13.ぶちゅー、キスをされた。

それはほんのささやかな時間だが、しかし、深く情熱的なものだった。

突然のキスに僕は、菜野葉ちゃんの唇から解放された瞬間、酷くむせる。

「ふぅっ、魔力ご馳走様っ、救世主様っ」

菜野葉ちゃんはペロリと自分の唇を舐めた後、ステッキを振るった。

さっきより大幅な火柱が吹き、魔物達を焼いていく。

「へへっ、魔力供給のお陰で、パワーがみなぎる♪」

僕にウインクし、また、魔物を焼く仕事に戻った。

魔物は焼いても現れ、焼いても現れ、キリが無い様だった。

「まどかっ、キリが無いですよっ!」

「分かってるよ、でも・・・」

「もっと、魔法の火力を上げて、まとめて焼くですっ!」

「そんなの・・・今の魔力じゃ無理だよ!」

「救世主様にもっと、魔力を貰うですっ」

「それは・・・分かった、それしか無いね・・・っ」

女神ちゃんと菜野葉ちゃんはお互いに頷きあうと、僕を両手を二人で掴み

「救世主様っ、今、道を作るから、その道を作ったら、全力ダッシュで逃げるよ」

「逃げるですよっ!」

そう言って、菜野葉ちゃんはステッキを振る。

爆炎が吹き、魔物が焼け、道が出来る。

「ふう・・・、救世主様に貰った魔力、もうガス欠よ、さっ、走ろ!」

「走るですっ!」

二人は僕を引っ張って、炭となった魔物達の上を駆ける。

僕は、二人の手に引っ張られるがまま、廊下を走るのだった。



バタンッ!

魔物達に追いかけられた僕らは、何とか逃げおおせて、ロッカーの中に隠れている。

ロッカーの中に三人入っている訳である。

菜野葉ちゃんは衣服を所々破れ、そして、僕と女神ちゃんに到っては、風呂場に居た時のままの姿だ。

それを狭いロッカーで密着している。

真っ暗で、何も見えないが、二人の感触と息使いと体温が、距離0に存在する。

危機的状況なのに、僕はやましい事しか、考えられなかった。

「んっ、んんっ」

「せ、狭いですっ」

二人はぎゅうぎゅう、僕の中でもがく。

「や、やめてくれ、動かないで、二人共」

「しっ、静かに。魔物達に、私達がロッカーに隠れてるのバレちゃいますよっ」

女神ちゃんに注意され、黙るしかなくなる。

「良いですかっ?救世主様っ、私達は魔物の結界に閉じ込められて、そして、無数の魔物達に襲われていますっ。この状況を打破するには、まどかにもっと、もっと魔力を供給しなきゃいけません」

はあはあ、ふうふうと二人の息が僕の肉体に絡み合う中、女神ちゃんは言葉を続ける。

「頭撫で撫でとか唾液とか、そういうものじゃない、もっと、本格的な魔力供給をして貰います」

そう、暗闇の中の女神ちゃんは言った。

「本格的な魔力供給って、一体・・・」

「説明は後よ、救世主様。多分説明したら、救世主は魔力供給を拒否するわ。だって、救世主様は真面目で、誠実な人だもの。私みたいな女の子に気遣って拒否すると思うの。だから、今は何も聞かないで、私に身を任せて欲しいな?。ちょうど、今はまっ暗闇だから、私が何をしても救世主様はわからない。だから、何も考えずに私に任せて欲しい。これからする事は、ただの魔力供給で、やましい事は一切無いのだから。」

菜野葉ちゃんの声が、僕の目と鼻の先で、ささやかれる。

小さな声を一声、一声発声する度に、僕の顔に菜野葉ちゃんの息を感じる。

「・・・じゃあ、魔力供給、いただくから」

菜野葉ちゃんがそう言った後、暗闇の中で、何かが僕の唇を塞いだ。

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