第0073話 虚像と実像と……
ランクS冒険者って言ったら、冒険者たちにとって
人というのは、
だが、能力と人格との間に関連性があると考えることは
「オークドゥよ。この男もハニーたちにちょっかいを出したのか?」
「はい。ソニアルフェさんを気に入ったのか、
ぶっ殺す!
ソニアルフェはさぞや怖かったことだろう。
正面切って戦えばランクS冒険者くらい彼女なら
「ソニアルフェは多分、コイツから逃げ回っていただけなんだろう?倒す力は十分持っているのに」
「はい。そうです。
こんなゴミみたいなヤツ、さっさと倒してしまわれたらいいのになさらず……。
あの方はお優しいですからね……」
おおっ!オークドゥよ!よく分かっているじゃないか!
魔物なんだから当然と言えば当然だが……彼は人の気持ちが全く分からないヤツだった。それがどうだ。この数日でなんと変わったことか!
恋をすることでオークドゥもいい方に変わってきたのかも知れないな。人の心の動きを
この分だとオーク族とヒューマノイド種族との共存は、
「オークドゥがソニアルフェを助けてくれたんだな。ありがとうな」
「いえ。当然のことです」
「ところで……このクソ野郎を生かしておいたのはなぜだ?」
「はい。下の階層の情報を引き出せるかも知れないと考えましたので……
始末した方がよろしかったでしょうか?」
「いや!
「ありがとうございます!」
オークドゥは、はにかみながらも嬉しそうにしている。
俺たちがそんな会話をしている間に『神の代行者』のリーダーらしき男が完全に意識を取り戻す……
「おう。目が覚めたか、クソ野郎」
「なんだとぉっ!?小僧! 調子ぶっこいてっとぶっ殺すぞっ!」
「それはこっちのセリフだクソ野郎!
てめぇ、よくも俺の大事な嫁たちにちょっかいを出してくれたなぁ?
きっちりと
「な、なにをぉっ!?しゃらくせぇっ、小僧っ!
なめんなよぉ、俺はランクSの冒険者だぜ? どうだ?ビビったか?」
「てめぇがランクS冒険者だってことは当然知っている。だが、それがどうした?
たかがランクSぐれぇで偉そうに。ビビるわけがねぇだろが?クソ野郎がっ!」
「ほおぅ?たかがランクSねぇ……俺様に
ぶっ殺してやる! 食らえっ!
…………し~~~~~ん……………なにも起こらない。
「え?な、なにも起こらないわ……なぜ?」
魔導士の女が驚いている。
起こるわけがない。そもそも神である俺や俺の
神の特権、神の
平常状態の魔物が俺たちを
それに、たとえ『爆殺』魔法がキャンセルされなかったとしても、大量の魔力を相手の体内に送り込み
ただただ、この男、ガジャブは魔力の
「あれれぇ~?何も起こらないなぁ~。いったい君は何がしたかったのかなぁ?
ぷぷぷーーっ! な~んだ。
ちょっと名探偵コ○ンくんの
たった一つの
まあ、この世界の人間には分からないだろうがなぁ……ユリコにもこの場にいてもらえばよかったかな?あれ、でも彼女が亡くなった時にはまだテレビ放映されていなかったか?
「う、うるせえっ!だ、
シュンッ!
近距離、2mほどしか離れていない位置からのウインドカッターが俺に向かって
……いや、別に
ウインドカッターを俺が
だが、それは直後に
ガジャブが放ったウインドカッターは、確かに俺に命中したはずなのに、俺に傷ひとつ負わせることができなかったからだ!
「ば、バカなっ!……お、俺の最大威力の攻撃魔法2つが全く通じないだと!?」
「え?そうなのか?攻撃魔法だったのか今のは!?ぷぷぷっ!あのそよ風が か?
おいおい。てめぇ本当にランクS冒険者なのか?ランクを
男は
そして……
「ん!? ひぃっ!? だ、ダダル!? うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
さてと……今度はこっちの番だなぁ。
コイツらと会話している間に
だから、コイツらはもう
コイツらの魂の色は黒っぽい赤色だ。ロクなモンじゃない。
あの魂が
これまで無事だったのが不思議なくらいだ。コイツらのおもちゃにされていてもなんら不思議じゃない。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!くそっ!くそっ!くそっ!死ね!死ね!死ね!」
リーダーらしき男は
俺はそれらすべての攻撃魔法を
それどころか、攻撃を受けている感覚すらない。目を
なぜなら俺が身に
「はぁはぁはぁはぁ……ど、どうだ!?さすがに
「もう気が
ニヤリっ!
俺の笑顔にランクS冒険者二人がブルブルッと
その直後、ガジャブは
ガジャブの顔も、そして、ちょっと離れたところで
カッ カッ カッ。
ガジャブのもとへと近づきながら、おもむろに、右手を前に出しながら
まずは
デコピン一発で倒されたら、さすがのバカ野郎でも実力差がわかるだろう……
デコピンをすぐにでも放てる状態にした指をガタガタと震えている男のおでこにおもむろに押し当てたのだが、男は
まるで
「な、なにをするっ!?た、助けてくれ! お、俺たちが悪かった!
あ、
ガジャブは胸の前で両の手を組み、
「やぁ~なこったぁ!
てめぇはソニアルフェが……俺の大切な妻がやめてくれと頼んでも、やめねぇで追っかけ回したんだろう?
そんなてめぇの頼みを聞くと思うか? クソ野郎がっ!
なにをするって聞いたよなぁ? 教えてやろうじゃねぇか。
見ての通りデコピンだよ。デコピンを一発食らわせてやろうと思っている」
デコピン一発と聞いてガジャブの顔に
「ふぅぅぅぅっ。あ、ありがとう。デコピン一発で
アホだな!デコピン一発が
しかし、ランクSの冒険者だろ? 相手の
遠慮なしに……って、思いっきりやったら頭が吹っ飛んじまうんだけどなぁ。
殺さないように……殺さないように……まあ、殺しちゃってもいいっかぁ!
ぺち!
「ガハッ!……」
ガズッ!ザッ!…ゴロゴロゴロゴロゴロ…………ズンッ!
ガジャブは
だが、それだけでは後方へと向かう勢いは殺せず、ガジャブは地面をゴロゴロと
『神の代行者』のリーダーらしき男、ガジャブは壁の
どうやら
ちょっとだけ強めだったかな? 次回は気をつけよう……
「え?うそっ!?デコピン一発であの
もしかして……貴方様はあの有名なデコピン勇者様ですか!?」
「デコピン勇者だって……クックックック……うぐふっ………クククク……」
オークドゥが腹を抱えながら必死に笑いを
で、デコピン勇者?な、なんだそりゃぁ?
「なんだそりゃ? 俺はそんな変な名前の勇者じゃねぇぞ!」
「いえ。お
ノルムの町の宿屋で、赤ん坊を
うっ!た、確かにそんなこともあったような……
えーーっ!?俺はデコピン勇者と呼ばれているのかぁ? えーーっ!!
そんな
「た、確かに似たようなことをした記憶はあるんだが……その変な呼び名はやめてくれ。それに……お前さんはジェニファの話を聞いていなかったのか?」
「え?なんの話でしたっけ?」
「ほら。ジェニファは『
「え?デコピン勇者様が……う、上様?………ははあぁぁぁぁっ!」
魔導士の女は腰が抜けたままの状態で、なんとか身体を動かしてひれ
つらそうだ……見ていて気の毒になる。
「修復!……ほら。これでもう、うまく動けるだろう?ひれ伏さなくてもいいから普通にしていろ」
「は、はいっ! う、上様!これまでの
上様のお后様とは
「いやいや!俺の嫁じゃなくても、女性にちょっかいを出すのはダメだろう?」
「わ、私はただ見ていただけなので……それに彼等を止めると私が欲望のはけ口となってしまいますし……ごにょごにょ……」
まぁ……たとえランクSとはいえ、女性ひとりで男ども二人に
「調子のいいことを言うな。お前が二人の男を
「ん?オークドゥ、それは本当か?」
「はい。あの女は……
『おいっ!野郎ども、あれを見ろ!すげぇ上玉ばかりだぜっ!かっ
と、男どもを
「……だそうだが?何か言い分はあるか?」
「いや……そのう……。……ええーいっ!こうなったら仕方ねぇ!
ああ、そうだ!そうだとも!そのイケメンが言った通りだとも!
チッ!
しゃぁねぇっ!さあ、
ついに
俺だけだったら完全に
しかし、まさか『べらぼうめっ!』って言葉を聞くとは思わなかったなぁ……。
こんな江戸っ子言葉に
魂の色もほとんど黒に近い赤だしなぁ……ダメだなこの女は。
なまじ実力者だけに
最終的な結論を下す前に、魂の
記録から判断すると、ジェニファはごく最近パーティーに加わったようだ。
コイツらが
ジェニファが悪事に
彼女…ジェニファは運が強いと言えるだろうな。
これまで苦しめられてきた人々の
しかしなぁ……力持つ者が悪とは。やるせないなぁ。
「よく言った!それじゃ、その
サンドワームの
魔導士の女の顔色がまた悪くなり出した。プルプルと震えている。
「そ、そんなの選べるかってんだ! バッカじゃねぇの!」
まあまあのルックスの女性の口から放たれるオッサン
コイツ……
そんなことを一瞬考えたのだが、この女魔導士、ブブジェの言葉に
「お前っ!上様に対してバカとはなんだっ!
たとえ女であっても
「ひぃぃぃぃぃっ!」
シュンッ!……ザサッ!ゴロン……ブシューーーッ!
ゴロン…ゴロン…ゴロン……ドサッ!…ドクッ!ドクッ!ドクッ!……
あらら……。
ランクSの女魔導士、ブブジェは
彼女にとっては
壁の
これは、サンドワームくんたちがコイツの攻撃を受けないようにするためだ。
そしてその後すぐ、首なし死体で地面に転がっている、ジェニファの剣を
一番
◇◇◇◇◇◇◇
野営用テントの中の食堂でみんなと夕食の
その映像には、第8階層の様子が映っている。
今いる野営用テントはシールドで守られていて、シールド外にはミニヨンと神殿騎士風ゴーレムを10体ずつ
彼等にはロイヤル・ミノタウロスを、ヤツらが復活してくる
今夜はこのままここで野営しようと思っている。
ここがボス部屋ということもあるので、
「しかし、第8階層はレッドドラゴンの
「ああ。オークドゥの言う通りだな。レッドドラゴンは初めて見たんだが、こりゃすごいな。こんなに
まさにレッドドラゴンの巣にでも迷い込んだんじゃないかと思うくらい、レッドドラゴンがウジャウジャいるじゃねぇか。これはちょっと
「ダーリン。レッドドラゴンは
私たちが使う
「そうだな。ノアハの烈火の壁は強力だが、これは相手が悪ぃよな」
「ダーリン。
「それも考えたんだが……コイツらを動けなくするくれぇはできるだろうが、押し
アイディアがいいと言われてウェルリはニコニコしている。
「剣で斬りかかるのも難しそうですし……
「そうなんだよなぁ、ザシャア。お前さんもそう思ったか。剣はダメだよなぁ」
「はい、上様。私もそう思います」
オークドゥも同意見だと述べる。
「なにかコイツらを倒すいいアイディアはねぇかなぁ……」
「簡単。凍らせて、
「なるほど。
いつもは表情が読み取りにくいジーの顔には、誰もが分かる笑顔が浮かんだ。
「その他にはないかな?プランAが
みんな難しい顔をして考え込んでいる……。
そんな中、ユリコが口を開く……
「フェイザー銃は? あれなら最大出力で撃てば倒せるんじゃないの?」
「ああ。多分倒せる。だがな、最大出力だとすぐに熱を持ってしまい、安全装置が働いて撃てなくなっちまうと思うんだよ」
「シン。そういう事なら手があるじゃない?歴史に学びましょうよ」
「歴史?どういうことだ?」
「
「なるほどな。明日にでもちょっと練習してみるか……三段撃ちを。
三段では冷却時間が不足するならミニヨンも投入して段数を増やせばいいか……
時間はかかるだろうが、シールドで防ぎながらフェイザー銃で
ユリコは一瞬だけ笑顔を浮かべた。が、その後は照れくさいのかプイっと
「フェイザー銃を冷やす必要があるのでしたら、氷属性神術を使いフェイザー銃を冷却しながら撃つことはできないのでしょうか?」
「なるほど、ノアハ。神術を
「さて、これでプランは2つになったが。できればあともう
「シオン神聖国に転送してやったらどうでしょうか?」
「うーん、マイミィ。あれだけのレッドドラゴンをたとえシオン神聖国であっても
ニラモリアとの国境付近に集結している軍隊にぶつけるとしても、その後、生き残ったレッドドラゴンを始末するのも大変だしなぁ……。
マイミィ、レッドドラゴンを利用しようと考えるとはさすがはこの世界No1の魔物使いだ。逆転の発想はすげぇと思うぜ。
すっげぇ面白ぇ案だが……申し訳ねぇが今回は止めておくよ。ごめんな」
「いえ」
マイミィが残念、かつ、恥ずかしそうに
「マイミィ。人とは違った発想ができるお前さんがいてくれるのはありがてぇし、お前さんの
「はい」
本当にそう思っている。
意見を言いやすい
マイミィの表情も明るくなったな。良かった。
「は、話し合いはできないのでしょうか?レッドドラゴンたちと……そのう……」
ソニアルフェがおずおずと発言する。
レッドドラゴンたちはダンジョンマスターの精神支配下にあるからなぁ……。
「話し合い……ん?マイミィの案と
「「え?」」
ソニアルフェとマイミィが不思議そうな顔をしながら、俺の言ったことの
「いや、話し合うというか……レッドドラゴンを味方戦力にするってぇことだよ。
マイミィ、ダンジョンマスターの支配下になけりゃぁ、レッドドラゴンでも
「はい、多分。できるような気はします」
「ならば、オークドゥの弟たちの時のように、
ダンジョンマスターによる精神支配から
魔物ヒエラルキーの上位に位置するヤツらは
「はい。
「そうですね。
オークドゥと
「そうか。それじゃ、こっちの、まず精神支配を
それじゃぁ、この方針で下の階層には
"はいっ!"
「レッドドラゴンたちが味方にならなかった時には、魔物使いとしてのマイミィの力を借りることになると思うから、その時は頼むな」
「はいっ!喜んで!」
「ソニアルフェもヒントとなる案を出してくれてありがとうな」
「はい!」
マイミィもソニアルフェも非常に嬉しそうだ。
◇◇◇◇◇◇◆
第8階層攻略会議のような打ち合わせを終えて俺たちは、明日の第8階層攻略に備えてみんなが早めに休むことにした。
各自が自室に戻っている。
オークドゥはいつもの通り、オークドゥ専用のテントで泊まることになる。
彼のテントは俺たちの野営用テントの隣に設営してあり、もちろんそのテントも含めて守るようにシールドは展開してある。
勇者ユリコとマルルカ、マイミィも我々に同行しだした当初は、彼女たち専用のテントを別に用意してそこで寝てもらっていたのだが、彼女等の強い要望により、俺たちの野営用テント内に用意した各人の部屋で泊まるようになった。
そうなったのは昨夜からだ。そう、新ボラコヴィアで野営した夜からである。
神都に残してきている子供たちはどうしているだろうかと考えながら、そろそろ眠ろうかと思った時である。
「だ~りん!うわぁぁぁん。あいたかったのぉ~」
『さみしかったよぉ~。うわぁぁぁん』
「うう……」
「ぐっすん、ぐっすん」
突然、キャル、シャル、シェルリィ、ラティが転移して来た。
ぽすんっ!ぽすんっ!ぽすんっ!ぽすんっ!と、ベッドの上に
「おお。我がかわいいかわいい子供たちよ、いったいどうしたんだい?」
子供たち4人は全員がおいおいと泣くばかりだ。
すると後からさゆりも転移して来た。
「ダーリン、ごめん。連れて来ちゃった。子供たちがあんまり寂しがるもんだからつい……。許して」
「
実は俺もこの子たちやお前さんたちに会えなくて寂しかったんだ。
今ちょうど会いたいなぁと思っていたところだったんだぜ。会えて嬉しいよ」
ああ……この子たちのかわいい顔を見ていると疲れも吹っ飛ぶなぁ……。
ガチャッ!
部屋の入り口のドアが開く……
「ねぇ、シン。どこからか子供の泣き声が聞こえるんだけど……って、シン!?」
「ああ、ユリコか。その泣き声はこの子たちだ。寂しくて俺に会いに来てくれたんだぜ、かわいいよなぁ~。こうしているだけで
「うわっ!か、顔!デレデレじゃないの!うわぁ~やはりあなたロリコンなの?」
「ち、違うわっ!ったく、
「ねぇ、ダーリン。今キャルちゃんの声が……あっ!やっぱり来てたんだ!」
開いたままの入り口からラフが入って来た。
ラフの姿を見たキャルたちが……
「あっ!ラフおねえちゃん!おねえちゃんにもあいたかったよぉ~」
『うん。ラフおねえちゃん、だいすきっ!』
「おねえちゃん」
「……」
俺から離れて今度はラフのもとへと子供たちは抱きついていった。
ラフには子供たちが大変
ラフは
「あ~あ、寝る前にあなたをからかおうと思ったんだけど……もう寝るね。
じゃぁね、おやすみ、シン。みなさん、おやすみなさい」
「ははは。ラフが来てくれて助かったな。おやすみ、ユリコ」
「ゆうしゃさま、おやすみなのぉ~」
『おやすみなさい、ゆうしゃさま』
「「おやすみなさーい」」
「おやすみなさい。ユリコさん」
「おやすみなさい」
ユリコはにっこりと笑い、部屋から出て行った。
その後、俺はキャル、シャル、シェルリィ、ラティ……そしてなぜか、さゆりにラフも……彼女たちと一緒に寝ることになったのだった。
子供がいるのって……なんかいいよなぁ……。
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