第0062話 バジリスクの恐怖

 ズガガガガガガガガガガッ!ズガガガガガガガガガガッ!


 ボス部屋に入るや否や、待ち構えていたロイヤル・ミノタウロス10体によって斧で攻撃されたのだ!そして、それが延々えんえんと続いている!

 ヤツらは10頭で俺を取り囲むように輪になっていて、ヤツら全員が思いっきり斧を俺に目がけて振り下ろし続けている!俺を叩っ切ろうとしているのだ!


 ヤツらの攻撃はうまく連携が取れている。

 反時計回りに、並んでいる順に、順番にタイミング良く斧を振るっていくのだ!


 ものすごい威力の攻撃がずっと続いているが取り敢えず今のところは無傷だ……

 極薄シールドがすべての攻撃を完全に防いでくれている。



 なぜこんなことになったのかを説明しよう。


 パーティーメンバーのすべてを覆うシールドを展開した状態では、ボス部屋への入り口を通り抜けることは不可能だ。

 それで、まずは俺だけが入り、直径20mほどのドーム状のシールドを展開してからメンバーを呼び寄せようと考えたのだが……


 普通ならボス部屋に入ってから魔物やボスが登場するまでには、インターバルがあるはずだ。ユリコとヴォリルが戦ったボス戦の時も実際にそうだった。

 なのでシールドを展開してからハニーたちをボス部屋のシールド内に呼び寄せる時間くらいは十分にあると踏んでいた……。


 だが……なぜか俺がボス部屋に入るとすぐに扉は勢いよく閉じ、いきなり攻撃を受けることになってしまったのだ!


 一旦閉じられた扉はボスを倒すか俺が死ぬまで開くことはない。


 そうであるがゆえに、ここでの戦いに決着がつくまでは、仲間をこのボス部屋の中に呼び寄せることは不可能となる。そう、普通は……だが。


 ご賢察の通りである。そう……俺たちには転移・転送能力がある!


 転移・転送は亜空間内を移動するため、この時空間におけるどんな物理的障壁も役には立たない!そう無意味なのである!


 つまり、いつでもハニーたちを俺の側へと呼び寄せることは可能なのだ!

 ということで、とっととコイツらを片付けて、シールドを展開してハニーたちを呼び寄せることにしよう……と思ったのだが……


 うわっ!?


 ロイヤル・ミノタウロスの攻撃は、身体にまとった"極薄シールド"がすべて防いでくれていたのだが……このボス部屋の地面の方がえられなかった!


 俺はまるで"くい"ででもあるかのように地面にどんどん打ち込まれてしまう!?


 ヤツらのおの鋭利えいりな刃をしているにもかかわらず、俺を斬ることはできず、ただ打撃を与えるだけの……まるで金槌かなづちのようになってしまっている。


 気が付くと……俺は頭までスッポリと地面の中にまってしまっていた!

 完全に地面に打ち込まれた杭のような状態だ!


 土属性神術による地形操作で地中に横穴を掘りながら進み、俺がいた場所を取り囲んでいるロイヤル・ミノタウロスたちの背後に回って地面から脱出した。


 俺に攻撃してきた10頭のロイヤル・ミノタウロスたちは全員、俺がいた場所に空いている穴の中をのぞき込んでいた。

 俺はその中の一頭に近づき、ぽんと肩を叩き、念話で話しかけた……


『よう、兄弟!あそこには一体何があるんだ?』

『おう!兄弟。攻め込んできたクソガキがあそこにいるはずなんだがなぁ……

 ん?兄弟? えっ!?』


 そのロイヤル・ミノタウロスは俺の方をチラリと見たが直後に二度見にどみした!


「……※△■?○!◎□※$%#!」


 暫く俺の顔をポカンと見た後、我に返ったのか何やら大声で叫ぶ!

 すると他のロイヤル・ミノタウロスたちが一斉にこちらを向いた!


「ウインドカッター×10!」


 相手が攻撃態勢に移るのを見て、即座に風の刃を頭数分放ったのである!


 シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュンッ!

 ブッブブブブブブブブブシュンッ!

 ボッボボボボボボボボボンッ!


 風切り音がし、すぐにロイヤル・ミノタウロスたちの首が切断される音が!……

 最後は首を切断されて果てたロイヤル・ミノタウロスがそれぞれ『ボンッ!』と音を立てながら黒い煙のような状態になってから霧散むさんして消えたのだった!



 あれ?ボス部屋の魔物って、死体が残らないのか?

 後片付けが要らないのは助かるが、普通の冒険者たちは泣けてくるだろうなぁ?

 骨折り損のくたびれもうけ……だよなぁ。


 俺は魔物がドロップするアイテムにも魔物の身体から取れる素材にも全く興味はないが、普通の冒険者たちはクエスト報酬の他、それらの素材等を換金したりして生計を立てているから、魔物の死体が残らなければ死活問題になる。



 さてと……ボスはまだ出て来ないようだから、今のうちに……。


 俺を中心とした半径20mほどの半球、つまり、ドーム状の完全防御シールドを展開した。このシールドは発生装置によって展開されている。

 なぜならば、俺がシールド外へ打って出なければならないような場合も想定したからである。


 そして、長期戦も視野に入れて野営用のテントも一応用意しておくことにした。


 なお、さっきのようなこともあるので、シールドでカバーできるエリアの地盤も強化しておいた。こうしておけばまず敵の攻撃で、シールドごと地面にめり込んでいくようなことはない……多分。


 さあこれでハニーたちを呼び寄せる準備は完了だ。


 ここで一息ついて、あたりの様子を確認する……地面は所々コンクリートをぶちまけたようになって固まっている?


 ボスが吐き出した超速乾性コンクリート液が固まったんだろうなぁ……。

 ん?なんだあれは?


 周りを見ると、石筍せきじゅんのようなものがそこかしこにある……。


 石筍せきじゅんのようなものの表面が一部がれたものがあったので、気になり、近づいてそれをよく見てみると、なんと、中には人のよろいのようなものが見える!


 えっ!?もしかして……これはコンクリートめの人なのかっ!?


 ここにある石筍のようなものはすべてボスにいどみ、石にされてしまった者たちのようだ。石筍のようなものは100個以上ある。100人以上は犠牲者がいることになる。


 犠牲者たちを蘇生そせいできないかと、すべての石筍について調べてみたのだが、魂が残されていて蘇生可能なものは4個だけだった。

 つまり、4人……4人だけしか蘇生できない! その他はもう既に魂が遺体から離れ去ってしまっている。だから蘇生は不可能だったのだ。


 その蘇生可能な4人はすべて女性だった。被害にったのは俺たちがこの階層にやって来る数日前といったところだろう……。

 この4名の魂が"輪廻りんね転生てんしょうシステム"へと送られるまでにはまだまだ時間がある。


 今すぐ蘇生しなくても魂が消えてしまうことはないので、まず先にハニーたちをこちらへ呼び寄せることにしよう……。



『ハニーたち。こちらの準備が整ったので今からお前さんたちをこちらへ転送するつもりだが、準備はいいか?』

『"はいっ!"』

『それじゃぁ、転送するぞ!……転送!』


 ハニーたちがシールド内に転送されるや否や、黒い煙の塊が10カ所に出現し、それらはすぐにロイヤル・ミノタウロスの姿になった!


 新たなロイヤル・ミノタウロスが10体出現したのだ!


 そいつらはすぐに斧を構えて猛スピードでこちらへと向かってくる!

 そして、シールドのすぐ前まで来ると、斧を振り下ろしシールドを叩き切ろうとしだしたのだ!


 "きゃあぁぁぁぁっ!"


 そのあまりの迫力にハニーたちからは悲鳴が上がった!


 ズガガガガッガガガガガガッ!ズガッガガガガガガガガガッ!


 先ほどの俺への攻撃とは違って連携は取れていない。それぞれがバラバラに斬りかかってくる。

 もちろん、すべての攻撃はシールドによって防がれているのだが、あきらめるということを知らないのかヤツらは延々えんえんと斬りつけ続けている……。


 ご苦労なこったなぁ……。



 <<全知師。

  さっき俺が殲滅せんめつしたばっかりなのに、もうロイヤル・ミノタウロスが復活してきたんだが、どうすれば完全に息の根を止めることができるんだ?

 >>お答えします。

  それにはこの部屋のボスを倒す必要があります。

  ロイヤル・ミノタウロスたちは、ボスを倒さない限り、ダンジョンマスターが予め設定したインターバルで自動的に再生成され続けます。



 なるほど……。

 ここのロイヤル・ミノタウロスは全滅後5分で再生成ってところなのかな?



 >>魔物の生成には『魔物レプリケーター』と呼ばれる"特殊なレプリケーター"が使用されており、その管理権はダンジョンマスターがにぎっています。

  ちなみに、この魔物レプリケーターはダンジョン管理システムに組み込まれた機能であり、ダンジョン管理システムと完全に一体化しています。

 ですから、たとえダンジョンマスターでも、魔物レプリケーター機能のみの切り離しは不可能です。魔物生成機能が使えるのはこのダンジョン内に限られます。

 <<解説をありがとう、全知師。



 ロイヤル・ミノタウロスたちの攻撃は、全知師と話している間も絶えることなく続いている。


 これはいい。ボスを倒すまでは無限に湧いて出てくるんだったら、ハニーたちのレベルアップにはちょうどいい獲物だ。

 しかし、ボスが出て来ないのはどうしてなんだろうなぁ?ん?


 マップで索敵すると……どうやらボスはこの部屋の最も奥の岩陰にいるようだ。


 じっとしていて動かない?もしかして寝ているのか?

 ロイヤル・ミノタウロスごときで俺たちの相手は十分務まるとでも思っているんだろうかなぁ?められたもんだなぁ。

 まあ、ハニーたちがある程度レベルアップするまでそこでじっとしていてくれた方がこちらとしては都合がいいかぁ……。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 攻撃の指揮はシェリーにお願いした。


 オークドゥ、ノアハ、ザシャア、ユリコ、翠玉すいぎょくの5人は、剣の腕の方もみがきたいということだったので、まずはみんなで先に攻撃神術のみの攻撃でミノタウロスの内の5匹を一気に倒して、その後5人がシールド外へ出て、それぞれが一頭ずつを剣で相手することになっている。

 その5人が戦っている間、他のハニーたちには治癒ちゆ系神術で5人の回復につとめてもらう。


 敵のSTRが100前後もあるため、さすがの5人もいつものような瞬殺というわけにはいかず、結構苦労しているようだ。特にオークドゥは……


「ば、バカなっ!一刀両断できないとはっ!」


 オークドゥがロイヤル・ミノタウロスの胴を水平にはらおうとしたが、腹筋にはばまれてうまくいかなかった!相手にはほんの小さな傷を与えただけだったのだ!


 名前を授けられた直後のオークドゥは力任ちからまかせによる攻撃ではなく、剣技レベルの高い者が見せる鋭い太刀さばきというか、剣さばきであったのだが、最近はどうもパワー頼みのところがあって剣が荒れているなぁとは感じていたのだが、どうやら俺が思っていた通りのようだ。


「オークドゥ!基本に立ち返れ!剣技だ!力任せではダメだ!急所をねらえ!」

「はっ!」


 俺の言葉にオークドゥは一瞬、はっとしたような表情を浮かべた。

 それ以後の彼の動きは格段に良くなった!太刀たちすじえが見られ始める!


「グハッ!」

 ズガーーーーンッ!


 翠玉すいぎょくだ!ロイヤル・ミノタウロスに斧で腹部をはらわれたのだ!

 彼女の身体は斧が当たった腰の部分でくの字に曲がり、そして、そのまま水平に斧が振るわれた方向に吹っ飛んで行ってしまった!


「大丈夫かっ、翠玉っ!?」

「………………」


 返事がない!?

 俺は即座に転移で彼女のもとへと向かい……彼女の状態を確認する。


「ふぅ~、びっくりしたぜ!?」


 どうやら彼女は攻撃されたことによる強烈かつ急激な加速度変化によって意識を刈り取られてしまっただけのようだ。

 極薄シールドを張って戦いにのぞんでいたので万が一にも怪我けがをするようなことはないとは思っていたが……この前のサイクロプスに吹っ飛ばされた時と同じことが再び起こってしまったのだ。


 しかし、かなり遠くへ飛ばされたものだなぁ……。

 あれ?あの岩って確か……マズい!ボスが寝ている場所じゃないか!?


 翠玉はボス部屋の最奥さいおうまで飛ばされてしまったのだ。


 ズズッ……ズズズッ……


 ボスが動き出したのか!?どうする?やっちまうか?

 チッ!まだ全然ハニーたちのレベルアップができないというのに……

 だが、もうしょうがないか……。


 取り敢えず気絶している翠玉を安全な場所へと移動させようと、お姫様抱っこをした時だった……何やら声が聞こえてくる!


「こわいよ……こわいよ……ど、どうか気付きませんように……」


 へっ?なんだ?ここにはボスの他にも何者かがひそんでいるのか!?


 2匹を相手にするにはこの状態、翠玉をお姫様抱っこしたままでは戦いにくい!

 彼女をみんながいる拠点きょてんへと転送することにした。


『もしもし、シェリー。聞こえるか?』

『はい。ダーリン。翠玉さんは大丈夫でしたか?』

『ああ、大丈夫だ。気を失っているだけだ。……それで、今からそっちへ転送するから悪ぃがテントの中で休ませてやってくれねぇかなぁ?

 ちょっとボスが動き出しそうなんでな。ここを離れられねぇんだよ』

『はい。分かりました。いつでもこちらへお送り下さい。お待ちしています』

『悪ぃな。ホント頼りになるぜ、ハニー。ありがとうな。それじゃぁ頼むな!』

『はい。うふふ』


「翠玉!……ダメか、まだ気絶しているようだな。

 ん?なんか頬が赤いぞ?大丈夫か?おい!……ダメだ。しょうがない、翠玉や、今から拠点へ転送してやるからな。そこでゆっくりと休むがいい……」

「え?ざ、残念……このままがよかったなぁ……」

「転送!」


 ん?転送直前に翠玉が何か言ったような気がするんだが……ま、今はそれどころじゃないな。ボス戦に集中しよう。


 そっと岩陰をのぞき込む……と、そこには巨大なバジリスクが身体を小さくして震えている!?


 何かの攻撃を放つための予備動作なのか!?

 それとも……まさか人を食っている最中とかじゃないだろうな!?


「おい!お前がこの部屋のボスか!?そこで何をしてやがる!?」

「ひぇぇぇぇぇっ!ゆ、ゆるして、ゆるして!ごめんなさい!ごめんなさい!」

 ズガッ!ガラガラガラガラ……


 バジリスクが急にビクッと動いたためにヤツが潜んでいた岩に長い尾があたり、その岩がくずれた!


 その崩れた岩の中でも最も大きな破片が飛んできた!


粉砕ふんさい!……おのれ!いきなり攻撃とは卑怯ひきょうな!」


 飛んできた岩の破片は神術で粉砕した!


「ち、違います!違います!ワザとじゃありません!

 ぐ、偶然、偶然なんです!ゆ、許して下さい!許して下さい!ゲロゲロ……」


 そう言いながらボスとおぼしきバジリスクは、口から『超速乾性コンクリート』の液体を俺の頭の上に吐き出したのだ! すかさず俺は転移でそれを避ける!


 俺がもといた場所にはコンクリートの石筍ができていた!


「違うだの、偶然だのと言いながら、俺の油断を誘い攻撃してくるとはなっ!

 ますますもって卑怯なヤツだなっ!」

「ほ、本当なんですよぉ~。ぐ、偶然なんですぅ~。私、人間が怖いんですよぉ。あ、あまりの恐怖に吐いちゃったんです……うっ……ゲロゲロ……」


 バジリスクがまた超速乾性コンクリートを吐き出した!?


 げろ……なのか?……超速乾性コンクリートって、バジリスクのげろ?

 あ……バジリスクの下が濡れている?失禁したのか?

 俺と対峙たいじして恐怖と緊張のあまり……ってことか?おいおい……うそだろう?

 なんか拍子ひょうしけしちゃうなぁ……。


「お前は俺たちと戦う気はねぇんだな?」

「は、はい!もちろんですぅ。すぐに扉を開けますんで、どうか早急さっきゅうに出て行ってもらえませんでしょうか?お願いします」


「おいおい。お前さんそんなんで大丈夫なのか?」

「え……ええ、まあ……。ダンジョンマスターにはいつも怒られるんですが、私は争いごとが嫌いでして……」


「でもなぁ、信じられねぇなぁ……そこら中にコンクリート詰めの人間がいっぱいいる?ある?が、あれはお前がやったんじゃねぇのか?」

「そ、そうですが、戦うのは嫌だからサッサと通って下さいとお願いしているのになぜかみんな斬りかかってきて……怖くなって吐いちゃったらあんなことになってしまったんですよぉ~。不可ふか抗力こうりょくってヤツぅ?」


「そんなに嫌ならなんでボスなんかやっているんだ?」

「私は何度も何度もマスターに辞表を提出しているんですが……後任が見つかり、引き継ぎが完了するまでは絶対に辞めさせるわけにはいかない!の一点張りで……辞めさせてもらえないんですよぉ~。ぐっすん……」


 ブラックだ。ダンジョンマスターはクソ上司だ!いやクソ経営者か?


「そうか……まあ、もう少しの辛抱だ。俺が今のダンジョンマスターをぶっ殺して新しいマスターになるから、それまでは我慢しろ」

「え?無理無理無理!彼女、ものすごく強いですよぉ~」


「大丈夫だ。ほれっ、見てみろ!俺はこういう者だ」


 眉間みけんの印を輝かせた。


「え?う、上様ですかっ!?ははぁーーーっ!」


 バジリスクはこうべれる……


「ああ、いいよ。そんな格好は疲れるだろう?普通にしていいから」

「はいっ!ありがとうございますっ!」


「そんなに緊張しなくてもいいから。また吐かれるとたまらんからなぁ……」

「ああ……神様!貴方様はなんてお優しい方なの……」


 バジリスクが俺にすり寄って来て俺に巻き付き顔をペロペロとめだした!


「ちょっ、ちょっと待て!」


 失禁してびたびたになっている身体に巻き付かれ、げろを吐いた口でペロペロと嘗められている……正直、あまりいい気持ちはしない。


「浄化!」

「うわっ。あ、ありがとうございますぅ~。本当にお優しい方……うふ」

「うふ?ってお前さん……もしかして女性なのか?」

「は、はいっ!」


 ステータス画面で確認していなかったから男だとばっかり思っていた。


「それでは上様、今扉を開けますからどうぞお通り下さいませ」


「あのさあ、ちょっと頼みがあるんだけど……いいかな?」

「え?なんでしょうか?内容にもよりますが……」


「そうだよな。俺の話を聞いて無理というのならあきらめるからそう言ってくれ」

「はい。分かりました。ああ…いつも無理矢理何かをさせられているので、なんか新鮮ですぅ……」


「お前さんも苦労しているんだなぁ……気の毒に」

「ううう……うわぁーーーん!上様ぁ~。なんてお優しいのぉ~」


 バジリスクの頭を撫でてやった。なんともまあシュールだ。現実とは思えない。


「頼みっていうのは……。もうしばらくここでロイヤル・ミノタウロスたちと戦わせて欲しいんだよ。俺の連れたちのレベルアップをしてぇんだよ。だめかな?」

「なーんだ。そんなことですかぁ?どうぞどうぞ!心ゆくまでごゆっくりどうぞ!

 あのう……私も見学していてもいいですか?」


 ロイヤル・ミノタウロスたちはバジリスクの部下ということになっているのに、全然言うことを聞いてくれないらしく、ボコボコにされるのを見てスカッとしたいとのことらしい。


 どう考えてもこの子はボスの器じゃないよなぁ……。


「ああ。もちろん。それと後でみんなを紹介するな。えーと、名前はあるのか?」

「いえ。残念ながら名前持ちではありません。上様がマスターになられたら、私に名前を付けて下さいませんか?」

「ああ。いいぜ。なんなら今から付けてやってもいいが?」

「えっ!?本当ですかっ!嬉しいぃっ!是非是非!お願いしますぅ~」


 ここは"ドゥ"シリーズでいくかぁ……。


「よし!では命名する!お前さんは今日から『バジリドゥ』と名乗れ!」

「はい!ありがたき幸せに存じます!

 ……ああ……ち、力が……みなぎってきますぅ! 最高の気分ですぅ」


 さあどうだ!この子も進化したか!?……ステータスを…っと!

 おおっ!ロイヤル・バジリスクに進化したぞ!


「バジリドゥや。お前さんはロイヤル・バジリスクに進化したぞっ!

 今まで以上に強くなっちまっているから最初は戸惑うかも知んねぇがそのうちに慣れるからな。それまでは力加減とかに注意しろよ?」

「はいっ!気をつけますっ!」


 バジリドゥがもじもじしながら……


「あのう……ロイヤル・バジリスクというと、人型形態に変身できるはずなので、今試してみてもいいでしょうか?」

「ああ、いいぜ。やってみろ。多分、強く念じれば変身できるはずだ」

「はいっ!やってみます……うーん、うーーん!」


 バジリドゥの身体が青く光り出す!

 そして、すぐにその光は収まり、巨大な身体は一瞬で収縮して人型をかたちづくる。


 すごい美人だ!身長は170cmくらいか?腕や足に所々うろこのような模様が見られるが、肌は白く髪はブルーのストレートヘア。

 耳は人間と変わらないが、目は金色である。

 蛇のような目になるかと思っていたが、色は金色だが人間の目と変わらない。


「服等を装着!」


 魔物が人型になったのだ。当然全裸だったので目のやり場に困った俺はとっとと服を着せてやったのだ!


「うわぁっ!嬉しいっ!服を着せて下さったんですね!?

 あ、ありがとうございますっ!あのう……私…どうでしょうか?」

「いやぁ~すげぇ美人だ!自信を持っていいぞ!」


 バジリドゥの顔にパッと笑顔の花が咲いた!

 う、美しい…クラクラするぜ!



 ◇◇◇◇◇◇◆



「ただいまー」

「お帰りなさ……あーっ!だ、ダーリンがまた新しい嫁を連れて来たっす!」

「下半身がだらしないと警告します」


 ボス部屋入り口付近の拠点へと転移で戻ってきたのだが……バジリドゥも一緒に連れてきたので早速ウェルリとジーが絡んできた。


「嫁っ!はふっ!くー-ーっ!いい響き!ああ……そうなりたいっ!」


 なんかバジリドゥがひとりで盛り上がっている?


「いや。違う!この子はこのボス部屋のあるじだよ。つまり、ボスだ。

 俺たちの仲間になってくれた。だからみんな仲良くしてやってくれ!」


 バジリドゥががっかりする?


「でも、そういうことならやっぱりそのうち嫁になるじゃないですか!?」


 珍しくラヴが絡んできた。

 バジリドゥの顔に笑顔が戻る?


「あらあら、相変わらずお盛んなことね?またハーレムメンバーを増やしたのね?ホント、不潔よね」

「や、やっぱり性邪神ですねっ!?」


 ユリコとマルルカか……。もう疲れるから放置だな。

 バジリドゥの顔が赤い?


「ダーリン!助けて下さってありがとうございますっ!」


 テントの中から翠玉が飛び出してきて俺に抱きつく!

 バジリドゥの目には『なんだ?この女は馴れ馴れしい!』というような嫌悪感が漂う?他のハニーたちもジト目で翠玉を見ている?


「おお!翠玉!もう大丈夫か?」

「はい!お陰様でこの通りです。ありがとうございます!」


 そうこうしている内にロイヤル・ミノタウロスの殲滅が終わった。

 シールドの外からハニーたちがシールド内へと戻ってきたので、その戻ってきた彼女たちにも新しい仲間となったバジリドゥを紹介したが、皆、酷く驚いている?



 ◇◇◇◇◇◆◇



 ダンジョンマスターを倒すまでは、バジリドゥをダンジョンマスターの支配下に置いておこうかと最初は思ったのだが、女性をブラック組織の食い物にさせておくのも忍びない。

 それに、俺たちの仲間になってくれたことだし、このままにしておくのも気持ち悪いからサクッとダンジョンマスターの支配下から解放してやることにした。


「神である我が権限において他者によるこの者への支配権を剥奪はくだつし、その支配から解き放つ!……支配権の剥奪はくだつ!そして……解放!」


 バジリドゥが一瞬金色に光った!


「さあ、バジリドゥよ。これでお前さんは自由の身になったぜ。自由にどこへでも行けるぞ」

「うわっ!嬉しいっ!……あのう……上様たちとご一緒してはダメでしょうか?」


 ハニーたちはみんな『うん!うん!』と大きくうなずいている。


「ああ。いいぜ。改めて……よろしく頼むぜ」

「はい。ありがとうございますっ!みなさん、よろしくお願いしますっ!」


 ロイヤル・バジリスクになったバジリドゥは、


 ・口から吐かなくても超速乾性コンクリートをターゲットに浴びせられる神術。

 ・相手の身体を溶かす毒液をターゲットに浴びせられる神術。


 という2つの毒攻撃神術を自然と身に付けていた。

 もちろん口から吐き出すことも可能なんだが、できればそれはやめてもらいたいものだ。


 あれは見ているだけで気持ち悪くなるからなぁ……。


 彼女もパーティーメンバーになってくれたことだし、彼女にもハニーたちと同じ装備をプレゼントしたのはいうまでもない。



 ◇◇◇◇◇◆◆



 ハニーたちがロイヤル・ミノタウロスを相手にレベルアップに励む姿を見ながら俺は石化されていた4人の女性たちを蘇生させることにしたのだが……


 蘇生した女性たちから聞いた正体に驚くことになる……。



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