第0012話 良心の呵責

 後悔こうかいさきたず……。


 先ほどの "歩きたばこ" の件を思い出して、俺は反省はんせいしている。

 俺が気付いたから良かったが、もしキャルかシャルが"たばこの火"で火傷やけどでもしていたらと思うと…ゾッとする。


 それに……不慮ふりょ事故じこだけが心配ということではない。


 これだけのかわいらしい女の子たちだ、からぬことを考えるやからがいつ彼女たちにちょっかいを出してこないとも限らない!

 リスクマネジメントの意味でも、ちゃんと加護かごしてやるべきだろう……。


 本当はまちに出る前にしておくべきだったのだが……。


 帰途きとのことも考えて、ラフが女将おかみを治療している間にこの子たちを加護かごすることにした。


 女将おかみたのんで部屋べやりて、今、その部屋のベッドの上に、キャルとシャルを座らせている。 俺は彼女たちが座っているベッドのそばに立っている。


 彼女たちの目線めせんわせるためにしゃがむ。


「キャル、シャル、これから君たちを加護かごしようと思うんだけど」

「かごぉ?」

(??)


「そう。 君たちを強くしようと思うんだ」

「う~ん? よくわかんないのぉ~?」

(??)


「すごいちからちになるし…ちょっとぐらいたたかれても "へっちゃら" になるよ」

たたかれるのはいやなのぉ~。 いやなのぉ~。 ぐっすん……」

(ぷるぷる……)


 キャルもシャルも涙を浮かべて青い顔をしてふるえている。


 はっ! そうだった! この子たちは地下室でひどにあったんだ!


「ご、ごめんごめん。 そうだよね~、たたかれるのはいやだよね。

 でもね、加護かごされるとね、たたかれても大丈夫だいじょうぶになるよ。 いたくなくなるよぉ」

「いたくないのぉ?」

(?)


「うん。 それにね、すっごく強くなるよ~。

 わるやつも『えいっ!』って、やっつけちゃえるよ」


「ん? キャル、ゆうしゃになるのぉ?」

(ん?)


「勇者?」

「うん! わるいやつをやっつけるのは、ゆうしゃなのぉ。おとうちゃんがそういっていたのぉ」


「勇者って強いのかなぁ?」

「ものすご~く、つよいのぉ。 まおうをやっつけちゃうのぉ~」


「へぇ~、そうなんだぁ?」


「神ちゃまなのに、ゆうしゃをしらないのぉ?」

「ははは……。 そうなんだよ、知らないんだよ」


 勇者か……御伽噺おとぎばなしにでも出てくるのかな?


 それとも、この世界には実際に勇者がいるのかな?

 いるとしたら、どれくらいの強さなんだろうな?


 そんなことを考えていると、全知師ぜんちしが『ってました!』と言わんばかりに疑問ぎもんに答える……。


 >>おこたいたします。

  この世界が未曾有みぞう危機ききひんした時に、"勇者"と呼ばれるヒーロー、ヒロインがあらわれて、人々ひとびと危機ききからすくうという伝説でんせついにしえよりかたがれています。

 これは、この惑星の全ヒューマノイド種族に共通しています。

 そして、勇者伝説を題材とした "御伽噺おとぎばなし" も数多かずおお存在そんざいします。

 また、シオンきょうでは、人族ひとぞくが『存亡そんぼう危機ききひんした時』に"女神シオン"によって異世界いせかいより招喚しょうかんされた勇者ゆうしゃ人々ひとびとすくうとされています。


 <<なるほど。

  シオン教はべつだろうが、その他の勇者伝説は、我々われわれ管理者かんりしゃあらかじ用意よういした設定せっていなんだろう?


 >>御意ぎょいにござりまする。


 <<ぎょ、御意ぎょいにござりまする? お前さんは時々ときどきみょう言葉遣ことばづかいをするなぁ?

  と、とにかく、情報をありがとう。


「でも……ひょっとすると、キャルとシャルは勇者よりも強くなるかもね」

「ゆうしゃよりも つよいのぉ? すっご~いっ!」

(……?)


「でね、これから加護かごするからね。ベッドの上に寝転ねころんでをつぶってしいんだ」

「うん! わかったの!」

(こくり!)


 キャルとシャルは言われた通りにベッドの上で横になって、ぎゅっと目をつぶっている。


 ホント、かわいいなぁ~。


 さあそれでは、キャルとシャルを俺の庇護下ひごかいて、この子たちにも神子みこたちや神殿しんでん騎士きし神殿しんでん騎士きし見習みならいと全く同じ加護かご付与ふよすることにしようかな。


 つまり……


 【全攻撃属性ぜんこうげきぞくせいたいする完全耐性かんぜんたいせい】を付与ふよする!


 この付与で、物理攻撃だろうが毒攻撃だろうが、精神攻撃、魔法攻撃であろうが、どんな攻撃も平気へいきになる!


 【完全修復神術】をふく全治療系神術ぜんちゆけいしんじゅつを使用可能にする!

 ただし、神子みこたちと同様に【蘇生そせい】はのぞいておく。


 【全属性の攻撃神術】を使用可能にする!

 攻撃力は『ちゅう』。 使用頻度しようひんどによりレベルアップできるように設定する。


 STRStrength神子みこたちと同様どうようにオーガレベルに設定!


 そして、相手のステータスが確認できるように【神眼しんがん】も付与ふよする!


 以上が、その加護かご内容ないようである。


 もうこれで3回目かな? さすがに要領ようりょうたな……。


 作業さぎょう効率こうりつよくテキパキと進む……。

 ……それほど時間をかけずに、すべての設定が完了する。


 どうだろうな? 数分程度といったところかな?


 あとはリブートするだけだな。 さあ、加護かご有効ゆうこうにするか……。


「リブート!」


「スヤスヤ…」

(すやすやすや……)


 あらま、ふたりともねむっちゃってる?

 う~ん、天使てんし寝顔ねがおだ!


 だが! 悪魔も真っ青になるくらい強い! "最強の幼女ようじょたち" になったのだ!

 ふっふっふっ!


 ん? この惑星わくせいには天使てんし悪魔あくまもいないよなぁ?

 ……まぁ細かいことは気にしないでおこう!


 >>はい。 この惑星にはそのような種族も、固有個体こゆうこたいも存在しません。

  空想くうそう産物さんぶつです。


 <<は・は・は……。 解説ありがとう。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 俺たちが借りている部屋にラフが来た。


 女将おかみひとりだけのこしの治療にしては、ずいぶんと時間がかかったな……

 なんかあったのだろうか?


おそくなってすみませーん!」


「いや。気にするな。 それで治療はうまくいったのか?」

「はい。女将おかみさんのこし治療ちりょうは1分もかからずに終わったんですが、話にはないてしまって……は・は・は」


「そうか。 これからしばらくは会えねぇかも知んねぇしなぁ。

 ゆっくりと話ができてよかったじゃねぇか?

 シェリー、ラヴ、ミューイもれてきてやりゃぁよかったなぁ?」


「……は…い…」


 ん? なんかラフ、複雑ふくざつかおをしているな?

 他の子たちは連れてこなくて正解せいかいだった…のか?

 どうしてそうなのか、ちょっと理由が分からないんだが……?


「そろそろ神殿に戻った方がいいな。

 キャルもシャルも、まだてるが……"だっこ" していくとするかぁ」


 キャルとシャルをだっこしようとすると、その気配のせいなのか、ふたりとも目をさまました。


「だ~りん……おはようなのぉ……。 ふわぁぁぁぁあ……」

(むにゅむにゅ……)


「は・は・は・おはようさん……」


 なんか調子ちょうしくるっちゃうなぁ~。



 俺たちはフロントデスクへ行き、りていた部屋へや料金りょうきん支払しはらおうとした。


「あ、いいんですよぉ、ちょっとおししただけなんですからぁ。

 料金りょうきんりませんよぉ。

 それどころか、私の方こそ、ラフちゃんに治療代を払わないといけませんのに……ラフちゃんの "いい人" からお金なんていただけませんよぉ。 うふふふふ」


 意味深長いみしんちょうわらいをかべながら、そう言って女将おかみ部屋代へやだいらなかった。


「そうか……じゃあ遠慮なく、お言葉にあまえるとしよう…ありがとう」

「いえいえ、こちらの方こそありがとうございました。

 是非ぜひまたおし下さいね。 お待ちしております」


 女将おかみ深々ふかぶかあたまげた。


 なんか…女将がみょうなことを言っていたな?

 『ラフちゃんの "いい人"』? なんだぁ? どういうことだぁ?


 ラフの方を見た……が、ラフは口笛くちぶえ仕草しぐさをしながら視線しせんらす……。



 ◇◇◇◇◇◇◆



 タタッ、タタッ、タタッ!


 宿屋やどやを出ると、キャルとシャルはスキップをしながら、ラフの前を行く……。


 俺とラフは、うでれあうくらいの距離きょりで横にならび、そんな幼子たちのうし姿すがたながめながら歩いている。


 俺たち4人は微笑ほほえみをやすことなく、みんな笑顔で歩いている。

 はたから見ると、まるでしあわせいっぱいのなか親子おやこのようにえることだろう。



 ……突然とつぜん、キャルとシャルの前に数人のむさい男どもが立ちふさがる!?


 今、俺たちがいるとおりは、大通おおどおりへとけるための脇道わきみちである。

 あまり道幅みちはばひろくなく、男どもをけてとお余地よちはない。


「おい! 待ちな! 小僧こぞう! さっきはよくもはじをかかせてくれたな!」


 宿屋やどやで俺がデコピンを見舞みまってやった男だ!


 ひとりじゃ俺の相手にならないとでも思ったのか、仲間なかまれて仕返しかえしに来たようだ!


「おじちゃん、とおしてなのぉ~」

(こくこく!)


「おじょうちゃん、わりぃがそれはダメだな。

 俺たちがお前のとうちゃんをボコボコにしたあととおしてやるぜ。 ははは」


「とうちゃんじゃないのー! だ~りんなのぉ!

 ……おじちゃんたち、わるものなのぉ?」

(うみゅ!?)


「キャル、シャル、こっちへ……」

「てぇ~~いっ! なの!」


 "ぐぎゃぁ!" ……ズダン! ズダン! ズダン! ダン! ダン! ……ザザザーッ!!


 キャルとシャルに『こっちへおいで』と俺が言いえる前に事は起こった!


 キャルとシャルを退しりぞかそうと、"デコピン男" が、ふたりに向かって手をばしてきた瞬間である!


 おそらくは、男のその行動こうどう危険きけんかんじたのであろうキャルが "デコピン男" にりをらわせたのだ!


 りは、ちょうど男の股間こかん命中めいちゅうする!


 男は "ぐぎゃぁ!" と、ひとこえはっすると身体からだを "くの" にげて、すごいいきおいで吹っ飛んで行った!


 男の目は、飛び出しそうなくらいに見開みひらかれ、口からは、よだれなのかなんなのか分からない液体えきたいをまきらかしながら飛んで行くと……

 地面じめん何度なんどかバウンドしてから止まった! 100mくらいは吹っ飛んだかも知れない。


 デコピン男は、白目しろめき、くちからあわいてびている。 股間こかんは……。


 うわっ! いたそう……。


 俺の股間こかんちぢがりそうになる。


 他の男たちは、"アゴ" が外れるんじゃないかと思えるくらいに "あんぐり" と口を開けている!?


 みんな、両手りょうて股間こかんかくすようにしている! その気持ちは分かるぜ!


 ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!


 呆然ぼうぜんとしている男たちの中のひとりを、シャルが、 "スキありっ!" とでも言わんばかりに、右のこぶしで "ぽすん!" といった感じに "かる~く" パンチした!


 かなり手加減てかげんをしているかのように見えた。


 シャルのパンチは男のひざのあたりに当たる!


 直後! 男のひざは、"がってはいけない方向ほうこう" へとがってしまった!?

 男は脂汗あぶらあせをたらたらながはじめ、激痛げきつうえきれず、のたうちまわる……。


 その声…ひざくだかれた男の絶叫ぜっきょうわれかえったのか、のこりの男どもは子供たちへと一斉いっせいおそいかかる!


「いやいやいやぁ~なのぉーーっ!」

(いやいや!)


 キャルもシャルも怖くなったのか目をつぶって、にぎったこぶしをめちゃくちゃに振り回している!?


 ふぎゃっ! ぶへっ! ぐはっ!……


 俺は高速移動し、子供たちを助けようとしたのだが……

 結論から言おう! 全くその必要はなかった!


 キャルとシャルが "闇雲やみくもに" 振り回しているこぶしれた途端とたん、男どもは変な声をはっしてのびてしまったのだ! 遠くへ飛ばされていくヤツもいる!


 キャルとシャルに襲いかかった男どもはすべて、めちゃくちゃにこぶしを振り回しているキャル、シャルのパンチを一発いっぱつずつもらうと、それだけでノックアウトされたのである!


 なんとも恐るべき幼女たちだ!


「俺の出番は……ねぇな…ははは…」


「ほぇ?」

(うみゅ?)


 手応てごたえがなくなったことに気付いたキャルとシャルが、ゆっくりと目を開け……

 自分たちに襲いかかってきた男たちが、全員地面にひっくり返っているのを見て、不思議そうな顔をしながら首をかしげている。


 その仕草しぐさ! とてもかわいらしいっ!


 こんなかわいらしい子供たちが、あらくれおとこどもをパンチ一発いっぱつでノックアウトしたとは、一体いったいだれが思うだろうか!


 俺もラフも、その光景に思わず微笑ほほえんだ。


 そこへ、衛兵えいへい数人すうにんけつけてくる!


 先頭は例の門衛もんえいである。 俺に面と向かって『利己りこ主義しゅぎ』とはなった男だ。


「上様、どうされました?」


「ああ、お前さんか……。

 あのな。 コイツらが俺の大事な子供たちに手を出そうとしてな、子供たちのかえちにあったんだよ。 所謂いわゆる正当防衛せいとうぼうえいってヤツだな」


「子供たちに手を出してきたんですか? 上様じゃなくて?」


「ああ、このかわいい子たちに…だ! まぁ……コイツらの本来の目的は俺だったんだけどなぁ」


「上様に暴力ぼうりょくるおうとしたのに、子供らに手を出したんですか?

 なんかよく分からないんですが……。

 えずコイツらは、こちらで引き取ってもよろしいでしょうか?

 事情聴取じじょうちょうしゅもしたいですし……」


「ああ、そうしてくれ。 あのとおくであわいてのびてるヤツがコイツらのボスだ。

 赤ん坊を連れた女性にからむような "クソ野郎" だからな、他にも何かやってるかも知れん。 しっかりと調べてくれよ。 頼んだぜ?」


「はい。 分かりました」


「もう行ってもいいか? 俺たちはこれから神殿に帰るんだ。

 なんか聞きてぇことがあったら、神殿の方に来てくれねぇか?」


「承知しました。 いらっしゃって結構です」



 ◇◇◇◇◇◆◇



「やれやれ。 女将の治療くらい、すぐに終わるだろうとたかくくっていたが……

 なんか色々なことがあったよなぁ?

 このままちゃんと神殿に戻れるんだろうなぁ? 心配になってくるな。

 おっ? あたりは結構けっこうくらくなってきたな?」


「はい……。遅くなってしまいましたね。 みんな待ってるだろうなぁ~。

 うちはみんなに嫉妬しっとされちゃう……」


 俺たちはキャルとシャルに合わせて、かなりゆっくりとしたペースで歩いている。

 先ほどまでとは違って、今は大きな通りを神殿に向かって進んでいる。

 人通りも交通量も多い。


 キャルとシャルは、ラフのすぐ前を楽しそうに歩く……。

 俺とラフもずっと笑顔である。


 俺はラフの左隣ひだりどなりを歩いている。


 道幅みちはばさきほどの脇道わきみちよりもだいぶひろい。 なのに…俺と横にならぶラフとの距離きょりは、俺の右腕とラフの左腕とが頻繁ひんぱんうくらいに近い……。


 俺に対するラフのパーソナルスペースがかなりせまくなっている……。

 ラフは俺に親近感しんきんかんいだいてくれているのかな?



 俺たち4人は道路の右側を歩いている。


 俺が日本人だったからではない。

 このまちの人のながれに沿うと自然しぜんに右側を歩くことになる。


 道幅は広く、25mくらいはあるだろうか……。

 馬車ばしゃ頻繁ひんぱんしている。


 それで自然に歩行者ほこうしゃは、道路のはしほうへといやられていくのだ。


「シンさんは優しい方ですね」


「ん? 急にどうした? 俺が優しい?」

「だって……うちがシンさんの左側を歩こうとしたら、さり気なく、右側へ誘導ゆうどうしてくださったでしょ? 優しいですよ」


「ああ、なんだそんなことかぁ……そんなことは当たり前じゃねぇか。

 だってなぁ、横を馬車がすごい勢いで通り過ぎていくんだぜ?

 そんなあぶねぇほうにお前さんを歩かせられねぇだろうが?」


「それが "優しさ" なんですよ。 うふふ」


「いや、だってなぁ、俺は馬車がぶつかってきたって平気へいきなんだぜ?

 だから、危険な方を歩いているんだよ。 ただそれだけのことだぜ?

 リスクマネジメントってヤツだよ」


「うふふ…もういいですよぉ~。 わかりました……うふふ」


 う~ん、よく分からない。 俺は論理的ろんりてきに考えているだけなのだ・が……。



 キャルとシャルが、さっきからチラチラと俺の方を見ている。

 何か言いたそうだな?


「どうしたの? 何か聞きたいことでもあるのかい?」


「あのおじちゃんたちだいじょうぶかなぁ~?」

「ああ、大丈夫だと思うよ。 悪い人たちなのに心配してあげるのかい?」


「う~ん? わかんないの。 ここんところがね、"むらむら" してるのぉ」


 と言って、むねのあたりをさする。 シャルも同じようにしている。


「ははは。それを言うなら "むらむら" じゃなくて、"もやもや" かな?

 なんか悪いことしちゃったような気がしてるんじゃない?」


「うん! そう! "もやもや" なの! そんなかんじなの!」


「それはね、大切な気持ちだよ。だから忘れないでね」


「うん! 忘れないの!」

(こくり!)


 なんとこの子たちは良心りょうしん呵責かしゃくなやんでいたのか!?


 今回俺は、っちゃな子たちにおおきなちからあたえた。


 実は彼女たちの戦いを見て『彼女たちがこの力におぼれてしまうのではないか?』と心配になっていた。

 だが、キャルの言葉を聞いたことによって、その心配は杞憂きゆうであることをさとった。


『この子たちなら大丈夫だ! ちからおぼれるようなことはない!』



「しかし……キャル、シャル、君たちはすごく強くなったよね?

 びっくりしたんじゃない?」


「うん! びっくりなの!

 "てぇ~!"と、けったら…"どどどーん"って、わるいひと、とんでったのぉ!」

(ふん!ふんっ!)


 おお、ふたりとも、ちょっとテンションが上がってきたな?


「でもね。約束してね。

 その力は自分をまもる時とかぁ、大切たいせつな人を守る時だけに使おうね」


「うん! きをつけるぅ~! "ぼうりょく" はんたいなのぉ~!」

(こく!こく!)


「うんうん、そうだよ。 ふたりともいい子だね!」


 俺は右手でキャルの頭を、左手でシャルの頭をでた。

 ラフはそんな俺たちに、いつくしみぶか眼差まなざしをけている……。



 ◇◇◇◇◇◆◆



 その後は面倒ごとに巻き込まれるようなこともなく、無事に神殿前広場へと帰って来られた。


 シオリは、いつもちゃんと出迎でむかえてくれる。彼女の顔を見るとなんかホッとする。


「ラフ、すまねぇが、もうちょっとだけふたりの面倒を見ててくんねぇか?」

「はい。うちは構いませんよ。お任せ下さい」


「ありがとう」


「キャル、シャル、俺の部屋の冷蔵庫にね、美味しいジュースが入ってるからそれをラフと3人で飲みながら待っててくれるかな?」


「いいともなのー!」

(にっこり!)


 と言いながら、キャルとシャルは、ふたりともあふれんばかりの笑顔で、右こぶしを真上まうえへとす。


「うちもジュースをいただいてよろしいのですか?」

「ああ、もちろんだとも。 好きなだけ飲んでくれ」


 キャルとシャルをラフにたくした。

 3人は笑顔で何やら話をしながら、テントの中へと入っていく。



 俺はシオリと西部開拓者のことを打ち合わせようと思っている。


「お帰りなさいませ」


「シオリちゃん、ただいま。何か変わったことはなかったか?」

「はい。特に何事も起こりませんでした」


「そうか、よかった。それで…西部開拓者たちはどうしてる?」

「今は食堂でくつろいでいます」


「どうしようかな? テント内を拡張かくちょうすべきか……

 別に開拓者用かいたくしゃようのテントを用意よういするべきか……」


僭越せんえつながら……新しくテントを作られた方がよろしいかと存じます。

 その方が、神子みこたちも安心できるものと愚考ぐこういたします。

 それに……いくら家族同伴どうはんとはいえ、シンさん以外の男性を、同じテント内に宿泊させることには、私も抵抗ていこうがあります」


「そうだよな。 寝室しんしつ別々べつべつだし、かぎをかけられるとは言ってもなぁ……

 そりゃぁ、心配だわなぁ。 分かった!

 新しく開拓者用のテントを作ることにするわ! アドバイス、ありがとうな!」



 今設置してあるテントより少し離れた場所に、新たなテントを生成して設置した。


 テント入り口から入ると大きめのロビーがあるのも、そこから寝室へつながる扉があるのも俺たちのテントと同じである。


 全開拓者家族が一度に入れるような大浴場は作らないが、各部屋に家族風呂を用意するつもりだ。


 食堂の方は用意する。

 開拓者には、俺たちとは別で、このテントの食堂で夕食をとってもらおうと思う。


 俺は彼等と色々話をしてみたいのだが、キャルとシャルの気持ちを考えると……。

 それで俺たちと開拓者たちと別々に夕食はとった方がよいと判断はんだんしたのである。


 いずれキャルとシャルには、親子が楽しそうにしているところも "あえて" 見せるようにしなければならないとは思っている。 だがそれは今日ではない。



 寝室は家族用ということで広く作成する。

 余裕よゆうを持って全部で10部屋用意しておこう!


 各部屋には対面式たいめんしきキッチンとダイニングスペースとリビングを用意し、調理器具や食器類も完備する!

 そして、肉類や魚類、野菜類が入った冷蔵庫も設置して、その中には飲み物も各種入れておくことにしよう。


 また、トイレはシャワートイレにしておこうかな。

 これを知ったら……他のトイレが使えなくなるだろうな! ふっふっふっ!


 家族でゆったり入れる大きめの風呂、旅館などで見られる所謂家族風呂と呼ばれる風呂も作っておこう!


 当然、冷暖房完備だ! 快適すぎて離れられなくなるかも知れないな!?


 色々とった設計せっけいにしてしまったので、テントの準備には、ちょっと時間がかかるかと思ったが、シオリが手伝ってくれたこともあって意外いがいにもあっという間に作業は終わった。


 シオリは美しい上に、本当に有能な助手だ!



 俺とシオリは俺たちのテントにある食堂へと行く。


 闇奴隷商人から救い出した西部開拓者の獣人たちを、今夜の宿泊施設である新しく作ったテントへと案内するためだ。


「さぁ、ここがお前さんたちに今日泊まってもらうテントだ。

 中には家族で泊まれる部屋を10室用意してあるから、みんなで話し合って、どの部屋にするかを決めてくれ。

 まぁ、といっても部屋の中はみんな同じだがな。 間取まどりも設備もまるで一緒だ」


 6家族、計23人が部屋の中を見て、あまりの豪華ごうかさに驚きの声を上げている。


 日本だったら、風呂は別として、中級グレードの分譲マンションといった間取りと設備なんだが……

 この世界では、大貴族だいきぞくでさえも驚愕きょうがくするほどの豪華ごうかさなんだろうと思う。


 だから、おどろくのも無理はない。



「部屋の中には家族風呂もあるぞ! 家族みんなでゆったりと入れる大きさだ!」


 俺はキッチン、トイレ、エアコン、冷蔵庫、風呂の湯の張り方……等々設備の使い方を順に説明していった。


「……といったところだな。何か質問は?」

「……」


「無いようだな? まぁ分からねぇ時は俺に聞いてくれ。

 ……あ、それと今夜の夕食は、このテントの中にある食堂でとってくれ。

 あとで料理を用意しておくので、ひといきついたらでいいから、食堂の方へ来てくれ。

 俺たちは同席どうせきできねぇが、みんなが食堂に集まったら食べてくれればいいからな。

 それと……後片付あとかたづけは不要ふようだ。そのままにしておいてくれ」


「ああ……神様、なんとお礼を言ったらよいか……

 何から何まで…ありがとうございます」


れいにはおよばねぇよ。 俺が好きでやってるだけだからな。 気にすんな。

 西部へ行ったら大変だろうからなぁ、今夜くらいは存分ぞんぶんに楽しんでくれ……。

 おっと、そうだった! 部屋にあるキッチンや冷蔵庫の中の食材は、自由に使ってもらっても構わねぇからな。 もちろん飲み物も自由に飲んでくれ。

 ……それじゃあ部屋割りを相談して決めてくれ!

 俺たちは向こうのテントにいるから、何かあったら悪ぃけどあっちまで来てくれ。

 じゃぁな!」


 みんなが深々ふかぶかと頭を下げながら、口々くちぐちに俺に礼を言う。

 こんなに感謝されるとなんかムズムズしてくるな。 居心地いごこちわるい。


 さてと、彼等の夕食もバイキング形式の方がいいよな? さっさと準備しよう!



 ◇◇◇◇◆◇◇



 昨夜はこのノルムの神殿関係者、神官たちと一緒に夕食を楽しんだ。


 俺たちのテント内の食堂に彼等を招待したのだ。

 西部開拓者たちには、新しく作ったテント内の食堂で、彼等だけで、夕食を取ってもらった。


 夕食のメニューはどちらの食堂もバイキング。

 自分の好きなものを好きなだけ食べられるからその方が良いと判断したのだ。


 大量たいりょうに食べ物を用意したが、のこしが出ても全く問題無い。


 なぜなら、レプリケーターの機能を使って、残ったものを分子・原子レベルに分解できるからだ。

 そうして分解されたものは、レプリケーターによって亜空間内にストックされる。


 そして、レプリケーターで生成されるモノの原料として再利用されるので、無駄は出ないのである。



 俺たちのテントの方の夕食には、元々のメンバーの他にキャルとシャル、そして、新たに加わった神殿騎士試験の受験生3人も同席した。


 もちろん、新たなメンバーである、キャルとシャル、受験生の3人にも、俺たちの寝室があるテント内に、それぞれ専用の寝室がちゃんと用意してあった。


 昨夜、彼女たちにはそこにまってもらったのだ。キャルとシャルをのぞいて……。


 俺はキャルとシャルと一緒に寝ることにしたのだ。

 しっかりしているようでも、まだまだっちゃな子供たちなのだから……。


 今朝、目が覚めて俺は驚いた!


 シャルの左隣に俺、シャルの右隣はキャル。 この位置で昨夜は寝たのに……。


 今、キャルの右隣にはラフ!?

 そして、俺の左隣、俺の背中に引っ付くように……スケさん!?


 をゐをゐおいおい……。





 夕食はとても楽しかった。


 この神殿の神官たちもこころやさしい "いい人間" ばかりで……

 話のはなき、話題はきることなく、夕食時間の終わりをげるのが躊躇ためらわれるくらい、みんながだんらんを楽しんでいた。 俺自身も含めて。



 朝食は俺たちの食堂にも、開拓者の食堂にも、サンドイッチと各種飲み物を大量に用意してある。 昨夜遅くまで盛り上がったので、まだ寝ている者も多いようだ。


 今俺と一緒にいるのは、シオリとソリテア、スケさんにカクさんである。

 彼女たちは朝食の準備を手伝ってくれた。


 朝食の準備に一区切ひとくぎりついたので、今5人でお茶をしているところである。


 朝食の準備の方も後片付けと同様、俺とシオリがいればそれだけで充分なんだが、わざわざ早起きして手伝いを申し出てくれた子たちの厚意こういにすることはできず、食器等の準備を手伝ってもらった。


 4人とも、いいよめさんになるんだろうな。 人生じんせい伴侶はんりょとなる者がうらやましい。

 俺はふとそんなことを思った。



 食事はみんながそろってから始める。


 この神殿の神官たちは、昨夜のうちに帰って行ったので、ここにはいない。

 朝食は新旧メンバーだけでとる。


 もっとも、神官たちの寝所しんじょは神殿内部の居住スペースにあるので、一緒に朝食を取とってもらってもいいんだが……。



 ◇◇◇◇◆◇◆



 朝食を終えた俺は、これから西部開拓者たちを彼等の目的地に送ってくるつもりでいる。


 俺に同行するメンバーは、開拓者たちはもちろん、その他に……美しい金髪を七三ショートヘアにしているボーイッシュな神子"インガ"、そして、スケさんとカクさんである。


 インガは西部の町、ガラン出身なので、道案内みちあんないをかねて同行どうこうしてもらう。


 キャルとシャルは一緒に行きたがったが、西部には何が待っているか分からない。

 ふたりがいくら強くなったと言っても所詮しょせんっちゃな子供。 心配なので神殿騎士見習いの獣人 "ラフ" にあずけることにした。


 シオリも同行したがったのだが、今のところは静かにしているものの……

 シオン教が "不気味ぶきみ" なので、神子みこたちを守らせるために残ってもらう。

 そのシオリの代わりにスケさんとカクさんに同行してもらうことにしたのである。



 この惑星わくせい周回軌道上しゅうかいきどうじょう管理補助衛星かんりほじょえいせいに、西部せいぶ写真しゃしんらせて、そのデータを送らせた。


 その画像(写真)データを加工し、手書き風の地図に仕上げてプリントアウトし、西部開拓者たちに見せる……


「それで目的地はどこだ?」

「ガランの町の南西にある森林地帯しんりんちたいです」


「ここか?」

「そうです。 開拓を斡旋あっせんする業者ぎょうしゃの男が持っていた地図と資料には、その場所に開拓村かいたくむらがあって、その村の中に、"西部開拓事務所せいぶかいたくじむしょ" が描かれていました」


 おかしいなぁ……ここはジャングルだぞ?


 衛星写真を見ているので、そこがどのような場所かが俺には分かっている。


「お前さんたち、大丈夫か? 騙されてやしねぇか? 多分そこはジャングルだぞ?」


「……大丈夫だと思います! だ、大丈夫じゃないと…ります。

 開拓権を購入するのに、金貨50枚も支払しはらったんです」


「そうか……まぁ、行ってみりゃ分かることだな。 それじゃぁ行くとするか!

 みんな俺の近くに集まってくれ!」


 彼等がまったテントを亜空間倉庫あくうかんそうこ仕舞しまってから……同行者全員をターゲットに指定する。


「転送!」


 転送先で俺たちを待っていたのは……

 地球でいうなら "アマゾン川流域りゅういき" のようなジャングル地帯であった!


 開拓村など……ない。 もちろん西部開拓事務所なんてものは影も形もない。

 ただのジャングルだけが目の前に広がっていたのだ!


「そ…そんなぁ……。 うう……。 俺たちゃ、これからどうしたらいいんだ……」


 小さな子供たちは "キョトン" としている。


 大人たちと、状況が把握はあくできる年齢の子供たちは皆、その場にへたり込む。

 そして、ボロボロとなみだこぼし始めた。 顔には絶望ぜつぼういろかぶ……。


「大丈夫だ。 こんなのは想定の範囲内だ、落ち込むんじゃねぇ!

 この俺がついてるだろ!?」


 そんな時であった!


 >>警告! 警告! 

  前方の森林地帯より、殺意さついを持つ無数むすうの生命体反応がこちらへ近づいています。

  その数……おおよそ1000。 生命体との遭遇そうぐうまで約2分です。

  すみやかなる対応たいおうが必要です。


 俺は即座そくざにシールドを展開した!



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