第0017話 ソリテアの優しさ

 我々われわれくに、アウロルミア神国しんこく通称つうしょう "神国しんこく"。

 その北西部には "アエスオンギス" という大きな町がある。


 その町の神殿しんでんは、この国の7大神殿ななだいしんでんのひとつで、そこでソリテアは俺のきさき候補こうほ選出せんしゅつされたのである。


 彼女の実家じっかはその町からさらに西へ30km程行ったところにある、まずしい農村のうそん、タウトラドゥ にあるということだった。


 俺たちは アエスオンギス の神殿にはらず……

 ソリテアの実家がある "タウトラドゥ村" の近くのはやしに転移してきた。


 転移後すぐ、更衣室こういしつわりとして使用する"テント"を取り出し設営せつえいいし、その中に女性5人分の "町娘まちむすめふう" のふく生成せいせいして入れておく。


 神子みこ神殿騎士しんでんきし格好かっこうでは目立めだつので、俺をふくめて全員がアエスオンギスから来た町人ちょうにんといった "てい" をよそおうつもりなのだ。


「えーと、俺たちは "アエスオンギス" の町人ちょうにんよそおい、むらおとずれようと思う。

 で、このテントの中には町人ちょうにんふうふく人数分にんずうぶん用意よういしてあるから、まずは、それに着替きがえてしい。 着替きがえてみてもしもおかしな点があるようだったら言ってくれ。

 その場合は、すぐになおすから……」


 みんなは着替きがわると、たがいに町娘まちむすめとしての姿すがたに "違和感いわかん" がないかを確認し合ってから、おたがいに顔を見合みあわせながら、大きく"うん! うん!"とうなずき合った。


 どうやら違和感いわかんいようだ。


「この服装ふくそうなら大丈夫だいじょうぶだと思います。 シンさんの服も……大丈夫ですね」


 ソリテアが俺のまわりをぐるっと一周いっしゅうし、俺の服装ふくそうにも違和感いわかんいかを確認してくれた。


「ありがとう。 それじゃあ、行きますか?」

「「「「「 はいっ! 」」」」」



 むらには誰でも入れるようになっている……門番もんばんはいない。

 村の中央ちゅうおうにある広場ひろばまであしすすめると、村人むらびとたちがあつまって何やら話している?


 ソリテアは無言むごんで俺のうしろにかくれる!?

 俺の背中せなかれている彼女の手は小刻こきざみにふるえている?



「……ああ、もうダメだ。 これ以上小作料こさくりょうが上がったら生きていけねぇ」


去年きょねん値上ねあげしたばかりなのに、今度はそのばいにするだなんて……

 領主りょうしゅの野郎! 一家いっか心中しんじゅうでもしろって言うのか!」


「うちには娼館しょうかんれるようなむすめはいないし……もうここを出ていくしか……」


 ザワザワしている。


 どうやら小作料こさくりょう大幅おおはば値上ねあげされたらしい。

 ソリテアの家族だけでなく、この人たちも助けてやるか……。


 ……そう思った時である。


「あれぇ? 吸血鬼きゅうけつきじゃねぇかぁ? てめぇ帰ってきたのかぁ?」


「けっ! 縁起えんぎでもねぇっ! 赤毛あかげ悪魔あくまもどってきやがったのか!

 ……あっ、赤毛あかげおんながもう一匹いっぴきいるぞ! もう一匹いっぴき吸血鬼きゅうけつきれてきやがったぜ!

 ……ったくよぉ!

 小作料こさくりょうがるのも、こいつら疫病神やくびょうがみたからじゃねぇのかぁ!?」


 カッチーーン! 許せんクソどもだな! どうしてくれようか!?



 俺たちと同年代どうねんだいと思われる若造わかぞうが数名、こちらへと近寄ちかよってくる。

 彼等の手には、いつの間にか、こぶしだいの石がにぎられている!?


 ソリテアのふるえは一層いっそうはげしくなっている。


「大丈夫だよ、ソリテア。 俺が守るからな……」



「サッサと出てけ! このクソ疫病神やくびょうがみがっ!」


 若造わかぞうたちが一斉いっせいに、っていた石を俺たちの方へと投げた!


 直後、若造わかぞうどもが驚愕きょうがくする!


 自分たちがとうじた石が、俺たちに当たる前に "見えない何か" に当たり、はじばされてしまったからだ!


 タネ明かしをしよう。


 実は俺が "見えざる神の手" を10本出して、飛んできた石を次々つぎつぎはじばしてやっていたからである。


 ひとりの若造わかぞうの手が、俺のうしろにかくれている "ソリテア" をつかもうと、俺の前まで伸びる!


「やめんか! 無礼者ぶれいもの!」


 スケさんが サッと俺とソリテアをかばうように、若造わかぞうと俺たちのあいだ身体からだを入れ、伸びてきた男のうでつかんでねじ上げた!


 グシャッ! …… ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


 男のうでがっ!? …… スケさんにつかまれた部分がつぶれてほそくなっている!?

 しかも、スケさんがねじ上げたことにより、男のうでかたからもげてしまった!


「うわっ!」


 スケさんはひと声発こえはっすると、まるできたないものでもつかんでしまったかのように男のちぎれたうでほうげてしまった!


「しょうがねぇなぁ……修復!」


 俺はえず男の怪我けがなおしてやった。

 怪我けがなおったんだが、男は依然いぜんとして白目しろめいて気絶きぜつしている。


「な、なんてことしやがる! おうっ! みんな! 構うこたぁねぇ! やっちまえ!」


 したの男がやられたことに激高げきこうしたのであろう、リーダーかくと思われる若造わかぞうが、村人むらびともけしかけて俺たちをおそう!


 ……ああぁあ! 村人むらびと全部ぜんぶてきかぁ……やはりすくうのはソリテアの家族だけだな。

 こんなヤツらがどうなろうと知ったこっちゃねぇからなぁ。


 ソリテアの家族と一緒いっしょすくってやろうと考えていたのに……バカなヤツらだ。


 俺たちをかこむようにして、村人むらびとたちはジリジリとってくる!

 俺は彼等を威圧いあつする!


「えええいっ! おろものどもがっ! ひかええいっ!」


 一瞬いっしゅん突風とっぷうでもいたかのように、村人むらびとたちはったあと、地面にひれす。

 みんな、身動みむごきがれなくなってしまった。


「おい! そこのクソガキども!

 俺の大事な大事なソリテアとヘルガに、よくも "ひでぇ" ことを言いやがったな?

 それなりの覚悟かくごはできているんだろうな!?」


 俺は威圧いあつを強める!


「ぐっ、はぁはぁはぁ……ち、ちくしょう! ソリテア!

 や、やっぱりお前は悪魔あくまだ!

 こ、こんなヤツらをれてきやがって……。

 俺たちにこんなことをして、た、ただでむと思うなよ?

 お前の家族を村八分むらはちぶにしてやるからな! おぼえておけよ!」


「かぁーっ! まだ言うか、クソガキが! 四肢粉砕ししふんさい!」


 ぎゃあああぁあぁぁぁぁぁ!!


「ま、えず……修復!」


「はぁはぁはぁ……。 あ、悪魔あくまめ……」


 俺はこのリーダーかく若造わかぞうについて調べた。

 たましい履歴りれきを見たのである。 魂の色はオレンジ色。


 もしやと思ったが、やはり、こいつこそが主犯しゅはんだ!

 ちいさいころからソリテアをいじめていた連中れんちゅうたばねていやがった主犯しゅはんだったのだ!


 俺はいかりがげてきた。こいつだけは魂の色が何色だろうとゆるさん!


「さっきから聞いてりゃあ、勝手かってなことを "ギャアギャア" と"ほざき"やがって!

 誰が悪魔あくまだ!? たまひんいて、この眉間みけんの "しるし" をよ~っく見てみろ!」


「 !!!!! 」


「そうだ! てめぇが思ってる通りだよ! 理解したか!? クソガキがっ!」

「……」


「俺がこの世界の "神" だ!」


 クソガキの顔色かおいろがどんどん悪くなる。


「ソリテアと、ここにいる子たちはなぁ! み~んな! 俺のフィアンセだ!

 てめぇは、俺の大切たいせつな "フィアンセ" を罵倒ばとうしやがったことになる!

 今生こんじょうの最後に何かのこすことはあるか?」


「す、すみません。 ま、まさか赤毛あかげ悪魔あくまが……ぎゃあああぁぁぁぁぁあ!!」


 "見えざる神の手" で、例のごとく "かる~く" 両目りょうめいてやった。


「てめぇ、まだ言うか? …… 一応いちおう修復しゅうふく!」

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……」


「俺は全部知ってるんだぜ? てめぇが俺の大事だいじ大事だいじなソリテアを、ちいせえころからずーーっと! "いじめてる" ってことをなっ!」


 ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


 あ゛! 鼻がもげた! "見えざる神の手" で "かる~く" ひねっただけなのに……。


「めんどくせえけど……修復!」

「はぁはぁはぁはぁ……ど、どうか…お、おゆるしを……」


「い・や・だ・ね!

 てめぇは、ソリテアがいて"やめてくれ"って頼んでも、やめなかったよなぁ?

 『お許しを……』だあぁっ!? 今更いまさらむしのいいことを言うんじゃねぇっ!」


 ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


 うわっ!? クソガキのあたまかわけた!?


 ヤツが昔ソリテアにしたように、かみつかんでまわしてやったんだが……

 も、もちろん! "かる~く" やっただけだ……ぞ!?


「しょうがねぇなぁ……修復!

 今みてぇに、いやがるソリテアのかみって、まわしたよなぁ?

 どうだ? クソガキ! ソリテアの気持ちが "ち~と少し" は分かったか?」


「す、す、すみません。 すみません」


 俺はすごみをかせて、若造わかぞうにらむ!

 若造わかぞうは一瞬 "びくっ" としてからふるえ上がった。


「それに……ソリテアの家族を "村八分むらはちぶ" にするだとぉ?

 それは一番 やっちゃぁ いけねぇことだろう? たとえ誰であろうがな!

 しかも……俺の家族になる人たちだぞ? てめぇいい度胸どきょうしてるよなぁ!?」


「し、しません。 と、取り消します! 村八分むらはちぶには し、しませんから、お許しを」


ひらがえしは、いただけねぇなぁ?

 これだけ調子ちょうしぶっこいたことをしたんだぜ?

 まさか今更いまさらあやまってむとでも思っているんじゃねぇだろうなぁ?

 世の中、そんなに甘くはねぇぜ」


「す、すみません、すみません……う、うわぁ~~~…………」


 俺は "見えざる神の手" を出し、このクソ野郎をつかむと、そのまま真上まうえに向かって思いっきりげてやった!


 次に起こることは予想できる! だから、即座そくざにシールドを展開てんかいした!


 どれくらい時間が経っただろうか……

 数十秒といったところだろうか? ようやく男は落下してきた。


 上空じょうくうかぜ影響えいきょうか、この惑星わくせい自転じてん影響えいきょうなのか……

 投げ上げた位置からはながされて、広場ひろば中心ちゅうしんに向かって落ちてきた!?


 グワッシャ ベチャッ!!!


 クソ野郎は地面に激突げきとつすると、グチャグチャにつぶれてしまった!


 あたりには肉片にくへんと血がった!

 多分たぶんまわりは "ひどいてつさびしゅう" がしていることだろう。


 俺たちはシールドの中にいるので、当然、肉片にくへんも血もまったびることはない。

 もちろん、てつさびしゅうもしない。


 だが、フィアンセの女性たち5人は、目をそむけて青くなっている!?


「次は誰だ? ソリテアをいじめたヤツは俺が皆殺みなごろしにしてやる。 名乗なのり出ろ!」

「し、シンさん、も、もういいです。 みんなを…もう許してあげて下さい」


「しょうがねぇなぁ……。 ソリテア、お前さんはやさしいなぁ。なおしたぜ!」


 威圧いあつき、村人むらびとたちを自由じゆうにしてやる。

 村人たちの間に、"安堵感あんどかん" のようなものがただよう……。


「おい、てめぇら……今回だけは・・・・・、ソリテアの優しさにめんじてゆるしてやる!

 だが! 次は絶対ぜったい容赦ようしゃしねぇぞ! ソリテアやその家族にひでぇことしたヤツは、てまでもいかけて、かならず、ぶちころしてやるからな! よくおぼえておけ!」


 村人たちは、すごいいきおいで何度もうなずいている。


「かーっ! 皆殺みなごろしにしてぇなぁ~、くそぉっ!

 ソリテアさえめなけりゃなぁ……ああ残念ざんねんだ!!

 てめぇら、ソリテアには感謝かんしゃしろよ!」


 俺には、村人を皆殺しにする気なんぞ全くなかったのだが……

 いかにも "皆殺しにしたくてしょうがない" という演技えんぎをしておいた。

 『いいか忘れるな! ソリテアが助けてくれたんだぞ!』と、念押ねんおしするためだ。


 まぁ……ソリテアの家族がここを離れるということになったら、二度とコイツらと関わることはないだろうけどな。



 ちなみに…地面にたたけられて "グチャグチャ" につぶれてしまった"クソガキ" も蘇生そせいしてやった。


 ヤツの体中からだじゅうの"というすべて"を、ヤツが毛嫌けぎらいしていた"血の色"にした上でだが……なっ! はっはっはっ!


 しかし……俺もあめぇよなぁ~。


 でも、一度ぶっ殺してやったから……まぁ、いいかっ!

 これで今後、赤毛あかげをバカにすることはないだろうしな。


 なお、ヤツには、ソリテアが助けてやってくれと頼んだから "仕方しかたなく" 蘇生そせいしてやったんだと、その点をしっかりと強調きょうちょうしておいた。


 ヤツは、ソリテアの前で土下座どげざし、過去かこひど仕打しうちを謝罪しゃざいした上で、蘇生そせいさせるようにソリテアが俺にたのんでくれたことを、こころそこから感謝かんしゃし、れいを言った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 なんだかんだあったが、今、俺たちはソリテアの実家の前にいる。

 入り口のとびらは開け放たれていて、中から女性のすすり泣く声が聞こえてくる。


「……わ、私を娼館しょうかんに売って下さい。 そうすれば小作料こさくりょうはらえるんでしょう?」

「そ、そんなことは絶対にしない! してたまるか!」


「じゃ、どうやって小作料こさくりょうはらうのよ?」

「お前を娼館しょうかんに売るくらいなら、この地をてる! 余所よそへ行こう!」


「そんな……そんな簡単かんたんに、余所よそへなんか行けるわけないじゃないの!」

大姉おおねえちゃんに頼んでみたら? 神様のお嫁さんなんでしょ?」


「ラスラン、ソリテアには頼れないよ。 私たちはひどいことをしたからね。

 それに…ソリテアは、まだお后様きさきさまになったわけじゃないんだよ。

 お后候補きさきこうほに名前ががっているだけなんだよ」


「そうなんだよ。俺たちはソリテアをてたんだよ。 口減くちべらしのために……」

「そう、だから今更いまさら家族面かぞくづらなんてしちゃいけないんだよ。

 ソリテアに頼っちゃいけないんだ」


「それにね、ソリテアにとっては、今が神様のお后様になれるかどうかの一番大切な時なんだよ。 絶対に私たちが迷惑めいわくをかけちゃダメなんだ」


「じゃ、どうするの。 ううう。 もう一家いっか心中しんじゅうするしかないの?」



「ただいまーーっ!」


 俺はソリテアの代わりに、大きな声で帰省きせいしたことをげた。


「えっ? あ、あのう…どちら様でしょうか?」

「お父さん、お母さん、ただいま……。 セリーネ、ラスラン、元気?」


 ソリテアが俺の背後はいごからずかしそうに顔を少しだけ見せて家族に挨拶あいさつをした。


「「ソリテア!」」「「お姉ちゃん!!」」


「お義父とうさん、お義母かあさん、初めまして、私は、壱石ひとついし 振一郎しんいちろう と申します。

 ああ……この世界の神をしている者です。

 事後報告じごほうこく恐縮きょうしゅくですが、このたび、娘さんのソリテアさんと婚約こんやくいたしましたので、そのご挨拶あいさつうかがいました」


「「「「 か、神様!! 」」」」


「はい。そうです……って、はぁ~、丁寧ていねいはなかたで、かたってきちまったぜ。

 わりぃけど、いつもの調子ちょうしで話すことにするぜ、いいな?」


「「「「……!?」」」」


 みんな目が点になっている。


「……というわけだ。 お前さんたちが望むのならだけど、俺んところに来て農業をやらねぇか? もちろん、小作じゃねぇぞ、オーナーだぜ。 どうだ?」


「ありがとうございます! 是非ぜひやらせて下さい! お願いします!」


「おう! そう言ってもらえるとすげぇ嬉しいぜ!

 よろしくな! お義父とうさん、お義母かあさん! はははっ!」


「はい。 よろしくお願いします!」


 よかった! ソリテアの家族は来てくれることになった!


 ソリテアの顔には、今まで見たことがないくらいの、うれしそうな笑顔!

 う~ん、この笑顔は特に素敵すてきだ! なんて綺麗きれいなんだ!


 移住いじゅう時機じきはいつがいいか? とたずねると……

 なんと! 彼等は今日にも移住いじゅうしたいと言う! 話が早くていい!


 これから色々回る予定だが……まぁ、4人くらい人がえても大丈夫だろう。


 ソリテアの家族が持って行きたいと言ったものを亜空間倉庫あくうかんそうこに"パッパ"と仕舞しまう。


 お義父とうさんにお義母かあさん、義妹ぎまいのセリーネと義弟ぎていのラスラン……

 家族みんなが、興味きょうみ津津しんしんといった感じで、大量たいりょう荷物にもつ亜空間倉庫あくうかんそうこ仕舞しまわれていくのを見ている。


 おっと、お義父とうさんとか言ったりするのは、まだちょっと早いのかなぁ?

 ……まぁ、いいかっ!


 30分ほどでしの荷物にもつ収納しゅうのう一段落いちだんらくついた。


 次の目的地へ転移する前にちょっと休憩きゅうけいっていうことで、天気もいいことだし、外でティータイムを楽しむ。


 ソリテアの実家じっかそとにテーブルと人数分の椅子いすを生成して、今、みんなでお菓子かしと冷たい飲み物を楽しんでいる。 自然しぜん会話かいわはなく。


 みんなで談笑だんしょうしていると、そこへくらかおをしたひとりの若い女性がやってくる。


「ソリテアちゃん……」

「ニングちゃん! ひさしぶり!」


 話しかけてきたのは17歳の女性。

 ソリテアのおさななじみで親友しんゆうの "ニング" であった。


 ニングは、ソリテアが実家に帰ってきていると聞いて、ソリテアに今生こんじょうわかれをげるためにここに来たという。


『今日、この村にソリテアが来てくれてよかった。 ソリテアに別れを告げることができてよかった』と、さめざめと泣いている。


「私はこれから奴隷商人どれいしょうにんに売られてしまうんだよ。

 だからね、多分、ソリテアちゃんとは、もう二度と会えないと思うの」


「そ、そんな……。なんで? 小作料こさくりょう値上ねあがりしたからなの?」


「うん……それが一番大きな理由かな。

 でもね、去年きょねん両親りょうしん相次あいついでくなって、今私はおにいちゃん夫婦ふうふ一緒いっしょんでいるんだけど……義理ぎりねえさんとは、どうもソリが合わなくてね。

 家にはづらいんだよ。 私には居場所いばしょがないのよね……」


「だからって、奴隷どれいとして売られるなんて……」


「姉さんから向けられる、『こんな時ぐらいだろ? お前が役に立つのは……』って感じの視線が痛くてね。

 恋人もいないし、私ひとりじゃ生きていけないし……

 もう、どうでもいいかな? って思っちゃってね。 OKしちゃったんだ」


「何とかならないの?」


「お兄ちゃんとこに厄介やっかいになっているからね。

 お金も無いしさぁ。 どうしようもできないの。

 これが私の運命うんめいかなぁ……ってね。 神様って…………残酷ざんこくよね……ううう……」


 ニングは涙をポロポロとこぼしながら泣く……。

 ソリテアが俺の顔をかなしげに見つめてきた。


「……さっきね、村の人たちがソリテアちゃんが来てるって教えてくれたんだよ。

 だから、もう、いても立っても いられなくなっちゃってね、来ちゃったんだあ。

 さ、最後に会えて良かった…よ……うう……」


「あー、よこから話にんでわりぃんだけどさぁ……

 お前さんは一体いったいいくらで奴隷どれいとして売られるんだい?」


 思わずくちはさんでしまった。

 過干渉かかんしょうだとシオリにおこられてしまうかも知れないが……ほうってはおけなかった。


「金貨30枚で売られることになっています。 もう多分家の方には奴隷商人が来ていると思います。 それじゃぁ、もう行かないと……じゃ、じゃぁね、ソリテア」


 この場からろうとしているニングは、シクシクと泣き出す。


「分かった! 俺が助けてやるぜ!

 ソリテアの親友しんゆうのピンチと聞いちゃぁ ほっとけねぇからな! 家まで案内あんないしな!」


「え、でもそんな……らずのかたにご迷惑めいわくをおかけするわけにはいきません」

「大丈夫よ、ニングちゃん、私のダーリンは神様なのよ。 ドンとまかせなさいな!」


「え!? か、神様!? ははぁーーっ!」


 ニングがその場にひれす!


「お、おい! そんなことはやめてくれ! 普通にしろ、普通に!」


 ニングはソリテアにもうながされて、ひれ伏すのをやめて立ち上がる。


「ニングよ。 絶対にお前さんの悪いようにはしねぇから、俺にまかせろ!」


 とはいうものの……奴隷から解放しても、このままここにいられないよな?

 神都の中央神殿で働いてもらおうかな? その気があるかたずねてみようかな?

 

「ところで、お前さんは、ここを離れて、中央神殿ではたらく気はねぇかなぁ?

 折角せっかくたすけても、またすぐに売られることにでもなったら、たまらねぇからなぁ」


「えっ? いいんですか!? 私のような何もできない者がはたらけるのでしょうか?」


「ははは。 誰でもみんな最初は素人しろうとだぜ? 何もできねぇのが普通だ。

 どんなことでもれるまでは大変だし、れちまえばどうってことはねぇもんだ。

 それに神殿には色んな仕事があるからなぁ……

 お前さんに合った仕事もきっと見つかると思うぜ?

 嫌なら、やめりゃぁ いいだけだしな? 嫌な仕事を無理にやらせることは絶対にねぇから安心していいぜ。 えずやってみりゃぁいいんじゃねぇの?

 どうだい? やってみる気はあるかい?」


「……ううう……やりたいです。 あ、ありがとうございます。

 か、神様……どうか私をたすけて……」


「おう! 任せろ! 俺が絶対に助けてやる! だから安心しろ!」


「スケさんはここでみんなを守っていてくれ!

 ソリテア! カクさん! 俺と一緒に来てくれ! 他のみんなはここで待機たいきだ!」


「「「「「 はい! 」」」」」


「さぁ、ニング! お前さんの家まで案内しな!」

「はい!」



 俺たちはニングの家、正確にはニングの兄の家が見えるところまで来た。


 家の前では、男女2人と、フードを目深まぶかにかぶり、薄汚うすよごれたくらいブラウンの僧服そうふくあやしげな人物じんぶつとが、なにやらばなしをしている。


 俺はフードをかぶった人物のステータス画面と魂の履歴をチェックする。

 ターゲットカーソルの色は、ほとんど黒だ! 極悪人ごくあくにん確定かくていだな!


 しかも、やみ奴隷商人どれいしょうにんだ!


 俺たちがいるすぐそばには、奴隷商人のものと思われる馬車ばしゃが止まっている。

 囚人しゅうじん護送車ごそうしゃのような、荷台にだい猛獣用もうじゅうようおりっているような馬車ばしゃだ!


 そのおりの中には、ぱだか隷従れいじゅう首輪くびわだけをけた美女びじょが5人すわっていて……

 おりそとに、うつろな目を向けている?


 彼女たちの魂の履歴を確認すると、みんなさらわれて来たことが分かった!


 俺は彼女たちが入ったおり消滅しょうめつさせる! 犯罪者はんざいしゃ馬車ばしゃだ! 遠慮えんりょはしない!

 そして、その直後にとなえる……


権限けんげんにおいて、ここにいる者たちの奴隷契約どれいけいやく強制的きょうせいてき破棄はきする!

 くわえて "隷従れいじゅう首輪くびわ" の除去じょきょ!、そして、消滅! をめいずる!」


 さらに俺は……


「完全浄化! …… 完全修復! …… 下着&衣服装着! ……」


 身体の内外を完全浄化。

 もちろん! 事前じぜんに完全浄化が適用可能てきようかのうかどうかはチェック済だ!


 怪我けが病気びょうき精神状態せいしんじょうたい治療ちりょうし、ふくなども装着そうちゃくしてやった。

 下着と服等は、毎度まいどおなじみのヤツを装着そうちゃくさせたのだ!


 その後 "見えざる神の手" を使って彼女たち5人を俺たちのもとへとそっとはこぶ。


「つらいったなぁ……。 もう大丈夫だ。 俺が守ってやる。 安心しな!」


「「「「「 う、うわぁーーーあん!! 」」」」」


 女性たちは大声を出して泣き出した。

 その声で気が付いた奴隷商人がこちらへと走ってくる。


「クソガキが! 何しやがる!」

「うるせえ! 闇奴隷商人やみどれいしょうにんがっ!

 不当ふとう監禁かんきんされていた、かわいそうな女の子たちをたすしただけだ!

 うと……てめぇ! ぶち殺すぞ!」


 威圧いあつしながら俺が言うと、奴隷商人が一瞬いっしゅんひるむ!

 だが!


「クックックック! こりゃあいい!

 上玉じょうだまが3人、勝手かってにやって来てくれるとはなぁ! 今日はついてるぜ!

 んでなつむしとは、お前らのことだな! あははははははっ!」


「てめぇは、ついてねぇと思うぜ? だって、俺に見つかったんだからな!」

「ほざくな小僧こぞう! お前を始末しまつして、その上玉じょうだま3人は俺がいただいてやるぜ!」


 奴隷商人は、おもむろにゆっくりと僧服そうふくから黒色と紫色むらさきいろの光がじりうようにして光っている、"メロン" くらいの大きさの水晶玉すいしょうだました!?


 そして、俺たちのほうにその水晶玉すいしょうだまけて、何やら呪文じゅもんとなえ始める!


 奴隷商人のもとへと高速移動こうそくいどうしてぶちのめしてもよかったんだが、何が起こるのか興味きょうみいたので、詠唱えいしょうわるまでつことにした。


「わははははははっ! これでお前たちは俺の言うなりだ! …… 絶対ぜったい服従ふくじゅう!」


 即座そくざに、俺とカクさん、ソリテアは身構みがまえた!


 奴隷商人が言いわると水晶玉すいしょうだまからは、俺たちをつつむように"黒紫くろむらさきの光"がはなたれる!


 たった今俺が解放かいほうしたばかりの、無理矢理むりやり奴隷どれいにされていた5人と、ニングが突如とつじょくるしみだした!


「し、しまったっ! これはマズい!!」


 後悔こうかいさきたず!?


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