第0067話 処遇
ラヴ、ミューイ、ノアハ、ソニアルフェ、ウェルリ、ジーをまずボラコヴィアの神殿前広場、ユリコたちの近くに転送した後、俺は直接神殿内部へと転移した。
ボラコヴィアの神殿。俺が転移した場所は赤く光る魔法陣のど真ん中であった! まるで俺がその場所に転移することが分かっていたかのようだ!?
転移直後、魔法陣の中央でうつ伏せ状態に!
「ぐっ!?な、なんだ!?
「ひゃぁぁっはっはっはっはっ!待っていましたよ、
どうですか?自分の体重が20倍になった気分は!?あーははははははっ!」
この男がガギガガの一番弟子のギーノだ。ステータス情報にマイミィから聞いていたその名前が表示されている。
そして、彼の後ろにはロープで
彼等の
だが、すぐにその顔は驚きの表情に変わることになる……。
自分たちの目の前に座っていた5名の神官が消えたからだ!
お察しの通り、俺が神殿前広場のハニーたちのもとへと転送させたのである!
ガギガガの一番弟子、ギーノも
「……ふふふ…はははは……あーははははははっ!」
ギーノたちの顔色が青くなる……。
「どうした?
俺は
魔法陣が光っているし、相手はガギガガの一番弟子、重力系魔法使いだから多分強重力場を生成しているんだろうなぁと思って演技してみただけなのだ。
「ば、バカなっ!?に、20倍の重力に
「あははは、笑えるなぁ。リアクションがお前の
さすがは
「な、なに?そ、それはどういう意味だ?」
「ああ?てめぇはまだ知らねぇのか?俺がこの町に来る前にお前の師、ガギガガを
「なんだって!?き、
魔法陣が作り出す重力場に、更に重力場を重ね合わせてきたようだ。
もう一回からかってみるかな?さすがに二度は
「うぐっ……」
「師匠の
「うぐぐ……く、くそぅっ!
…………な~んてね、ははは。もしかして……また引っかかっちゃった?
おばかちゃんでちゅねぇ~、ギーノくんは?あははは!」
「な、なに!?50倍の重力にも
「ぷぷぷっ!あーははははははっ!あーおかしいっ!
な、何を今更……ひぃーひっひっひ、俺がこの世界の神だって知ってんだろう?
て、てめぇだって、さっき俺のことを『邪神』って言ったじゃねぇか?あはは!
それを『人間じゃねぇ!』って、ぷぷぷっ! 俺を笑い死にさせるつもりか?」
「んぐぐ……く、くっそうっ!くそぅっ!くそぅっ!くそぅっ!おのれぇっ……」
この程度の
今日は色々あったのでハニーたちは少々疲れているだろうし、俺もなんか疲れを感じている。
だから、今夜は早めに休むことにしたい……とっとと
「転送!」
あのまま神殿でコイツらをぶっ殺しても良かったんだが、新しく作ったばかりの神殿が
「100倍重力場生成!」
ブ…ブブブブブブブブチャァッ!
一瞬でギーノたちは
「シールド展開!
死体は
ギーノも師匠のもとへ送ってやったのだ!まぁ、ガギガガと会えることはないのだがな……ははは。
◇◇◇◇◇◇◇
「なんか……あっけなさすぎて……つまんないわね?」
「ユリコ、つまらないってなぁ……ショーをやっているわけじゃねぇんだからな。
それにあんな
「まあね……でもほら、こういうのってさあ、主人公がピンチに
「あのなぁ……お前さん、転生してきたから実感が
「そ、そんなことは分かっているわよ!……でもね、この世界って日本と違って、死んでも生き返らせられるじゃない?だから、死に対する実感が湧かなくってね。セーブポイントから復活してすぐにやり直せそうな感じになっちゃうのよね」
『ゲームとかお話の世界を…』と言ってから、はたと気が付いた。
ユリコが日本で亡くなったのはかなり前のことである。家庭用のゲーム機もまだそれほど
「あれ?お前さん、セーブポイントって言葉を知っているんだな?」
「え?間違っていた?昔ほら、一緒に友達んちに遊びに行ったとき、テレビゲームしたじゃないの?覚えてないの?
私が敵にやられちゃって、最初からやり直そうとしたらセーブポイントからやり直せるってシンが教えてくれたじゃない?忘れちゃったの?」
ああ……思い出した。ものすごく昔の話なのでコロッと忘れていた。
彼女からすれば、死の前年のことだから記憶に新しいのだろう……。
俺が日本で死んだ頃のゲームをやらせたら……その進化に、ユリコはきっと腰を抜かすほど驚くだろうな。させられなくて残念だ!
「ああ、思い出した。悪ぃ、かなり昔のことなんでなぁ、すっかり忘れてたよ」
「なるほどね、そうよね。私が死んでからもシンは何十年と生きたんだもんね?
私との思い出も忘れちゃうわよね。ちょっと悲しいけどな……」
ユリコの表情が暗くなる。
「そうだよ、何十年も生きてきた。……お前さんのいない、まるで色がなくなってしまったかのような世界で俺ひとり……悲しみに
そして、しみじみと言う……
「こうしてお前さんに再会できて……ホントよかった。俺は
お前さんはちょっと変わっちまったからな、俺との再会はあまり
「そ、そんなことはないわよ。私も嬉しいわよ。ホントよ!」
このところ、ほんのちょっとだけユリコの
「ま、まあ、この話はこれでお
ユリコが視線を送った先には女性シオン教徒たちがいた。
すっかり忘れていた!どうしたものかなぁ……。
「シンさん、ユリコさん。お話が……」
「ん?どうした、マルルカ」
「はい。実はさっき、あそこにいるシオン教徒の女性たちと話をしたんですが……
彼女たちはシンさんによる数々の
マルルカはちょっとだけ口ごもってから続ける……
「あのう……彼女たちは殺さずに解放してやってはいただけませんか?
もちろん、彼女たちがやって来たことは
男性信者は
ある意味
「よし、分かった。彼女たちは解放しよう。
ただし!特殊能力はすべて消してごく一般的な
で、人の物を
マルルカがにっこりと笑う。
「はい。彼女たちには私から伝えますから、少々お時間を
「ああ、いいぜ。でも……今日はもう遅いから、明日にしてはどうだ?」
「分かりました。そうします。でも、彼女たちは今夜は一体どこに泊めますか?」
「そうだなぁ……彼女たち専用の宿泊用テントを作ろうかな」
ということで、神殿前の広場に新しくテントを
その中は入り口を入ってすぐにロビーがあり、そのロビーからビジネスホテルの部屋のような12の個室に
俺たちが泊まっているテントよりはかなり
なお、トイレはシャワートイレだから、このトイレを使ったら、この世界の他のトイレは使えなくなるだろうな。ふっふっふっ!
新しく作ったテントの地下にシールド発生装置を
もちろん、外からの
このテントで泊まることになっているシオン教の女性信者たちは皆、驚きを隠せないでいる。
外からはどう見ても2人用のテントにしか見えない。それなのに、テントの中は広々としていて、しかも、自分たちの宿泊用の個室まで用意してあるのだ。
初めて見て驚かない方が不思議というものだ。
「"あなたたちにとっての罪人"である私たちにこんなに良くしてくれるとは……」
そう言って泣き出す女性信者がいた。単純に喜んでいるようには思えない。
俺たちに対する少々の抵抗心と、心に生じた
『あなたたちにとっての罪人』という部分がちょっとだけ強調されていたことになんか引っかかりを覚えたから、俺はそのように思ったのだろうか?
立場や見方が変わると
人それぞれに、それぞれの正義と判断基準があると考えるのが論理的で自然だ。
だからこそ、単純かつ絶対的な善・悪の判断はできないと考えるべきである。
彼女はそういったことも
そして、彼女がこんな見方をしているとしたら、彼女がシオン教徒としてずっと共有してきた価値観が……善・悪の判断基準が揺らぎ始めているのだろうと思う。
「あのう……聞いてもいいですか?」
彼女を観察するように見ていた俺に気付いたのか、彼女が俺に話しかけてきた。
「なんだ」
「あなたはシオン教の存在自体を
「いや。そんなことはねぇよ。存在自体を許さねぇってことはねぇ。この世界では
「それではなぜ、私たちを
「おいおい。人聞きが悪ぃことを言うなよ。
お前さんたちが存在しねぇ女神シオンとやらを
女性の顔からは不信感が読み取れる。
彼女は
ちょっと心を
俺は彼女の瞳をじっと見つめて言う……
「最初に俺に
俺の嫁さんになる女性たちを
お前さん、もしかしてそのことは知らねぇのか?」
「そ、それは知りませんでした。
では、私たちの大聖堂の屋根を消滅させたのもあなたじゃないのですね?」
「攻撃を先に仕掛けてきたのはお前さんたちの方だよ。その報復と警告をかねて、大聖堂の屋根を消した。それをしたのは確かに俺だ」
「そ、そんなぁ……それでも大聖堂を攻撃することはないじゃないですか!?」
「ホント何にも聞かされていねぇんだなぁ……
最初は
「はい。確かにそうですが……でも、知りませんでした。私たちが一方的に攻撃を受けているものとばっかり思っていました」
「そりゃぁ、人間ってのは
「…………」
「それに……シオン教を許せねぇのにはあと2つ理由がある」
「え?まだ何か?」
「ああ、ある。ひとつはなんの罪もねぇ、平和に暮らしていた獣人たちを
「え?それは違います。獣人たちの暴力に苦しんでいた人族を助けて、その人々に
「へぇ~、そんな風に話をでっち上げているんだなぁ。
勝てば
「かてばかんぐん?意味が分からないのですが?」
「ああ……いや、歴史は勝者の都合がいいように書き換えられるってことだ」
女性は
「
「確かに国にいる獣人族はすべて奴隷ですが……人族を
「教育ってのは怖ぇなぁ……」
「え?でも、あなたの
「残念ながら…奴隷制度はある。俺が
女性の目には疑惑の表情が浮かんでいる。
「お前さんたちの国の貴族には、獣人族の女性を性奴隷にしているクソ野郎が多いことは知っているか?」
「はい。ほとんどの貴族様は獣人族の女性を性奴隷にしていますが、それが?」
「お前さんは、同じ女性として心が痛まねぇのか?
なんの罪も犯していねぇ女性たちが獣人族っていうだけで、男どものおもちゃにされているんだぜ?彼女たちの意思は全く無視されて……」
「そう言われるとちょっと……今までは当たり前だと思っていましたので考えてもみませんでした」
「俺の妻たちも獣人族の国にいたのにも
シオン神聖国の男どもは
彼女は知らなかったようだ。
「人族に、獣人族、エルフ族、ドワーフ族、ダークエルフ族、そして、魔族に……魔物だって神である俺にとっては大切な子供のような存在だ。俺がこの世界に
自分の子供を大切に思う気持ちはお前さんにも分かるだろう?」
女性はゆっくりと大きく
「それをてめぇらの欲望を満たすためや勝手な都合で奴隷にしたり、
みーんな、俺の大切な大切な子供たちなんだぜ?親の俺が許せると思うのか?
お前さんに子供がいたとして、その子がそんな扱いを受けたらどう思う?
絶対に許せねぇだろう?相手をぶっ殺したくなりゃしねぇか?」
「う……は、はい……」
「それが2つ目の理由だ。分かるだろう?俺の気持ちが……」
女性は
ダメ押しをしておこう……。
彼女を
「本当はもう1つシオン神聖国をぶっ
女性はコクリと
「だが、これから俺が言うことは絶対に他のシオン教徒には言うなよ?
じゃねぇとお前さんは消されちまうぜ?それでも聞きてぇか?」
「は…はい」
「実はな、俺の助手であるシオンという女性がお前さんたちの国に
「え!?め、女神シオン様があなたの助手?」
彼女の声が少々大きかったので『しーっ!』というようなジェスチャーをする。
つまり、俺は右手の人差し指を立てて口元へと持っていき顔をしかめたのだ。
彼女は『はっ!』としたかのような表情を浮かべた後、頭を下げた。
「そうだ。これまでお前さんたちが国で見てきた女神の奇跡は、そのシオンという俺の助手に無理矢理やらせたもんだ。彼女の意思とは無関係にな!」
「そんな……」
「シオン教徒たちが俺の大切なハニーたちにちょっかいを出してきたとき、本当はこの世界からお前さんたちの国を完全に消し去るつもりだったんだがなぁ……。
俺の大事なシオンが
女性は
「俺の助手シオンはな、お前さんの国の教皇を初めとする上層部の人間の食い物にされちまっているんだ。上層部のクソどもが甘い汁を吸いたいがためになっ!」
女性はわなわなと震えている。
「だから、女神シオンなんてのは実在しねぇんだよ。
俺の助手のシオンをいいように利用して、女神をでっち上げているんだ」
「…………」
「どうだ。この事実を聞いてもまだシオン教徒を続けられるのか?」
「あ、あなたが本当のことを言っているとは限らないじゃないですか!?」
「そう思うんだったらそれでいいさ。どう思おうがお前さんの勝手だからな。
もう俺はなにも言わねぇよ……好きにすればいいさ。
だが、今聞いたことは人には絶対に言うなよ? お前さん……消されるぜ」
「ひぃっ!」
「ユリコ、マルルカ、マイミィはこのことを知っている。彼女たちなら大丈夫だ。
俺が言っていることに納得ができねぇんだったら彼女たちに話を聞いてみるのもいいかもな」
「ええ。もちろん聞いてみます。失礼します」
そう言うと彼女はマルルカのもとへと向かった。
彼女は、少なくともシオン教という存在そのもの、シオン神聖国の
◇◇◇◇◇◇◆
今日はホント色々なことがあって、すっごく疲れた……ような気がする。
神である俺の身体には自動修復機能等々があるので、
日本人だった頃の感覚がまだ残っているためか、これだけ行動したとしたらこれくらいは疲れるだろう……というイメージみたいなモノが、なんとなく
だからすっごく疲れたような気がしている。
そこへシオリから念話が入る……
『ダーリン、今そちらへお邪魔してもよろしいでしょうか?』
もう何もしたくはないし、考えたくもない気分だ。できることなら、すぐにでも眠りたい……。
だが、あの心優しくて気配りのできるシオリが、夜分にこんなことを言ってくるくらいだから、何か重大な内容なのだろう……
『ああ、いいよ。おいで』
『はいっ!転移!』
シオリは転移してくるや否や、すぐに俺に抱きつき、俺の顔をうるうるした目で見つめる……。
不思議だ。彼女の顔を見ただけで
疲れている感覚はどこかへと押しやられてしまう……今は彼女と会えて良かったという気持ちの方が
「ダーリン、寂しかったです。会いたかった……」
「ああ、俺もだ。なんか何ヶ月かぶりの再会のような気がするぜ」
シオリがいきなり
ちょっと驚いたが、その求めに応じて
先ほどまで疲れていて何もしたくなかったというのに、そのままもう一段階進みそうになってしまう……
だが、なんとか
彼女は重要な案件を持ってきているはずだ。こんなことをしている場合じゃないのではないかという考えが理性を勝利へと導いたのだ。
「ずっとお前さんとこうしていてぇんだけどなぁ、なんか重要な知らせがあったんじゃねぇのかい?」
シオリが"はっ"と我に返る。
「そうでした! も、申し訳ありません……。
おギンから報告があり、シオン神聖国の軍隊が、獣人族国家ニラモリアとの国境近くに集結しているとのことでした。その数は今現在でおおよ40万人。まだまだ増加中らしいです。どうやら、ニラモリアへ攻め込むつもりらしいとのことです。
それでお疲れのところを大変恐縮に
「そうか。すぐに知らせてくれてありがとうな。助かる。
ふぅ……シオン神聖国めっ!ったく!次から次へと問題を起こしやがるなっ!
俺は近いうちに嫁さんを決めるために首都ニラモウラへ行く予定だったんだが、まるでそのタイミングを
ホント、腹の立つヤツらだぜ!」
「それでどうしましょう?
「そうだなぁ……俺はまだ
シオリ、悪ぃが、俺がニラモリアに入るまではお前さんにこの件を任せてもいいかなぁ?」
「はい、ダーリン。私にお任せ下さい」
「いつも悪ぃなぁ。お前さんだけが頼りなんだ。すまねぇな」
「いえいえ。ダーリンのためですから。うふふ」
「ありがとう。それじゃぁ俺がニラモリアに入るまでにヤツらが
「はい。それで申し訳ありませんが、国境警備のためにミニヨンを1万体ほど配備していただけませんでしょうか?」
「ああ、いいぜ。お安いご用だ。ちょっと待ってなぁ……」
ミニヨンを順次、計1万体起動し、それらすべてがシオリの指揮下に入るようにするためのマクロをプログラミングした。
1体ずつ起動と設定を手動でしていては大変なので、マクロを組んでミニヨンを順次自動的に起動させ、設定処理も同時にさせるのである。
起動後は順に、シオン神聖国とニラモリアの国境付近に転送されるようにもしてある。
「はい。できた!それじゃぁ、
マップ画面を空中に表示させて俺とシオリは衛星からの映像と共に見る……
ミニヨンたちは指定通りに国境に沿って配置されることを確認するためだ。
マクロ実行開始後数分でミニヨンたちの国境線沿いへの配置が完了した。
「ダーリン、シノに国境周辺の獣人族たちを
「そうだな。それを忘れるところだったぜ。さすが、シオリだな。頼りになる」
「い、いえいえ。うふふ」
シオリは嬉しそうだ。
「悪ぃけど、そっちの方も頼めるか?」
「はい。もちろんです」
一通り打ち合わせが終わると、シオリは
俺の方もシオリと離れたくない気持ちが心の中を支配していた。
シオリがもう帰ってしまうのか……と考えるや否や、どこかへ行っていたはずの疲労感がどっと押し寄せてくるのを感じた……
シオリは、そんな俺の
修復神術は俺の身体には全く不要で単なる気休めにしかならないはずなのだが、なぜか疲れが吹っ飛んだ!……ような気がした。不思議な感覚だ。
シオリは本当に
俺は
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます