第0063話 無謀

 石化されていた女性たちを蘇生そせいさせることに成功した。


 彼女たちは蘇生後しばらくはボーッとしていたのだが、俺の顔を見るや『はっ!』としたような表情を浮かべて、全員が俺の前にひざまずいたのだ!


「おお!人族には珍しい、俺のことが分かるのか?」

「はい。上様。もちろんでございます」


 まさかすぐに俺の正体に気付くとはつゆも思わなかった。


「お初にお目にかかります。私どもは忍者部隊ムンライト、ギン隊長直属の部下でございます。私はノウと申します」

私奴わたくしめはマクと申します」

「サラマンです」

私奴わたくしめはダーバでございます」


「え?お前さんたちはおギンの部下だったのか!またどうしてこんなところに?」

「はい。私どもの隊長のギンより命令されて、このダンジョンを攻略しようとしているシオン教教皇側近の女が攻略によって一体何をしたいのか、その本当の目的を探るために彼女の跡をつけてここに参りましたが……しかし、不覚をとってしまいました。誠に申し訳ございません」


 彼女たちはうなだれ、肩を震わせている。


「謝らなくてもいい。しかし、大変な任務だなぁ。いつも苦労をかけてすまんな。

 お前さんたちがそうやって、一所懸命にがんばって集めてくれる情報にはいつも本当に助けられている。ありがとうな!

 いやぁ~良かったぁ!お前さんたちを助けられて本当に良かったぜ!」

「……もったい無いお言葉……うう……」


 ホントお前さんたちからの情報には助かっている。深謝するぜと心の中でつぶやく。


 彼女たちのような忍者部隊が他のヒューマノイド種族にもあると非常に助かるんだがなぁ……どうなんだろうなぁ?

 少なくともエルフ族にはそういった機関はなかったようだし、他の種族も多分、無いだろうな……。

 助手たちに聞いてみて、もしもまだ他の種族にこういった忍者部隊がないというのなら新設することにしよう……そうだ!今度おギンとおエンに相談してみよう!


 しかし、この子たちはすごい優秀なんだな。

 ロクな装備も無いというのにこの階層までたどり着くんだからなぁ。この子たちにも装備を一式プレゼントしようかな……。


 忍刀しのびがたなも作ってやろうかな。夜叉王丸やしゃおうまるに渡したようなミスリル製でいいかな。

 キャットスーツと亜空間収納ウエストポーチ、極薄シールド発生装置付指輪に、ミスリル製の忍刀しのびがたな一振ひとふりをおのおのに渡すことにしよう。


 彼女たちに必要以上の力を与えるのは避けねばならないので、フェイザー銃内蔵ブレスレットとティアラは渡さないことにした。


 おギンとおエンの装備も強化してやらないといけないな。

 キャットスーツとウエストポーチ、フェイザー銃内蔵ブレスレットとティアラも渡すことにしよう。いやティアラはハニーたちの手前マズいか……軽装ヘルム型に形を変えておこうかな。うん、その方が無難だな。


『おギン、おエン。聞こえるか?』

『『はい。上様。聞こえます』』

『今ちょっと時間を取れるかな?』

『はい』『もちろんでございます』

『それならちょっと俺のところまで来て欲しいんだが、可能か?』

『はっ!すぐ参ります!』『はっ!すぐに!』


 本当にすぐに彼女たちは転移でやって来た。


「おお!お前たち、無事だったか!よかった!定時連絡がないから心配したぞ!」

「おギン様、大変申し訳ございません。任務に失敗しました」


「失敗?」

「はい。バジリスクに石化されてこのボス部屋でてましてござりまする」

「恐らく数日は死んでいたかと思いますが……」

「先ほど上様に助けていただいた次第です。申し訳ございません」


「上様。部下たちをお助け下さりありがとうございました」

「いや。非常に優秀な彼女たちを助けられて良かったぜ。お前さんにはいい部下がいるなぁ」


 おギンは女性たちと一緒に頭を下げて俺に感謝した。

 おギンは彼女たちを頭ごなしにしかりつけない。さすがだ。


「おギン、おエン。忙しいところを呼びつけてしまってすまん。

 彼女たちの無事な姿を見せてやりたかったのと、お前さんたち二人にこの装備をプレゼントしようと思ってな」


 そう言いながらキャットスーツ、ウエストポーチ、ブレスレットと軽装ヘルムを二人に手渡し、それぞれの装備について使い方等を説明した。


 んっ?おギンもおエンも涙を流して喜んでくれているな。なんかそんなに喜んでもらえるとかえって申し訳ないような気がしてくるなぁ。


「お、おい!そんなところで着替えるなよ!あのテントの中に大浴場があるから、後で部下のお嬢さんたちと一緒にひとっ風呂浴びてから着替えなさい!いいな?」

「「はいっ!ありがとうございます!」」


 俺はうらやましそうに指をくわえて見ている4人の部下たちの方に向き直り……


「いつも影ながらがんばってくれているお前さんたちにはこれを進ぜよう!」


 キャットスーツとウエストポーチ、極薄シールド発生装置付指輪、ミスリル製の忍刀をそれぞれに手渡した。


「ミッションに失敗した私たちです。これはいただけません」

「「「…………」」」


 そう言いつつも顔は『欲しい!欲しい!』と言っている。ははは。


「一度や二度の失敗でお前さんたちの普段のがんばりや、今までの貢献こうけん帳消ちょうけしになるこたぁ絶対にねぇよ。絶対になっ!

 いつもがんばってくれているお前さんたちへの褒美ほうびだ。俺の顔を立てると思って受け取ってくんねぇかなぁ?」


「ありがとうございます……ううう……うわぁーーーん!」


 4人とも号泣しながら何度も何度も頭を下げている……。


「いつも本当にありがとうな!これからもよろしく頼む!頼りにしているぜ!」

「「「「は、はいっ!」」」」


 おギンとおエン、4人の部下たちは全員が一緒にひとっ風呂浴びてからキャットスーツに着替えた。その他の装備も身に付けている。皆、非常に嬉しそうだ。


 彼女たちは俺に挨拶をすると、慌ただしくそれぞれの持ち場へと戻って行った。


 おギンの4人の部下たちは俺たちとの同行を強く希望したのだが……

 彼女たちはコンクリート詰めにされて窒息ちっそくする…というかなり苦しい死に方をして数日間死んでいたこともあるし、まずは神都にあるそれぞれの自宅に戻って、少なくとも一週間ほどはゆっくりと静養してもらうことにした。



 ◇◇◇◇◇◇◇



『ダーリン、今お話ししてもいいでしょうか?』


 忍者部隊の面々が帰って行った後、テント前に丸形テーブルを一脚と椅子を二脚出し、俺はバジリドゥと共にハニーたちのレベルアップの様子を見ていたのだが、そこへ獣人族担当助手のシノから念話が入った。


『ああ、構わないぜ。どうした、シノ?』

『はい。ダーリンから言われていた通り、后最終候補者きさきさいしゅうこうほしゃの3人と后候補最終選考に落ちた者たち、計7名全員を中央神殿に集めましたので、こちらへお越しいただけないかと思いまして……』


『計7名?今そこにいるのは7名かも知んねぇが、最終選考まで行ったのは全部で8名の間違いじゃねぇのか?

 ここに最終選考までいった候補者だったミョリムって子がいるぜ?

 もう既に俺のハニーになってもらったんだが……』

『え!?ねこ族のミョリムですか?』


『ああ、そうだよ』

『彼女の町へ行ったら、彼女は盗賊に襲われて死んだということになっていましたのでリストから外したんですが……。 よかったぁ!彼女生きていたんですね?

 ダーリン、彼女、すっごくいい子だと思いませんか?

 残念ながら最終候補者にはなれませんでしたが、私のイチオシだったんですよ、彼女は』


『ああ、彼女はすごくいい子だよなぁ。かわいそうに、シオン神聖国の戦士に無理矢理性奴隷にされていてなぁ、それを偶然今いるダンジョンの中で助けたんだよ。

 そしたら、后候補最終選考まで行ったというじゃねぇか。それを聞いて神である俺が言うのも変な話なんだが、なんか運命みたいなものを感じちまったぜ』

『ぐっすん……よかったぁ。本当に……彼女が生きていてくれてよかった』


『あ、それからな、その他にうさぎ族のラヴィッスという子と犬族のヴォリルって子も嫁にしたから……報告が遅れて悪ぃ』


『え?というと……今、獣人族の后は何人でしょうか?』

『シノ、お前さんの他に、ラフ、ラヴィッス、ミョリム、ヴォリル……それに自称妻の幼女、キャルとシャルだな。

 まぁ、キャルとシャルは嫁にはならねぇだろうがな。ははは。

 幼女二人を除くとお前さんを入れて全部で5人だな』


『おおっ!いいですね!ここにいる候補者たちが仮にすべて后になったとしたら、人族の后の数にかなり近づきますね? うーむ、いい傾向ですねぇ!』


 そうだった。神殿にも后になってくれるかも知れない子たちがいるんだったな。

 しかし、思ったよりも早く呼び寄せることができたんだな。想定外だ。

 ダンジョン攻略が終わっていないし……ちょっと困ったなぁ。どうするか……。


『そうか……后候補最終選考まで残った女性たちは思いのほか、かなり早く集まってくれたよなぁ? 遠路はるばる大変だっただろうなぁ……ありがたいことだ』

『はい。実は私が直接女性たちのもとへと転移でおもむいて、ダーリンの考えを伝えに行きましたの。そして、準備ができた者たちから順に転移で連れてきたんですよ。

 女性たちはみんな大喜びでした!もう全員が嫁になったようなものですね。

 ああ……私を入れて獣人族の嫁は12人になるのかぁ。うふふふふ』


『そ、そうか。忙しいところ早急さっきゅうに行動を起こしてくれてありがとうな。さすがはシノだな。……それじゃぁ、そちらへお邪魔する日については追って知らせるな。

 どうかそれまで、女性たちを十分に持て成してやってくれよ。頼むぜ』

『はい。分かりました!それではご連絡をお待ちしております。失礼します』



 まだ后が選ばれていないヒューマノイド4種族……


  ダークエルフ族担当者:シタン

  ドワーフ族担当者:シマ

  獣人族担当者:シノ

  魔族担当者:シズ


 以上4助手に対しては、あるお願いがしてある。

 それは、各種属が選んだ后最終候補者3名だけではなく、その后候補最終選考にれてしまった女性たちにも一緒に各種族の中央神殿に集まってもらうようにして欲しいというものだ。


 エルフ族の后選びが終わってから、次の獣人族の后選びまでに、少々間が空いてしまっているのは、この俺の『お願い』が原因である。

 最終候補者になれなかった女性たちのほぼ全員が、中央神殿から遠く離れた町に拠点を置く神子である。

 だから、再び中央神殿に集まってもらうためにはかなりの時間が必要なのだ。


 では、なぜそんなことをしてもらうかというと……


 エルフ族では、后最終候補者3名に選ばれなかった者たちに対してとんでもない人権じんけん蹂躙じゅうりんが行われていたわけなのだが、そういったことが、他の種族でも行われていないかどうかを候補者だったすべての女性たちに直接確認したいからだ。


 エルフ族の神殿幹部会議が決定して行った人権蹂躙行為……それは……

 候補に選ばれなかった女性たち全員に生涯しょうがい独身をつらぬかせ、たったひとりでの隠遁いんとん生活を強要するというひどいものだった。

 そして、それは当然だが……到底とうてい看過かんかできるものではない!


 そんな権利けんり侵害しんがいが他種族でも行われているのではないかと気が気ではないのだ。


 后候補最終選考に残った女性たち全員に、それぞれの種族の中央神殿に集まってもらって、最終選考時の様子、選考前後での扱いを直接彼女たちから聞き取って、女性たちが不当な扱いを受けていた場合、その行為を行った者を厳しく罰しようと考えている。


 もちろん、それだけのために彼女たちを呼び寄せるのではない。


 単なる聞き取り調査のためだけに最終候補に残れなかった女性たちまで再び呼び寄せるのではなく、人族の后たちとの数的なバランスを保つという意味もある。

 つまり、女性たち全員の意思を再度確認して、もしもまだ后になることを本当に望んでいるのであれば、その女性たちもすべて俺の后になってもらうつもりでいるからだ。遠路はるばる足を運ばせるのは気の毒だが、そういった思惑もある。


 しかし弱ったな……ダンジョン攻略も終えていないし、どうしたものか……。



 ◇◇◇◇◇◇◆



「だ~りん!うわぁーーーん!シャルが!……シャルがぁ!」


 獣人族国家、ニラモリアへ行く件をどうしたらいいのかと思案していると突然、キャルが転移してきた!

 そして、俺に抱きつくと声を上げて泣き出したのだ!


「キャル、落ち着いて。どうしたんだい?シャルがどうかしたのかい?」

「シャルがぁっ!うえぇぇぇーんっ!」


 キャルをギュッと抱きしめる……そして、頭を撫でて落ち着かせようとした。


「さあ、落ち着いて話してごらん?どうしたの?」

「う……う…シャルがいなくなったの……」


 キャルの話をまとめると……


 キャロラインとローラ親子が、以前住んでいた家にまだ残っている荷物を取りに行くというので、キャルとシャル、そして、シェルリィにラティは手伝うつもりでキャロライン親子について行ったとのことだった。


 彼女たちはそれぞれが亜空間収納ウエストポーチを持っている。だから、大きな荷物であってもひとりだけで苦労せず、簡単に持ってくることはできる。

 ということで、キャルたちの手伝いは不要なんだが、神殿で退屈そうにしている子供たちを見かねたキャロラインは、気晴らしに連れて行ってくれたようだ。


 子供たちもキャロラインとローラ親子の荷物をそれぞれが1つか2つ、ウエストポーチに入れて持ち運び、街中をウィンドウショッピングしながら、神殿に徒歩で向かっていたらしいのだが、途中でシャルがいないことにキャルが気付く……


 みんなであわてて来た道を戻りながら探したのだが、どうしても見つけられない。

 これは一大事だと思ったキャルが俺のもとへと助けを求めに転移して来たということだったのだ。


「ううう……うわぁーーーん!どうしよう……シャルぅ、シャルぅ……」


 マップで探す……見つからない。

 これはいつものシールドがらみのようだな。シオン神聖国が関与しているのか?


 <<全知師。

  衛星を使ってシオン神聖国のシールド反応を神都内、及び、周辺地域で探せ。  そして、シールド反応が見つかったらその中にシャルの生命体反応がないかを調べてくれ!ことは一刻を争うかも知れない。大至急頼む!


 >>承知!

  シールド反応をサーチします…………神都東門からおおよそ100mの位置に反応を検知!シールド周波数は解析済のものです。

  対象は東へ向かっておおよそ時速20kmで移動しています。

  シールド内をスキャンします…………移動物体の正体は馬車です。

  馬車の周囲にそれぞれ人族男性が乗った馬が5頭並走しています。

  馬車内部をスキャンします……シャルの生命体反応を確認!

  ご安心下さい。シャルの状態はすべて正常です!

  なお、シャルの近くに7名の獣人族幼児の生命体反応を確認!


 <<よくやった!全知師!さすがだぜ!ありがとうなっ!


「キャル、シャルが見つかったからすぐにこっちへ転送するからね。安心おし」

「わーいなの!だ-りん、すっごぉ~い!でも…シャル、だいじょうぶかなぁ?」

「うん。大丈夫だよ。元気だから安心して」


 キャルの表情がパッと明るくなり、顔に笑顔が戻る。


『シャル。聞こえるかい?』

『うん!だーりん!きこえる!あ~よかったぁ~』


 シャルの状態が正常だということは分かっている。

 分かっているのだがどうしても聞かずにはいられない。そんなもんだよな?


『シャル、大丈夫かい?怪我してない?』

『うん!だいじょうぶ!

 あのね、あのね。さらわれちゃうとこ、みたの!

 それでね、それでね、シャル、たすけようとおもったのぉ。

 でもね、でもね、わるいおじちゃんが、このこをころすって……。

 だから、つかまっちゃったのぉ。

 だ~りん、たすけてぇーってなんどもおねがいしたけど……だめだったの。

 だから、だ~りん!たすけて!』


 シャルは一所懸命何が起こったのかを説明しようとし……最後に助けを求める。


『うん、分かった!今すぐそこにいる子供たちと一緒に助けてあげるからね!

 ……転送!』



『うわぁーーーん!だ~りんっ!こわかったよぉ~』


 シャルと無表情の子供たち7人が俺たちのもとへと転移して来た。

 シャルは俺の顔を見て張り詰めていた気がゆるんだのだろう、ポロポロと涙を流しながら飛びついてきた。


 相変わらず声は発しない……でも、怖かった思いを念話で伝えてきたのだ。


 その様子を見たキャルはシャルのためにサッと俺から離れて、シャルが俺に抱きつけるようにした。気配りができるいい子だ。


 そして、シャルが俺にひっしと抱きついたのを確認して、改めて俺とシャルとを一緒に抱くようにキャルは俺たちに引っ付いて来て泣いた……。


「うわぁーーーん!シャルぅ~、よかったなのぉ~。うえぇぇぇん!」


 二人を抱きしめた。そして、その後いっぱい頭を撫でてやった。


『だーりん……ごめんなさい……』


 俺は微笑みながら二度大きく頷きながら……


「シャル、ありがとうな。お陰で子供たちを助け出せたよ。がんばったね。

 でもね、今度からは、こういう時はどうしたらいいか聞いてね?」

『うん!ぜったいにそうする!』

「ホント、シャルが無事で良かったよぉ~!

 あのね、シャルがいなくなってね、みんなはとても心配してたんだよ。

 シェルリィもローラもラティもキャロラインもみーんな、心配してたんだよ。

 だから、後でみんなには一緒に『ごめんなさい』を言おうね?いいかい?」

『うん』


 シャルの話によると……


 キャロラインとローラ親子の家からの帰り道、シャルはみんなの最後尾を歩いていたのだが……路地裏の方から助けを求める子供の声が聞こえてきたらしい。


 シャルは声を発することはできない。

 だから、キャルたちにそのことを伝えたかったのだが伝えられず、助けを求める子供の声に切迫感を感じたシャルは、念話で呼びかけることにまでは頭が回らず、とにかく声の主を助けるために、声のした方へと高速移動したらしいのだ。


 そこには、犬族の幼児を今まさに連れ去ろうとしている男がいた!


 シャルは男の股間こかん極極ごくごくかる~くパンチを当て、さらわれそうになっている幼児を助けることに成功する!

 だがしかし!そこへ倒した男の仲間と思われる数人の男どもが、他の幼児たちをさらってやって来たのだ!


 男どもにとっては信じられないことだろうが……いや、シオン教徒ならシャルについての情報を把握はあくしていたかも知れないが……状況から男どもは泡を吹いて気を失っている仲間の男を倒したのが、目の前の幼女であると悟る……。

 男どもは攫ってきた子供たちを殺すとシャルをおどし、言うことを聞かせ、隷従れいじゅうの首輪をめてシャルも一緒に攫ったということだった。


 シャルは賢い子だ。

 自分たちがこれから連れて行かれるところには、他にも子供たちが攫われて来ているかも知れないとその時考え……

 それで、奴隷になったふりをして、男どもの"アジト"に着くまでは大人しくしていようと考えたらしいのだ。


 なぜシャルは隷従の首輪を嵌められても精神支配を受けていないのかだって?

 それは彼女が俺の加護によって精神支配耐性を得ているからだよ。



 しかし、無事だったから良かったが……ホント、きもえるなぁ。



 シャルは途中で何度か俺に念話を送ろうとしたらしいが、敵のシールドが邪魔をしており、俺の座標が特定できないためつながらず……こうなったら自分が敵を倒す以外ない…とはらくくったらしい。

 シャルがそんなことを考えていると、ちょうど俺からの念話が入ったということだった。


 無茶だ!無謀だ!こんな小っちゃな子がまさかそんなことを考えるとは!?


 こんなことなら攻撃神術の練習をさせておけば良かったかなぁ?

 いやいや、まだ小さな子供には教えない方がいいよな、やっぱり。


 戦えるという変な自信でも持ってしまうと逆に危険をかえりみなくなってしまいねないからなぁ……今でもその傾向があるから、やはりまだ教えない方がいいな!




 人攫ひとさらいどもの馬車の中には、子供たちそっくりのゴーレムを人数分作って、助け出した子供たちの身代わりにしておいた。

 ミニヨンも一体だけだが亜空間あくうかんひそませてヤツらを尾行させている。


 ゴーレムたちを身代わりにしたのは、人攫いどものアジトに着くまではヤツらに子供たちがいなくなっていることを気付かせないためだ。


 なぜヤツらをすぐに成敗せいばいしないかというと、シャルが考えたことと同じである。


 ヤツらのアジトには他にも攫われた子供たちがいるかも知れないし、他の仲間がいるかも知れないと考えたからなのだ。

 だから、このまま気付かれないようにヤツらにはアジトへと案内させて、もしも他にも攫われた人がそこにいた場合はその人たちを救出する。そして最後は、一味いちみ諸共もろとも一気いっきに成敗してやろうという腹でいる!



 シオン神聖国製のシールドを使っているし、子供たちを攫うクソ野郎どもだ!

 容赦は一切無用だ!腹を空かせているサンドワームのにえにしてやるっ!



 助け出した子供たちは全員、目はうつろで無表情だった。

 彼等の首には隷従の首輪が嵌められているのでそれが原因だと思われる。


 みんなかわいそうになぁ……早く隷従の首輪を外して自由にしてやろう。


「神である我が権限において、この者たちの奴隷契約を強制的に破棄する!

 ……加えて隷従の首輪の除去と消滅を命ずる!」


 子供たちの首に嵌められていた隷従の首輪が外れ、地面へと落下していく途中でバラバラになって霧散むさんした。


 自由になった途端とたん、子供たちの顔色は真っ青になり、涙をボロボロと流しながらガタガタと震えだす……

 そして、突然、大声を出して泣き出した!


 "ううう……うわぁーーーん!"

「さあ、みんな!もう大丈夫だよ!」


 ロイヤル・ミノタウロスを全滅させてみんなと一息ついていたマイミィがやって来る。子供たちが泣いているのを見て気になったようだ。


「その子たちはどうしたんですか?」

「ああ、攫われたのを助けたんだよ」

「え!?攫われた?あれ?ひょっとして神都エフデルファイにいるシオン教徒から助けたんじゃないですか?」


「シオン神聖国製のシールドを展開していたから多分そうだろうな。今、ヤツらは東に向かって移動しているようなんだが……なんか知っているのか、マイミィ?」

「はい。多分彼等はここにやって来ると思いますよ」


「え?そうなのか?」

「はい。攫ってきた獣人族の子供たちの背中に重力操作系の魔法陣を刻み、神都へ送り返す計画があると聞いたことがあります。

 まあ……その魔法陣を刻む役をするはずだったガギガガ師は死んじゃったので、もう絶対に不可能ですけどね」


「なに?そうだったのか?あの野郎を始末しておいてよかったぜ!

 それで、魔法陣を子供の背中に刻み込んでどうするつもりだったんだ?」

「はい。神都で子供たちの背中に刻んでおいた魔法陣を起動し、重力操作系魔法を発動させて子供の周りの重力を強くして、子供諸共人族の一般市民を押しつぶして殺すつもりだったと思います。確かそんな計画です。

 そして、それを獣人族のテロ行為に見せかけるということでした。

 どうも獣人国家ニラモリアと神国との間に戦争を引き起こさせようと考えているようでしたよ」

「子供に……しかも、こんな幼い子供たちに自爆攻撃をさせるだなんてっ!絶対に許せんなっ!ヤツらは絶対にぶっ殺す!何が何でもなっ!

 早く来やがれっ!ふっふっふっ!ヤツらは飛んで火に入る夏の虫だぜ!」


 これはシャルの大手柄だな……。

 しかし……シオン教徒ってのは、本当に人間のクズだなっ!


「マイミィ、貴重な情報をありがとうな!いやぁ~お前さんが仲間になってくれて本当によかったぜ!ホント、感謝するぜ!」

「いえいえ。お役に立ちましたら幸いです」


 今回の件でますますシオン神聖国を国ごとこの惑星から消し去りたくなったぜ!


 ロイヤル・ミノタウロスたちが再生成されたのでマイミィはハニーたちのもとへ戻っていった。



 ◇◇◇◇◇◆◇



 助け出した子供たちとキャル、シャルを連れて一旦神都へと戻った。子供たちを親のもとへと返すためだ。


 子供たちの親はすぐに見つかった。


 なぜなら、子供たちの親が神殿騎士隊本部に、行方不明になっている子供たちの捜索願を出すためにちょうど訪れていたからだ。


 人族が支配しているこの神都においては、いざという時に少数種族の獣人たちが頼れるのは、この神殿組織だけなのである。

 神都の治安を守る衛兵隊は、神殿騎士隊の下部組織にあたるのだが、残念ながら人族ではない彼等の訴えには真剣に取り組もうとはしない傾向にある。


 人族というのはとかく自分たちと異なるものを差別するものだ。

 バージョンは異なってはいるが、同じ宇宙開発キットを使っているためなのか、地球に限らず、残念ながらこの惑星ディラックの人族もその傾向にあるのだ。


 人種のるつぼと化しているこの神都でさえ同様であり、人口比率が圧倒的に高い人族が幅を利かせているため他の種族は見下されているのが実情なのだ。


 皮肉なものだ。今回はこの差別意識があるがために幸いしたというべきか……。

 子供たちの親がまず最初に神殿組織を頼ってくれたことで、子供たちをより早く親元へと返すことができたのだ。



 キャルとシャルは、シャルが助けた子供たちが親と涙と喜びの再会を果たすのを見て、複雑な表情を浮かべている。

 だが、以前のように、うらやましがって泣きじゃくるようなことはない。彼女たちも日々成長しているんだと、しみじみと思った……。


 俺が二人を抱き寄せて、そして、二人の頭を撫でてやると、二人は俺の顔を見てにっこりと笑ったのだが、すぐになんとなく物悲ものがなしそうな表情になる……。


「みんながおとうちゃんとおかあちゃんにあえてよかったのぉ」

『みんなうれしそう。よかったぁ~』


 二人の胸中を察すると涙があふれそうになった……。



 ◇◇◇◇◇◆◆



 攫われた子供たちを親元へと返した後、俺は急いでキャルとシャルをマンション1階ホールで待ってくれているキャロラインとローラ親子、シェルリィ、ラティのところへと連れて行った。


 そして、シャルと一緒にみんなに深々と頭を下げてびる。キャルも一緒に頭を下げている。


 みんなは涙を流しながらシャルの無事を喜んでくれた。


「上様、申し訳ございません。私がついていながら……」

「いや、キャロライン。謝るのはこっちの方だよ。シャルが迷惑をかけちまって、本当に申し訳ねぇ」

「迷惑だなんてそんな……」

「すっごく心配させちまったな……ホント、申し訳ねぇ。この通りだ」


 俺とシャルがキャロラインに対して深々と頭を下げる……。


「そ、そんなことをなさらないで下さい。困ります」

「キャロライン、いつもこの子たちのことを気にかけてくれてありがとうな。

 どうかこれにりずに今後ともこの子たちのことをよろしく頼む」

「ええ。もちろんですとも。うふふ」


 キャロラインはにっこりと笑う……どうやら本心からの言葉のようだ。


 彼女はまるで我が子のようにキャルとシャルをかわいがってくれている。

 ラフもそうなのだが、彼女も俺のいたらないところをいつもフォローしてくれる、頼りになる女性だ。二人には感謝しても感謝しきれないと常々思っている。


「ありがとう、キャロライン。本当にありがとう!」


 キャロラインは慈愛じあいに満ちた笑顔を浮かべながら大きくうなずいた。



 ◇◇◇◇◆◇◇



 "きゃあぁぁぁぁっ!"


 キャロラインと子供たちを神都へ送り届け、ダンジョンに戻った直後である!

 地震だ!震度5弱といったところか……。


「転送!」


 すぐにロイヤル・ミノタウロスと戦闘中だったハニーたちを全員シールドの中へ転送させた。この世界の住人である彼女たちにとって地震というのは珍しいのか、全員がかなりおびえている。

 揺れのためなのか地面に座り込んで頭を抱えて動けないでいる。


 俺とユリコは日本人だったので地震には慣れている方だが、それでも震度5弱というとさすがに恐怖感を覚えてしまう。このシールドの中にいれば絶対に安全だということは分かっているのだが……本能的に身の危険を感じてしまうのだ。


 しばらくすると地震はおさまった。


 >>マスター報告します。

  震源はこのダンジョンの南100km、地下40kmです。マグニチュードは7.3、この地震による津波の心配はありません。


 ということはこのダンジョン内だけで起こった地震ではないということか……。

 しかし、『津波の心配はありません』って、こんな内陸部で津波の心配があるとしたら、この大陸のほとんどが水没するだろうけどなぁ……ははは……。



『シオリ、きこえるか?』

『はい。ダーリン、大丈夫でしょうか?地震による被害はありませんでしたか?』

『ああ、こちらは全員無事だ。そっちはどうだ?』

『はい。こちらの震度は3でした。

 今のところは建物の被害もなく、死傷者も出ていません。ご安心下さい』

『そうか。よかった!』


『ダーリン……心配して下さったんですね?ありがとうございます』

『ああ。実はな、地震が収まって真っ先にお前さんの顔が頭をよぎってなぁ。

 その後、ハニーたち全員の顔が走馬灯そうまとうのように浮かんだんだが、最初はお前さんだったんだよ。だから、お前さんにまず念話したんだよ。無事でよかったぜ!

 あ、でも、俺がお前さんを最初に思い浮かべたことは他のハニーたちには内緒にしてもらった方が良さそうだな?』


『うふふ。はい、言いませんとも。もちろん言いません。本当は、ものすごく言いたいんですが……我慢します。 ダーリン、嬉しいです。うふふ』

『そ、そうか。それじゃぁ、またな』

『はい。失礼します』


 プライベート時以外は、事務的でクールな対応をするシオリがこのような口調になるのはとても珍しい……。


 そんなことを考えていると、ものすごい数の思念?が頭の中に流れ込んできた!

 頭が爆発しそうなくらいの勢いだ!……頭痛がする!


 "神様っ!助けてっ!"


 どうやら地震の罹災りさいしゃからのようだ……すぐに救助に向かわねばっ!


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