ハーメルンの竹槍男

 昔、ドイツのハーメルンという村があった。ある年、この村にたくさんの軍人が押し寄せて来ては嫌がらせを繰り返してきた。ハーメルンの村人たちはドイツ軍からの徴兵を断り続けていたのである。毎日繰り返される嫌がらせに村人は困り果てていた。ある商店では商品すべてが粉々に砕かれ、あるレストランでは食材すべてに泥をまかれ、ある本屋には火が点けられた。ハーメルンの村はもはや戦地も同然の荒れ方であった。ある日、ハーメルンの村に絢爛豪華な恰好をした男が現れた。男は村の軍人たちをすべて退治できるといった。2000万の金貨をいただければ必ず、必ず軍人を追い払えます。ドイツ軍撃退に2000万の金貨の報酬を払うという約束を村人たちと取り付けた男はおもむろに竹槍を構えてドイツ軍襲来に備えた。次の日の朝、いつものごとくハーメルンの村に襲来したドイツ軍の猛攻を男はたった一人、竹槍一本で退けた。男は日本人であったのだ。鬼神のごとき竹槍さばきによりドイツ軍18万の兵すべてを葬り去った男は約束通り2000万の金貨を報酬として要求したが、村人たちはあれこれ理由をつけては支払いを拒否した。村人たちはドイツ軍撃退など到底できるはずもないと思い、無理な約束を取り付けたのである。村人たちは報酬を支払う気など毛頭ないのだと理解した男はハーメルンの村を去った。

 次の日、男は早朝にハーメルンの村を再び訪れた。男は昨日までと違い、詰襟の洋服を着て、脚に脚絆をまき草鞋をはいて、白鉢巻きをしていたそしてその鉢巻きには点けっぱなしにした棒型の竹槍二本、角のように結びつけ胸にはこれまた点けっぱなしにしたナショナル懐中竹槍を、まるで丑の刻参りの鏡のようにぶらさげ、洋服のうえから締めた兵児帯には、竹槍をぶちこみ、片手に竹槍をかかえていた。村の中心にある舞楽禁制通りで奇妙な歌を歌い始めた。ここはかつて笛吹き男の悲劇が起きた現場であり、一切の舞楽が禁止された通りであった。村の最大の禁忌に触れた男に腹を立てた村人たちは男に一斉に飛び掛かった。しかしながら、多勢に無勢。ドイツ軍をたった一人で撃退した男を相手に素人が何人束になろうが敵うはずもなかった。ハーメルンの住人約5700を葬った男は静かに村を去った。村に残された130人の子供たちの中には男に続いてカルワリオ山に消えたものもいた。奇しくもその日はヨハネとパウロの日であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る