 うわぁぁぁぁぁーーっ! た、助けてくれーっ! どはっ! うぎっ!……


 マリファとヘルカルマは、ゴーレムたちによって"ボッコボコのギッタンギタン"にされて死んだ。


 ただ……シンはのち後悔こうかいすることになる。

 この時マリファという女の素性すじょうについてもっとよく調べておけば良かったと……


 …………………………


 ゴーレムたちによって殺された闇奴隷商人たちの死骸は、まとめてサンドワームの巣へ、彼等が流したおびただしい量の血もすべて凍らせて死骸と一緒に転送し……

 その後で商館の建物はレプリケーターを使って綺麗きれいに消滅させてやった。


 当然だが地下通路の方もすべてめてある。


 女性専門奴隷商館ビギャルドがあった場所は更地さらちになったのだ!


 そこに建物が建っていたことが分かるわずかな痕跡こんせきさえも残されていない。

 建物があったことを知っている者からすると、一夜いちやにして忽然こつぜんと消えたかのように思えることだろう……



 ◇◇◇◇◇◆◇



 ことがすべて終わるとかなり夜もけていた。


 この時間では、もう開いている店もなく、野営用のテントの中でサブリネと遅めの夕食をとることにした。


 夕食はサブリネのたっての願いにより豚骨とんこつラーメンを生成して食べたのだが……


『この世界でまさか再び豚骨ラーメンが食べられるとは思いませんでした……』


 彼女はそうつぶやき、泣きながら麺をすすっていたのが印象的だ。


 心にジーンとくる……


 彼女も俺も飽食ほうしょくの国日本で生きてきたので、この世界の味気ない料理にはとてもじゃないが満足まんぞくできない。 なんか物足ものたりなく感じてすべてが不味まずく感じてしまう。


『日本人だった時の記憶を持っているがゆえに、この世界での食べ物を食べる度に、日本人とはいかにめぐまれていたのか、日本では食べ物がなんと美味おいしく、なんとゆたかだったのかをおもり、痛感つうかんさせられ……そして恋しくなるのよね……』


 彼女はラーメンを食べながら涙を流し、しみじみとそのように語っていた。



 ◇◇◇◇◇◆◆



 夕食をとりながらサブリネと相談して、今後はシオン神聖国にいる"おギン"のしたはたらいてもらうことになった。


 それでサブリネにも、亜空間収納機能付あくうかんしゅうのうきのうつきウエストポーチと極薄ごくうすシールド発生装置内蔵はっせいそうちないぞう指輪ゆびわに、ミスリルせい忍刀しのびがたな一振ひとふ進呈しんていし……

 俺とおギン、ノアハだけには念話回線ねんわかいせんをつなげられるようにもしておいた。


 念話が使えないと、おギンの部下として諜報ちょうほう活動する上で少々不便ふべんだからだ。



 防具として手渡てわたした、極薄シールド発生装置内蔵指輪を受け取ったサブリネは……


「え!? 感激! これは婚約指輪ですね?

 ついに私も上様のフィアンセとして認められたんですね? そうですよね?」


「いやそうじゃねぇよ。 お前さんの身を守る防具だぜ、それは。

 婚約指輪じゃねぇからな!」


 指輪だからいけないのかなぁ……。

 この指輪をもらった女性の多くが、俺からプロポーズされたと勘違かんちがいするよなぁ。


「またまたぁ~照れなくてもいいですって! 本当は私を愛しているんでしょ?」


「あのなぁ、それは俺が守ってやりてぇ女性たちみんなに渡しているものだからな!

 特別なしなじゃねぇんだからな! 婚約者こんやくしゃにしたわけじゃねぇから!」


「ぐはっ! やられたわぁ~。 私のことを大切に思ってくれているんですよね?

 今のお話だと、上様は私を守ってやりたいと思っているってことですもんね?」


「ああ、まあなぁ……今回もよくがんばってくれたしなぁ。

 今ではお前さんのことを大切な仲間だと思っていることだけは確かだが……

 ノアハをひどわせたお前さんを婚約者にするこたぁ、絶対にねぇから!」


 サブリネは、渡した指輪を左手の薬指にはめて、左手を顔の前に持ってくると嬉しそうに手を動かしながら見ている……


「言っておくが、今後お前さんの上司になるおギンや、忍者部隊のナンバー2であるおエンにも同じ装備を渡しているが……彼女たちも婚約者じゃねぇんだからな!

 指輪を渡した者がすべて俺の嫁だということではねぇから、勘違いするなよ!」


「でもさあ……敵だった私を……嫌っていたこの私を、今では大切な仲間だと思って下さっているんですよね?

 それじゃぁいずれ私を嫁にしてくれる可能性だってゼロじゃないんじゃない?」


「そりゃぁまあ、その確率はゼロだとは言い切れねぇがなぁ……

 お前さんが、もっともっと人の心の痛みが分かるようになって、他人にえるような人間にならねぇ限りは無理だな。

 まあ、お前さんの上司となるおギンたちをしっかり見習って精進しょうじんしな!」


「おギンさんって人は、そんなに心が綺麗きれいな人なんですか? 上様が嫁にしたくなるくらいに?」


「ああ、そうだ! おギンもおエンも望んでくれるのなら嫁にしてぇくらいのいい子たちだぜ! だから、お前さんも彼女等のもとでしっかり自分をみがくこった」


 俺がこのように話していたとサブリネから聞いたおギンとおエンは、数日後、俺の前に二人そろってやってきて、是非ぜひとも俺の嫁になりたいと告げることになり……


 当然だが、俺にはこばむ理由など全くなくて喜んでOKし、彼女たちも俺の嫁になるのであるが、それはこれから数日後の……もう少し先の話である。



 おギンたちのもとで自分をみがけと言った俺の言葉にサブリネは言う……


「日本で食べていたような美味しい料理が食べたいのでがんばりますっ!」

「って、そこかい!? お前さんが俺の嫁になりてぇのはっ!? ったくよぉ!」


 真面目まじめにこの子の相手をしているとアホらしくなってくる!



 サブリネとは夕食後、女性専門奴隷商館ビギャルドが建っていた……今は更地さらちとなった場所で分かれて、お互いが帰途きとについた。



 ◇◇◇◇◆◇◇



 神殿に帰るともう夜中よなかで、みんなはすでに自室で眠っているようだった。

 俺もひとっ風呂ぷろ浴びてから寝ようと思い自室へと向かう……


 風呂にゆっくりと入った後、さあ寝ようと思って寝室に入って驚いた!


 ベッドでは、キャル、シャル、シェルリィ、ラティ、ローラという、いつも一緒いっしょに寝ることが多いメンバーの他に……


 今日、奴隷商館から救い出したきつね族の3人の幼女、ピコナ、ナノン、アトナと俺の嫁のラフ(この子たちとキャルたち子供たちの面倒を見ていてくれたのだろうと思われる)と……


 ニラモリア国できさき候補のフィルの侍女をしているボニーとその妹のコニーに……


 叔母おば夫婦のもとから助け出したあのゲイルまでもがベッドに寝ていて、みんなは、気持ちよさそうにスヤスヤと寝息ねいきを立てているのだ。 みんなかわいい寝顔である。


 な~んか、ほのぼのしてくるなぁ。



 ◇◇◇◇◆◇◆



 翌朝。朝食をとるとすぐに俺は、昨日奴隷から解放した3人の幼女たちを連れて、彼女たちの母親を蘇生そせいさせるべく、シオン神聖国内の、ニラモリア国との国境近くにある『ニシズネ』という町にやって来た。


 "敵国に入るのですから、近衛このえ騎士きしを最低でも2名は同行させて下さい"と神殿騎士しんでんきし隊長たいちょうのバルバラに強く言われてしまった。


 それでスケさんとカクさんに同行どうこうしてもらうことにした。 彼女たちと行動をともにするのは、なんか久しぶりのような気がする。


 出発前に話をしている時に感じたのだが……

 スケさんも、カクさんも、なんとなくテンションが高めのような気がする。



 さすがに敵国に入るということで、出発前に3人の幼女たちを念のために加護かごして俺の庇護下ひごかに置き、使い方の詳しい説明まではできなかったが、キャットスーツ等のハニー装備一式も身につけさせておくことにした。


 だたし、STRだけは強化しておかなかった。

 それは母親が蘇生そせいした際に、子供たちが抱きついたりする可能性があるからだ。


 STRを強化しておくと下手をすればよみがえった母親に抱きついたりした際に母親を殺してしまいかねないからだ。


 俺は認識阻害にんしきそがい神術を発動はつどうして、全員が魔導士まどうしふうローブを身にまとい、フードを目深まぶかかぶって町の中の人気ひとけがない場所へと直接転移したのである。


 そうしたのは、町へ入るための検問を通る際に生じるであろう"トラブル"をけるためである。


 3人の幼女の名前は、長女がピコナ、次女がナノン、三女がアトナと言い、3人は三つ子である。彼女たちはかしこい子供たちだ。 ちゃんと自分たちが住んでいた家まで俺たちを案内してくれたのだ。 5歳児とは思えないしっかりした子供らである。


「こ、これはひどいですわね……」

「こんな……これじゃまるで犬小屋いぬごやじゃないですか……ひどい……」


 カクさんとスケさんが思わずつぶやいた。


「おかあちゃん、どこぉ~。 ねぇ、おかあちゃん……ぐっすん」

「おかあちゃーーん!」

「ううう……いないよぉ~。 おかあちゃんはやっぱりいないよぉ~。 ぐっすん」


 子供たちは母親の姿が見えず泣き出した。 かわいそうで見ていられない。


 ピコナたち親子が住んでいた、家と呼ぶにはあまりにもみすぼらしい小屋のような建物の中を調べる……


 …………あったぞ! きつね族女性の魂の "" があった! 良かったぁ!


 子供たちにぬか喜びをさせるわけにはいかない! あわてるな!

 落ち着け! 念のためにこの魂の『魂の履歴』を確認するんだ!


 子供たち3人は落胆らくたんし、3人でってシクシクと泣いている。


『かわいそうになぁ……もうちょっとだけ待っててね』と心の中でつぶやきながら、魂の履歴の確認作業を続ける……


 確認できた! 間違いない! この子たちの母親の魂だ! やった!

 これで子供たちとの約束をたすことができるぞっ!


 この子たちの母親をよみがえらせてやれる!


「ピコナ、ナノン、アトナ。 大丈夫だよ! 今から君たちのおかあちゃんをここに呼ぶから見ててね」


「……ぐっすん。ほんとぉ?」


「ああ。本当だよ。 だからちょっとだけ待っててね」

「「「うん! わかった!」」」


 スケさんとカクさんは、二人とも目には涙をいっぱいためながら『よかった!』と言いたげだ。

 二人は子供たちにいつくしみぶか眼差まなざしを向け、大きくゆっくりと2回うなずいた。


「まずは身体を 『修復!』 」


 淡い緑色をした半透明な光のベールがひとつ、人の形をして俺の前に現れる。

 そのベールの中で見る見るうちに身体が再生されていく……女性の身体だ。


「おっといかん! 衣服等いふくとう装着そうちゃく!」


 光のベールが消えると目の前にはぱだかのきつね族女性が現れたので、すかさず衣服を装着させたのである。


「「「おかあちゃん!」」」


「そうだよ。でもね。もうちょっとだけ待っててね。

 おかあちゃんはまだ寝ているからね。 いいかい?」


「「「うん! まつぅ!」」」


「それでは! 蘇生そせい! さあ、おかあちゃんや! 子供たちが待っているよ!」


 目の前で、仰向あおむけに横たわっている子供たちの"おかあちゃん"の身体が、一瞬だけまぶしく、直視できないくらいにひかかがやく!


「……うう……ん…んん……」

「「「おかあちゃんっ! おかあちゃんっ!」」」


「……んん……あれ? ピコナ、ナノン、アトナ。

 おはよう。 ごめんね、寝坊ねぼうしちゃったみたいね」


 母親のテランは、どうやらあさ普通ふつう目覚めざめたような感覚のようだ。

 子供たちがすでに起きているのを見て、寝坊ねぼうしてしまったのかと思ったのだろう。


「「「おかあちゃんっ! おかあちゃ~~~~~んん! うわぁーーーん!」」」


 子供たちはこらえきれずに母親に飛びついていった!



 その様子を見ている俺とスケさん、カクさんは涙をきんない……


 その時である! この感動かんどうみずをさすような声がする……


「誰だ! お前たちは!? そこで一体何をしているんだ!」


 俺たちがいる小屋の外には、ひくくて、ぶたのようにふとった男が衛兵えいへいを10人ほどはべらせて立っていた! その男の魂の色は……黒だ! クソ野郎の登場だ!


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