第0068話 新ボラコヴィアの新統括神官

 震災翌日の朝、新ボラコヴィア。

 朝食用として町の人たちにはミックスサンドを2つにコーンポタージュスープ、バナナ1本をワンセットにして袋詰ふくろづめし、計5000セットを配布した。


 全員を神殿敷地しきち内に集めて配布するのではなく、各町内会の自治会長を通じての配布だ。高齢者たちや幼い子供たちに神殿まで足を運ばせるのも気の毒だし、皆を並ばせて順に配布するのも非効率だからそうしたのだ。


 この国の庶民の一日の食事回数は、朝・昼・晩の三食ではなく、朝と夕の二食が一般的らしいが、今日の夕食以降は各自で用意してもらう。


 俺たちがする食糧支援はこの朝食までだ。


 それで大丈夫かと思うかも知れないが……


 大型ショッピングセンターに食料品から衣服、生活雑貨等々、生活に必要となる商品を大量に生成して供給きょうきゅうし、それらは、通常よりはかなり安い価格で購入できるようにしてある。


 そして、この町の大人と子供、男女の区別なく全員に、見舞金みまいきんとして各人が当面とうめん生活していけるだけの一定の生活資金を提供してあるから、この町にいて、贅沢ぜいたくな生活を求めるのでなければ、不自由なくしばらく生活できるはずだ。


 だから、大丈夫なはずだ。


 弱者や子供たちの見舞金みまいきん詐取さしゅされたり、親や力のある者たちによって流用りゅうようされないかという可能性についても問題ない。

 その点については、各自治会長には子供や弱者の見舞金みまいきん詐取さしゅされたり、不当ふとう流用りゅうようされないようにしっかりと監視かんしするようにふくめてある。


 だがそれだけでは多分不十分だろう。だから全員の、何らかの行動を起こそうと思った時に呼び出されるイベントに、行動を監視して他者たしゃの見舞金の勝手な流用はできないようにするイベントハンドラが割り当ててある。


 本当は、そんなことをしようとするヤツは、灰になりながら霧散むさんするようにしてやるつもりだったんだが、そのためにはナノプローブが大量に必要となることからそれは断念だんねんした。残念だ……。


 新ボラコヴィアの人たち全員に念話ねんわつなげて、以上のことはくわしく伝えてある。



 悪徳あくとく領主りょうしゅは俺が成敗せいばいしたので、この町は自分たちで守っていかねばなるまい。

 この町を警備しているのは今までも神殿騎士のみだったから特に影響はないかも知れないが、念のため警備用の騎士型ゴーレム500体を生成し、この町の神殿の命令に従って行動するようにプログラミングして要所ようしょに配置しておいた。

 要所とは、この町の東西南北にある門や神殿、浄水場じょうすいじょう等の重要施設のことだ。


 これでこの町から俺たちが離れても大丈夫だろう……



 ◇◇◇◇◇◇◇



 いよいよダンジョンへ戻ろうかと思ったときである。


 この町の神殿関係者の全員がぞろそろとやって来た。そして、その先頭を歩いていた男が口を開く……


「いひひひひっ、上様。私奴わたくしめが新しく統括とうかつ神官しんかんになりましたグルガーと申します。

 この度は町をお救いいただき誠にありがとうございました。

 今後はこの私奴わたくしめが上様からおあずかりしているゴーレムを指揮しきし、この町を守っていきますのでどうぞご安心下さいませ」


 そうだ。その問題が残っていた。新しい統括神官を決めなければならなかった。

 この男、グルガーはだめだ。魂の色はオレンジ色。こんなヤツに任せるわけにはいかない。ゴーレムの指揮権を渡したら何をやらかすか分かったモンじゃない。


「俺は許可きょかしたおぼえはねぇぞ?なに勝手なことを言ってやがるんだ?」

「え?わ、私奴わたくしめがこの町の神官ではナンバー2でしたので、次は私奴わたくしめが統括神官になるのが順当じゅんとうでしょう?それがすじってモンじゃないですか?」


 な~んか慇懃いんぎん無礼ぶれいな態度だなぁ。気にわん。


「それは誰が決めた?」

「だ、誰がって……そういうものでしょう普通は?ねぇ、みんな!?」


 そう言うとコイツの後ろにひかえていたこの町の神官たちに同意どういを求める……

 神官たち神殿関係者は困ったような顔をしてうつむいてグルガーとは目を合わせないようにしている。


 俺は神殿関係者全員の魂の色を見ている……

 この男以外は、最も悪い色でもグリーンだ。他はみんな善良な者たちと言ってもいいだろう。


 ん?ひとりだけ魂の色が"スカイブルー"の者がいる。

 25歳の女性で名前はリガーチャ……すごい美人だなぁ。この世界で出会う心の綺麗きれいな人たちはみんなすごい美人ばかりだ。

 心の色と美人とは何か相関関係そうかんかんけいでもあるのだろうか……。


 いずれにせよ心の綺麗きれいな者に統括神官をまかせるのが一番間違いないだろうから、この子に統括神官になってもらうことにしよう。


「グルガーよ、統括神官をやる気になっているお前さんには悪ぃんだがなぁ……、お前さんに統括神官を任せるわけにはいかねぇんだよ。悪ぃな、あきらめてくれ。

 次の統括神官はもう決めてあるんでなぁ」

「え!?そ、そんなのは横暴おうぼうだ!私奴わたくしめ以外、誰ができるとおっしゃるんですか!?」


 威圧する。


「なにぃ?俺の決定には従えねぇって言うのか?てめぇ……死にてぇのか?」

「ひぃぃぃぃぃっ!……め、滅相めっそうもございません。し、従います!従います!

 そ、それで誰を次の統括神官になさるおつもりですか?」


「リガーチャ。前へ」


 リガーチャはひどく驚き、そして、当惑しているようだ。

 俺はリガーチャの方を真っ直ぐに向いて、その目を見つめながら手招てまねきする。


「リガーチャ、お前さんだ。こっちへおいで……。お前さんをこの町の新しい統括神官に任命する。引き受けてくれ!」

「え?ええっ!?わ、私がですかぁ!?無理!無理!無理!無理!無理ですぅ!」


「ね!?ほらぁ、本人もああ言っていますし、あんな女じゃ絶対に無理ですって。ぎます!ですからここはやはり私奴が……」

「だ・ま・れ!」

「ひぃぃぃぃぃっ!ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」


 強烈に威圧してやったのだ!

 神殿関係者に聞く……


「みんなは知っているよなぁ? この子は心がやさしく綺麗きれいな人間だってことを」


 全員がうんうんとうなずく。


「俺はそんなお前さんになってもらいてぇんだよ。ダメか?」

「わ、私は初級しょきゅう治癒ちゆ神術しんじゅつしか使えませんし……」


「治癒神術が初級だからって統括神官ができねぇ理由にはならねぇだろう?」

「う、上に立つ者の能力が低いというのは組織をひとつにまとめるための吸引力に欠けるというか……能力の高い方々がきっと不満に思うんじゃないでしょうか?

 自分より能力が低い者がえらそうに指示するのは面白くないでしょうから……」


「なーんだ。そんなことか?ならばお前さんの能力が高けりゃ問題ねぇんだな?」

「それに……私、人見知ひとみしりなんです。人と話すのが苦手にがてで……」


 まあ、それは自分に自信が持てて、場数ばかずめばなんとかなるだろうな。

 立場たちばひとつくる……ってこともあるし、な。


「あのな。まず能力の件だが、それは大丈夫だ。俺がお前さんを加護かごして庇護下ひごかに置くからな。攻撃神術から上級治癒神術まで使えるようになるぞ」

「え!?わ、私は上様のお嫁さんになるのですか?」


 ああ……なんでなんだ!

 "俺が加護して庇護下に置くこと=嫁にする"という式でも世間に出回っているのだろうか……。


「いや。なんでそうなるんだよぉ?

 加護して俺の庇護下に置くだけだぜ? 嫁になれとは一言も言ってねぇぞ?」

「そ、そうですかぁ……で、ですよね~、私なんかじゃ無理ですよね……がっかりですぅ。ちょっと期待しちゃったなぁ……とほほ」


 リガーチャは肩を落としてうなだれた。

 なんかごにょごにょ言っていたが、最後の方の言葉がよく聞き取れなかった。


「お前さんのような美人で心がすっごく綺麗きれいな人が、ここの統括神官になってくれたらここに来るのも楽しみになるんだけどなぁ……引き受けてくんねぇかなぁ?」


 リガーチャの顔に笑顔の花が咲く……


「そこなんっすか!?ダーリン、そういうことっすか!?

 リガーチャさんが綺麗だから、結局口説くどいているんっすね!?」

「ぎるてぃ!嫁にするための準備行為と断定!」


 ウェルリとジーだ。どうやら誤解しているらしい……。


「そ、そんなつもりは一切ないぞ!この町の統括神官になって欲しいだけだ!」

「一切ないっ!?がはっ!……しょんぼり……ぐっすん……うう……」


 リガーチャが大ダメージを食らったかのようにその場にくずちた。

 顔色は真っ青だ。そして、肩を落として泣き出す……。


「あーっ!リガーチャさんを泣かせたっす!ダーリン、ひどいっす!」

鬼畜きちく所行しょぎょう!期待を持たせて突き放す、鬼!」

「へっ?な、なんで?なんか酷ぇことを言ったのか、俺は?」


「ダーリン、神官しんかん神子みこを目指している女性というのは皆、ダーリンとちぎりをむすぶことをゆめているのですよ。

 それなのに嫁にするつもりは一切ないとは……とても残酷ざんこくですわ」

「へっ? ザシャア、そうなのか? 信仰と恋愛は別じゃねぇのか?」

「みんなダーリンの嫁になりたいって思ってますよぉ~。当たり前ですぅ」


 ソニアルフェの言葉に、ここにいる女性たちがすべて大きく何度もうなずいている。


 こ、これはやっちまったな……マズい!


「い、いや、『そんなつもりは一切ない』と言ったのは、なんつうかぁ……言葉のあやだ。そう!言葉のあやだぜ!

 こ、こんな美人で心が綺麗な女性を嫁にしたくねぇヤツなんていねぇよ。

 世の男どもはみ~んな彼女にれちまうに決まっている!そうだろう?

 そんなリガーチャにはもうきっといい人がいるに決まっているじゃねぇか。

 そこへ俺が嫁にしてぇと言ったら、リガーチャが困っちまうだろう?

 だから、えて……えてだ!俺の嫁になる必要はねぇとハッキリ知ってもらうためにああ言ったんだよ。

 うん、そうだ!そうだとも!」


「えー!?とってつけたかのようっすね!本当っすかぁ?怪しいっす!」

「そう。姑息こそく

姑息こそくって……ジーよ、俺は一時いちじしのぎで言ってんじゃねぇよ!本心だ!」


「それで、シン、本心はどうなの?

 彼女をハーレムメンバーに加えるつもりはあるの?それともないの?」


 ユリコの言葉に"れっぽい人仕様しよう"の基本システムが……


「そ、そりゃぁ、嫁になってくれるんなら嬉しいぜ。こんなに魅力的な女性なんだからなぁ」


 リガーチャの顔に希望の光が差す。


「だが、まだ知り合ったばかりなんだぜ?

 男の俺はいいけどよ、女性は貞操ていそうを要求されるこの男尊だんそん女卑じょひの世界だからなぁ、彼女にはよく考えてから結論を出して欲しいんだよ」

「あのね、シン。人を愛する気持ちって考えてどうこうなるようなことだと本気で思っているの?ダメねぇ……こういうことはパッションよ!」


 確かに、論理で結論が出る問題ではないな……。


「まだ知り合ったばかり…って、オークドゥのように一目会った瞬間に恋に落ちることだってあるでしょ? あなた、言っていることがナンセンスよ。違う?」


 うっ!そう言われると返す言葉もないな……。

 しかし、ユリコの言葉づかいも俺と一緒で、昭和生まれのにおいがプンプンするな。


「確かに……そうだな。リガーチャ、俺に遠慮えんりょするこたぁねぇから本心を聞かせてくんねぇかなぁ?俺の嫁になりてぇのかい?」

「は、はいっ!子供の頃からの夢でした!

 それに今回、上様のお姿を拝見はいけんしてますますその思いが強くなりました!

 お嫁さんになりたいですっ!」


 リガーチャの目はキラキラ輝いている。

 ユリコが肩をすくめながら目をつぶり、首をゆっくりと左右に振りながら……


「これでまたあなたの……なんだっけ、ピチピチギャルハーレムだっけ?

 そのメンバーが増えるわね。良かったじゃないの」

「ユリコさん、違うっすよ。

 リガーチャさんは25歳っすから、ピチピチじゃないっす!」

「ぐはっ!……」


 ウェルリの言葉がリガーチャの心にクリティカルヒット!

 リガーチャが落ち込む。


「そう。ピチピチじゃない」

「う、ぐはっ!……」


 ジーの言葉がリガーチャの心に追い打ちをかけた!

 リガーチャのライフはもうほとんどゼロに近い。まるで口から魂が抜け出そうに見えてしまう。


「そうかぁ?俺はリガーチャはちょうどいいくらいにピチピチだと思うけどなぁ。すっごく魅力的だぜ」


 リガーチャのライフが一気に回復したかのように元気になる!?


「リガーチャさん、そのままがいいのでしたら別ですが……。ダーリンから加護をさずけられるさい若返わかがえらせてもらってはいかがでしょうか?」

「え?そ、そんなことがお出来になるんでしょうか?」


 リガーチャの目がらんらんとかがやく!


「ああ。それがいいっすよ。それでピチピチになれるっす」

「そう、名実めいじつともにピチピチギャルハーレムメンバー」


「あ……ああ。できるよ。ただし、生娘きむすめもどっちまうけど」

「だ、大丈夫です!私はヴァージンですからっ!」

「そ、そうか……それならそうしようか。今のお前さんが放つ大人の女性の魅力もてがたいんだがなぁ……」

「え?……」


 リガーチャになやむ表情が浮かぶ……だが、それは一瞬だった。


「わ、若返らせて下さい!お願いします!」


 リガーチャは両のこぶしかたにぎり、力がこもった言葉をはっした。

 俺は気圧けおされてしまう……


「お、おおぅ……わ、分かった。希望通りにしよう」


 リガーチャの顔にこれでもかっ!……というくらいの笑顔の花が咲く!


 一度は片付かたづけた野営用のテントを再び出してその中でリガーチャにハニー仕様の加護を授け、俺の庇護下に置いた。完全修復により彼女は16歳に若返った。

 リガーチャは他のハニーたちと談笑している。彼女は満面まんめんみをたたえている。


 ああ。もちろん、ハニー装備一式そうびいっしきを彼女にプレゼントしたのは言うまでもない。



 この後、彼女をきたえるために一緒にダンジョンに連れて行くことにした。

 リガーチャには当面、この町の統括神官をしてもらうつもりだ。彼女には毎日、俺たちのもとから転移で通勤してもらう。

 神殿騎士数名と、ゴーレムとミニヨンをそれぞれ数体、彼女の護衛として付けるつもりではいるが、彼女にもある程度は強くなってもらわないといけないと考えている。

 だから、しばらくの間はダンジョンの第7階層ボス部屋のロイヤル・ミノタウロスを

相手に神術等々の練習をしてもらう。


 他のハニーたちは練習、及び、実戦経験を積んだことでかなりレベルアップしている。個人差は当然出てきているが、全員がハニー仕様のステータス初期値よりもかなりレベルアップしている。

 いずれリガーチャにも他のハニーたちと連携れんけい攻撃こうげき等を行う機会があるだろうが、今のままだとレベル差が問題となりかねない……

 それゆえダンジョン第7階層ボス部屋では彼女をきたえることが最優先だと考えている。



 しかし、統括神官を決めるだけのつもりだったのに……、

 なんか知らんけどいつの間にか嫁がひとり増えてしまった。

 どうしてこうなったのか……???だ。



 ん!?次の統括神官になるつもりでいたグルガーが不服ふふくそうにリガーチャをにらみつけているぞ!?憎憎にくにくしげに見えるな。不服を言うわけでもないが……どうも気になる態度たいどだなぁ。


 こういうやからは絶対に何かしてくるだろう……。

 リガーチャや他の神殿関係者に何かちょっかいを出してくる前に手を打っておく必要がありそうだな。


「グルガー、お前さんは不服があるんじゃねぇのか?」

「ど、どうせ不服を申し立てても、私奴が統括神官になることはないんでしょう?

 でしたら、誰がなろうと一緒ですし、言っても無駄むだなんですから言いません」

「そうか……後で何か言っても一切いっさい聞かねぇぞ、それに……」


 威圧する。


みょうな気は起こすなよ?妙な気を起こすと……殺すぜ。

 容赦ようしゃはしねぇからな。おぼえておけよ。これはおどしじゃねぇ。分かったか?」

「ひぃぃぃぃぃっ!わ、分かりました!分かりましたとも!」


 信用はできない。


『ナノプローブを転送注入。何らかの行動時に呼び出されるイベントに……』


 そう。いつものように、イベントハンドラをイベントに割り当てて、おのれの欲望に従って他者に危害きがいを加えたり、他者の金品を占奪せんだつしようとした場合は、灰のようになりながら霧散むさんするようにプログラミングしておいた。


「リブート!」


 グルガーがまるで糸の切れたマリオネットのようにその場にくずちそうになるのを"見えざる神の手"で支える……


「……はっ!?な、何が起こったんだ?」

「お前さんが何か良からぬ事を考えると灰になって死ぬようにしてやったんだ。

 だから、くれぐれも妙な気だけは起こすなよ。確実に……死ぬぜ」


 グルガーは逃げるようにこの場を去って行った。


 その日の夜グルガーは、ボラコヴィアの神殿、統括神官の執務室しつむしつしのもうとしたようだが……彼は執務室に忍び込む前に一瞬で灰になって霧散してしまったのだった。その様子は警備のミニヨンがすべて記録していた。



 ◇◇◇◇◇◇◆



 時を元に戻そう……グルガーが去って行った直後だ。


「あのう……私たちはこれからどうしたらいいのでしょうか?」


 シオン教徒の女性たちだ。


「どうしたらいいって、お前さんたちはどうしてぇんだい?

 シオン神聖国に帰りてぇってんなら転送してやるぜ」

「シオン様への信仰心がらいでしまいましたし、使命しめいたせなかった私たちがこのまま国に帰ったら待っているのは死だけです。

 他に行くあてもないですし、一体これからどうしたらいいのか……」


「この町に住んでもらってもいいが、問題はどうやって収入をるかだなぁ」


 彼女たちはプロパティ等を調整して一般的な町娘まちむすめ程度のステータスにしてある。 魔導士まどうしとして生きてきた彼女たちには手にしょくもなく、このままでは多分苦労することになるだろう。


 それに、彼女たちが元シオン教徒だったことは知れ渡っている。普通の職業にはけないと思った方がいいだろう。


 この町の人々の役に立つような仕事に就いてもらうことで人々に受け入れられるようにお膳立ぜんだてしないといけないな……そうしないと彼女たちは孤立こりつして最後には野垂のたにするようなことにもなりかねないからなぁ……。

 さて、どうしたものか……人々の役に立つ仕事で……元魔導士かぁ……

 そうだ!彼女たちには医師に……というか人々の怪我や病気を治す治癒ちゆ神術師しんじゅつしになってもらおう!


「どうだい?この町の神殿で治癒魔法師というか、治癒神術師として町の人たちの健康を守る仕事をするってぇのは?」

「え?でも……ごぞんじの通り私たちはもう一切いっさい魔法が使えないのですが……」


「ああ。だから、治癒系神術が使えるようにしてやろうと思う。

 ただし、女神シオンへの信仰をてる必要はねぇけど、形だけでも俺を崇拝すうはいするふりをしてもらう必要がある。じゃねぇと格好かっこうがつかねぇからなぁ。ははは」

「こ、こんな私たちにまでお慈悲じひをおくださいますとは……うう……」


「どうだい?魔導士だったお前さんたちには向いている仕事に思えるんだがなぁ?

 それに、この町には治癒系神術使いが少ねぇからお前さんたちがなってくれると助かるんだがなぁ。やってくれねぇかなぁ?頼むよ」

「た、頼むだなんておそれおおいです。こちらこそお願いします。そして、ありがとうございます。本当にありがとうございます!」


 とくもっうらみにむくゆ……っくきシオン教徒ではあるが、彼女たち12人の魂の色は悪くない。とくもっむくいてやることのほうがきっといいだろう……。


 町の人々も初めは敬遠けいえんするかも知れないが、彼女たちが献身的けんしんてきに取り組んでいくことで、そのうちにきっとみんなは彼女たちを受け入れてくれるだろう。


 彼女たちのプロパティ等を編集して、治癒系の上級神術のみが使えるようにすることにした。治癒系神術なら、たとえ悪意あくいいだいても攻撃には使えないだろう。


 まぁ……魂の色から判断する限りにおいては、万が一にも彼女たちが悪意を抱く可能性はないとは思うんだがな。



 今日、ここに国内でも神都に次ぐ規模きぼだい治癒ちゆいんが誕生した。

 数年後、他の町や外国から治療に訪れる人々によって落とされるお金がこの町の貴重な収入源となっていくのである……。



 ◇◇◇◇◇◆◇



 なんだかんだでお昼近くになってしまった。


 さあ、今度こそ本当にダンジョンに戻ろうと思っているところに逼迫ひっぱくした状況に置かれているのか、緊迫感きんちょうかんただよう念話が届く……


『神様!た、助けてーーっ!お願いです!助けてっ!』


 マップで確認するとこの新ボラコヴィアの西方10kmほどの位置にある村から発信された念話であることが分かった!

 どうやら50人ほどの盗賊とうぞくらしき集団におそわれているようだ!


「ハニーたち!俺はこれから盗賊に襲われている村へ助けに行く!

 ノアハ!翠玉すいぎょく!一緒に来てくれ!

 シェリー、指揮をってこの町を守ってくれ!

 オークドゥ!ハニーたちを頼む!守ってやってくれ!」

 "はいっ!"


 ノアハと翠玉が俺に抱きつく……


「それじゃぁ、行ってくる!……転移!」



 ◇◇◇◇◇◆◆



 "ひゃっほほほーーぃっ!""ガハハハハハハッ!"

 "きゃぁぁぁぁぁぁぁーーっ!””うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……"


「家に火をはなてっ!女子供を逃がすなよ!男どもは皆殺みなごろしにしろっ!」


 目の前にひろげられているのは盗賊たちによる蹂躙じゅうりん

 人口200人ほどのこの村はおおよそ50人ほどの盗賊たちによっていいようにみにじられている!


「翠玉!敵のボスを生きたまま捕まえろ!」

「はっ!」


 <<全知師!

  魂の色が赤以下の悪者たちをターゲット指定しろ! 急げ!

 >>承知!

  魂の色による検索を開始……検索完了!

  ターゲット指定開始……ターゲット指定完了!

  次の指示を待機!

 <<よし!後はこっちでやる。ありがとう!


「ボスを確保しました!」

「よし!翠玉、良くやった!そいつを連れてここに戻ってくれ!」

「はっ!ただちに!」


「ノアハ!これから盗賊たちを中央にある広場へ転送して、シールドでおおうから、烈火れっかかべくせ!」

承知しょうちしました!」


「転送!」

「転送を確認!……烈火の壁!」


 とまあ……こんな感じであっさりと盗賊たちを殲滅せんめつした。

 ボスを生きたまま捕らえたのは、コイツらのアジトへと案内させるためだ。


 その前に生存者を村の中央広場へと転送してからすべての火災を消火し……

 その後、焼けた家を修復して、盗賊たちに殺された者たちをすべて蘇生そせいさせた。


「ああ……我らが神よ。ありがとうございます!私は村長のルルメイです」

「ああ。ひでったなぁ?全員助かっているか確認してくれ」

「はい」


 村長のルルメイは後ろにひかえていた村人たちのほうなおり……


「誰か行方不明にゆくえふめいなっている者はいないか?」


 みんな首を横に振っている。大丈夫なようだ。


「この野郎!ぶっ殺してやる!」


 ひとりの村人の男がバットくらいの大きさと太さの木の棒……こんぼうを右手ににぎりしめて、盗賊のボスの方へとなぐりかかってきた。


 俺は男がろすこんぼうを右手ではじいて言う……


「待て!お前たちがいかるのはもっともだが、コイツにはアジトへ案内させる必要がある。だから手を出すな!いいなっ!」


 盗賊のボスになぐりかかってきた男はくちびる真一文字まいちもんじむすび、その目はボスの顔をにらけている。そして、その身体はわなわなといかりにふるえている。


「と、盗賊のアジトなんてどうでもいいじゃないですかっ!コイツをぶっ殺させて下さい!お願いします!」


「あのなぁ……アジトへ案内させるのには2つの理由がある。

 1つは、さらわれた女子供おんなこどもがアジトに捕まっているかも知れねぇからだ。捕まっていたらすぐに助けてやるつもりだ。

 そして、2つ目はコイツらの仲間がまだ残っているかも知れねぇからだ。残っていたら、すべてぶっ殺し、コイツらを根絶ねだやしにするつもりだ。

 だから、コイツをここで殺させるわけにはいかねぇんだよ。分かったか?」

「ん……ぐぐっ……くっそう!わ、分かりました」

「おお、そうか。すべてが終わったらコイツはサンドワームのえさにしてやるから、心配するな」


「へっへっへっ!誰がアジトの場所を白状はくじょうするかってんだ!バーカっ!」

「おのれぇーーっ!上様に向かってなんという無礼な!四肢しし粉砕ふんさい!」


 ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!


「あ、ノアハさんに先を越されてしまいました。ダーリンをバカにしたコイツには私もむくいを受けさせたいです。

 ですから……修復!……そして、おのれ愚行ぐこうを思い知れ!四肢粉砕!」


 ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!痛ぇ!痛ぇ!…………


 盗賊のボスは絶叫ぜっきょうするがすぐに気絶きぜつしてしまった。


「修復!」


 ベグシャッ!ブシューーーーッ!……ゴロンゴロン……ゴロン。

 "きゃぁぁぁぁぁぁぁーーっ!"


 ああ……またやっちまった……

 盗賊のボスの身体を元に戻したが、まだ気絶していたのでほほを軽くはたいて目をまさせようとしたのだが……やりすぎた。

 ボスの顔は頭蓋骨ずがいこつ陥没かんぼつしながらつぶれ、ちぎれ飛び地面を転がったのだ!


 頭がもげたあと一瞬の間を置いて吹き出したボスの血であたりは血の海になっている。村人の女性たちからは悲鳴が上がった。彼女たちは顔を両手でおおっている。


「う、上様……私たちに殺すなとおっしゃったのに……殺しちゃったんですね?」

「あ、ああ……つい力の加減かげんを間違えちまったぜ。は・は・は……」


 さっきこんぼうを振りかざした男から指摘されてしまった。


「修復!からのぉ~蘇生そせい!」

 "おおおぉぉぉぉぉーーっ!""き、奇跡きせきだ……"


 村人たちから尊敬そんけいの念がこもった感嘆かんたんの声が上がる。

 さっきも殺された村人たちを蘇生そせいさせてやったんだがなぁ……バタバタしているときだったから村人たちには理解できなかったのかな?


「はぁはぁはぁ……」

「てめぇのアジトにはさらってきた者たちはいるのか?あ、うそを言っても分かるから正直に答えた方が身のためだぜ、いいな?」


「ああ……いねぇよ……」


 嘘である。バカなヤツだ。


「四肢粉砕!」


 ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇようっ!


「嘘は通じねぇって言っただろう?バカが!……修復!」

「はぁはぁはぁ……い、いやす。いやす。女を3人捕まえてありやす。じょ、上玉じょうだまばかりだから正直に言うのがもったいねぇと思っちまいやした。はぁはぁ……」

「上玉?それじゃぁ、手は出してねぇんだな?」

「ああ……もちろんでやす。商品価値が下がりやすからねぇ……げひひひ」

「女性を商品だとぉ!?ふざけるなっ!四肢粉砕!」


 ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇっ!


「修復。……やいクソ野郎!それじゃぁアジトに案内してもらおうか?」

「はぁはぁはぁ……ああ、分かりやしたよ。ちゃんと案内しやすよ。

 だから、そのししなんちゃらってのはやめてくだせぇ~。頼みやすからさあ」

「ああ。てめぇが素直すなおに案内すればやらねぇよ。さあ、案内しろ!」



 ◇◇◇◇◆◇◇



 盗賊のボスに案内されたのは先ほどの村の北5kmほどの位置である。

 深い森の真ん中にある岩山いわやまふもとにアジトがあるらしい。


 岩山の麓にはちょっと見では分からない洞窟どうくつがある。その中がアジトであった。


 アジトにはまだ盗賊が10人ほど残っていたが、一々いちいち片付かたづけるのは面倒めんどうなので、すべてをターゲット指定して、サンドワームのえさにしてやったぜ。はっはっはっ!


「て、手下の者たちは一体どこへやったんで?」

「ん?気になるか?お前さんもすぐに仲間のもとに送ってやるから心配するな」

「え?そ、それはどこなんでやす?」

「砂漠地帯にあるサンドワームの巣の中だよ。今頃はきっとサンドワームの腹の中だろうがなぁ。ははは」


 盗賊のボスの顔は真っ青だ。ガタガタ震えてもいる。


「さあ、女性たちのところへ案内しろ。分かっているだろうが、妙な気は起こすんじゃねぇぞ?」

「わ、分かっておりやすって!も、もうあの痛みはりでさぁ。

 ほら、あそこでさぁ。あの岩陰いわかげろうがありやす。その中に3人ともおりやす」


 岩陰には確かに牢がある。

 そして、その中には隷従れいじゅう首輪くびわめられたぱだかの女性が3人座っていた。


 俺とノアハ、そして、翠玉すいぎょくが女性たちを助けるために急いで牢の中へと入ると、盗賊のボスは牢の外で立ち止まった。

 そして、俺たちがとらわれている女性たちに気をとられているのを見て……

 盗賊のボスはサッと身をひるがえして洞窟どうくつの出口方面へと走り出し、少し距離を置くと地面にあった突起物とっきぶつたおしたのだ!

 次の瞬間……


 ガラガラガラガラ……ズッドーン!、ガゴーンッ!ドガッ!ガラゴロガラ……


 ろうの前にある通路部分の天井てんじょう突然とつぜん轟音ごうおんと共にくずちてきた!


「ガーハッハッハッハッハッハァーーッ!死ねっ!」


 俺とノアハ、翠玉、そして、3人の女性たちは洞窟内どうくつないにあるろうの中にめにされてしまったのだった。


 タッタッタッタッ……


 盗賊のボスらしき足音が遠ざかっていく……


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