第2話 先輩とお弁当
昼休み。
俺は購買で買ってきたパンを片手に、足早に屋上へと向かっていた。
『明日、早速屋上でお昼を食べよう♪』
昨日の事件以降、周りにもみくちゃにされたせいで結局最上先輩とはお話しできなかったが、どこからか手に入れたのであろう俺のLINEにこんなメッセージが届いたもんだから、教室から購買経由の屋上ダッシュも全く苦にはならなかった。
屋上への扉にたどり着き、一呼吸整えてから扉を開く。
ふわっと、クチナシの甘い香りがした。
「おっ、待ってたぞ~カレシ君!」
昨日から俺の彼女になった、『完璧美少女』最上みれいがそこにいた。
ああ、やばい、眩しいっ! 眩しくて直視できないっ!
「なにしてるの? さあはやく、ゴハン食べよ?」
「す、すみません!」
最上先輩は屋上い設置されたベンチに腰をかける。
座っているだけなのに、なんだか神々しさを感じるな。
「ほら、座って座って!」
ドキドキで胸が張り裂けそうになりながら、俺も先輩の隣に腰を下ろす。
先輩は、少しだけ頬を紅潮させながら、俺に対面する。
「改めまして、最上みれいです。今日からよろしくね、清澄クン!」
「は、はい、よろしくお願いします……」
う、うおおおおお、な、名前で呼ばれちゃった! ヤバい! これ!
改めて、こんなかわいい最上先輩がなんで俺なんかの彼女になってくれたのかは疑問だが、もうそれは言うまい。
昨日、お昼の誘いがあったときにLINEでそれとなく理由を聞いてみたが、返信はこうだった。
『好きに理由が必要? 君のこと、なんかいいなって思った。それじゃ……ダメ?』
先輩のきれいな声で脳内再生されてしまって、これ以上この件を問い詰める気はきれいさっぱり無くなったのだ。
それよりも、先輩と二人っきりでお昼を楽しめるというこの状況を、目いっぱい楽しむんだ。
「あ、清澄くんはパンなんだ」
「え、ええ。うちは両親が共働きで朝早く出るもんで、たまに自分で作るんですけど、今日は時間がなかったもので」
本当は先輩の事を朝から考えててそれどころじゃなかったからなのだが、敢えて言うまい。
先輩はどこか伏し目がちに答えた俺にニコっと笑みを向け、かわいらしいブルーの弁当箱をふとももの上に乗せた。
「そうなんだ~。じゃあじゃあ、明日から私が作ってきてあげよっか?」
心臓が、飛び出るかと本気で思った。
「え!?マ、マママジですか!?」
「うん。どうせ一つも二つも変わらないしね。それに私も彼女らしいことしなくっちゃ」
はあぁぁ!! こんな幸せがこの世にあっていいのだろうか。
もしかしたら俺、もうすぐ死ぬんじゃね?
そんなくだらない煩悩を何とか振り払い、答える。
「せ、先輩が無理でなければ、是非!」
「うん、よし、張り切っちゃうぞ~」
拳を作り、ぶんぶんと頑張りポーズを作る先輩。
「じゃあ、早速食べよう!」
「は、はい!」
先輩が作るお弁当か……。どんなだろうか。きっと超絶美味しいんだろうな。
「じゃあ、いただきます」
「い、いただきます」
先輩はパカっと弁当箱のふたを開けた。
色とりどりの具材やトッピングでデコレーションされた先輩の弁当は、なんだかそれだけで芸術のようだった。
……というか、これ、キャラ弁?
「今日は張り切って作ったんだ。ほら、これ、ぷ○キュアのレッドだよ!」
完璧超人、最上みれいとキャラ弁。
しかも、国民的少女向けアニメ『ぷ○キュア』のキャラクター。
どこからどう見ても、ミスマッチだった。
……い、いや、きっと小学生の妹さんのために作ってあげてるんだ。自分用も合わせてデコレーションしてるだけなんだ。そうに違いない!
「か、かわいいですね……。妹さんのために作ってあげてるんですか?」
うま~と満面の笑みでキャラ弁を頬張る先輩に訪ねる。
「ん? 妹? ううん、私一人っ子だけど」
「そ、そうなんですか。今日はたまたまデコっちゃった感じですか?」
「いっつもこれだよー。最新レパートリーが無くなってきちゃって困ってるの。そうだ、清澄クン、リクエストある? 明日キミ用のそれで作ってあげる!」
「あ、ありがとうございます。考えときます……」
準備あるから、夜までには教えてね! と言ってパクパク続ける先輩。
『完璧超人』最上みれいの意外な欠点その①
お弁当が毎日キャラ弁(幼女向けアニメ)
普段の先輩からは想像できないけど、きっと先輩とお昼を食べられたからこそ知ることができた”違った一面”かな……。
俺用のキャラ弁を何でお願いしようか悩みつつ、パンを頬張るのであった。
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