怪盗。

半人前のムクドリ定食

第1話

 灰色の中性紙に黒い文字が踊る。そう言えば…。昔新聞社を見学したことがあるのを思い出して、僕は少し首を傾げる。新聞紙ってどうしてこんな薄ぼんやりとした色をしているんだろう。1日あまりのその寿命に凝縮された人間たちの苦労と熱意をまるで感じさせない虚ろな色ではないか。教室の窓から一陣の風が吹いて前の席の女子の髪が揺れた。軽い感傷に浸っていた僕は現実に引き戻されて、机に立てた教科書越しに初老の教師をチラリと伺う。黒板にチョークを突き立てる教師に気付かれないよう、音を立てずに新聞紙をめくる。慎重に見ないと読み飛ばすような、小さな記事のはずだ。…パタリ、パサリ、パサリ。微かに音を立てて最後のページを捲るとカラフルなテレビ欄が目に入る。無い。あいつは、クラスメイトの鈴木は、確かに載っていると言った。どこに?と尋ねる僕に向かって、見りゃ分かる、とすら言ったではないか。今度は少し焦ってパラパラとページを繰る。前の席の女子が新聞紙が立てる音を聞き咎めたのか怪訝な顔を向けてくる。僕はその視線を避けて、立てた教科書の砦に身を隠す。

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