バグ
乱輪転凛凛
第1話
いつからだろうか。
僕以外のこの世界があらかじめプログラミングされていたものだと気づいたのは。
中学校の頃僕は不登校だった。なぜなら行く理由がないと考えていたからだ。
勉強する理由がない。そう感じていた。ならば学校に行く理由がないので、行くのはおかしい。
そう感じていた。
だから行かなかった。
だが、周りの人間は学校に行っていた。しかも規則正しく。毎日。
休みの日は判を押したように友人とゲームをしたり、カラオケをしたりしていた。
そして段々気づき始めた。このプログラミングの秘密を知っているのは僕だけだと。
別々の人間であるハズの彼らの行動、言動がなぜこんなにも一緒なのかを。
僕はやがてそれを周りの人間に伝えないといけないという気がした。
早く彼らの洗脳を解かないと。僕は同じようにこの世界の仕組みに気づいた仲間が欲しかった。
僕は家で引きこもっていたある日、それまで友人だった人間をつけていくことに決めた。
つける、というのはずっと同じ行動をするという意味だ。
僕は彼の行動がいかにおかしいか分からせるために彼の後ろにつき同じ行動をするようになった。
学校にも一緒に登校し、いったん家に帰ったあと、下校時に待ち伏せて、彼を見つけて、彼に見つかるか見つからないか分からないようにして付き添った。
休日も彼が行くカラオケ屋の前まで寄り添っていった。
すると変化が起こった。
彼が僕と同じように外出しなくなり家に引きこもるようになった。
成功だと思った。これで彼も気づいただろう。自分自身の姿に。その愚かしさに。
僕は次に見ず知らずの会社員にもこれを行った。
見ず知らずの人間にも同じように成功した場合それは客観的な成功だと思われたからだ。
家から付き添い、会社まで一緒に行った。そして会社からも一緒に付き添った。
休日も家族でドライブに出かけたのでバイクで付き添った。
すると警察が声をかけてきた。僕は対応したが身分証明書を求められたので逃げ出すことにした。
なぜ警察が来たか分かっている。それは通報があったからだろう。
しかし、これで警察もプログラミングされていることが分かった。通報→職務質問のプログラミングの論理が見えたからだ。
警察もプログラミングによってコントロールされている。たまに不祥事を起こして人間らしさをアピールするが
それは前述したとおりアピールである場合と、欲望というものによってプログラミングされていたとも考えられる。
欲望。この内なるプログラムは僕の中にも眠っているがそれに支配されてしまう人がいる。
欲望のままに振る舞うのは人間であるということを失うことだ。
人間とはなんであるか。人間とは人の間だ。
人となんの間か。人と獣の間だ。
欲望のままに振る舞うと獣と一緒になり果てる。人間でなくなった彼らは人間に害を与えるようになる。ならば排除しなければならない。
彼らには自由意志が存在しないということだ。欲望によって人を傷つけ、欲望によって自分が傷つけられる。
そしてもっと大きなプログラム。それは社会というプログラムだ。
社会は役割を押し付けてくる。学校でもそうだ。二人三脚のように協調することを求められる。それも洗脳の一種だ。
そしてレッテル貼りによってそれは強化される。あの人はあんな人だ。この人はこんな人だ。そんなの誰にも分かりはしない。
分かるのは同じプログラムがインストールされているかだ。もっと言えば同じソフトウェアがインストールされていると言えばいいか。
この社会は一つのソフトウェア会社だと言うことだ。国ごとに別々のソフトウェアを開発し国民にインストールしている。
そして社会のシステムも長年の蓄積でプログラミングされてきたということだ。
ひょっとしたら支配者層はプログラムの枠外なのかもしれない。しかしそうではないと思う。この世の多くのものがコントロールされておりその支配から逃れることはできないからだ。
しかも支配者層は支配者層という役割を与えられている。支配者も多くの国民によってコントロールされていると考えられる。
僕はこの考えの賛同者を求めるためにTwitterを始めた。
賛同するものは、ほぼいなかった。分かっていたことだ。だがこうやって周知するのは悪くない。いつか気づいてくれる日が来るだろう。
すると突然ダイレクトメッセージが届いた。どうも多くのストーカーに悩まされている人のようだった。
そしてその人から言われた。
「気をつけて下さい。誰も知っていない秘密を知ってしまうと多くの人に攻撃されます。見ず知らずの人に陰湿な方法で」
と教えられた。
僕はゾッとした。僕は常に観察者を気取っていたが、いつの間にか観察される側の立場にもなっていたとは。
しかもプログラムが自らを正常だと思っているなら僕はきっとバグのようなものだろう。バグはきっと排除されるだろう。
ただ、僕はバグではない。なぜなら自分のことを内省できるからだ。自分を異常かもしれないという異常者がどこにいるのだろうか?
異常なものは自らを異常だと気づかないものだ。自らを振り返ることすらしない。彼らは振り返ることなく自らが正しいと思い込んでる。なんの根拠もなしに。
それこそが異常なのだ。異常者が数多く集まって自らを正常だと認識している、そのような状況だ。
そしてそれに気づいたものは僕しかいないのだ。
多くの人はメディアによってコントロールされている。元々テレビやインターネットなど僕たちの生活に必要なものでは無かったではないか。
だが次第に有効性を増していき、僕たちを依存させる。そして、広告、広告、広告の嵐だ。
それなしに社会生活を送ることは難しい。つまり僕たちは買え! ということだ。僕たちは消費するために生かされているだけにすぎない。
もっと言えば消費して消費されるために存在しているのだ。
餌を食べてもすぐに腹を殴られ餌を吐き出される。そして常に空腹なまま餌を求める。そしてすぐに吐き出す。
その繰り返しだ。決して満たされることはない。僕たちは満たされてはいけないのだ。なぜなら大量に消費するのが僕たちの役割だから。
満たされてはいけない。決して。そしてこんなにもモノと情報が溢れているのに僕たちはニヒリズムで溢れている。
そして人質に取られているのは僕たちの社会性だ。ネットに繋がないとメッセージを送れない。社会性を築けないということだ。
人間は常に人との関わりを求める。周りの人間がネットとメディアに染まっているなら、染まらないことは周りの人間との隔絶を意味する。
ならば人間はメディアやネットから逃れられないということだ。それが良くも悪くも。人間は染まり続ける。
人はTwitterのトレンドを追いかけ、それが正しいものだと思い込む。確かにトレンドには経済価値はある。それを追いかけられるなら。
僕はコンビニに出かけた。コンビニの店員が挨拶してきた。なぜだろうか?なぜ僕に挨拶するのか。これも彼らが僕を疑心暗鬼にさせる罠なのだろう。
会計をした。合計金額が1423円だった。これも彼らからの何かのメッセージなのだろうか。
もうこのコンビニには行けない。そう思った。
僕は家に帰りネットをまた始めた。そして僕の知り得るこの世の真実を伝え始めた。
ある日ネットを見ていると僕の書き込みが別の人の手によって拡散されていた。
どうも見ると悪意のある様子で拡散されているようだった。
僕は最初腹を立てたがやがて悪意でも真実を拡散されるならそれでもいいかと思い始めた。
僕は買い出しに行くことにした。もちろん別のコンビニにだ。
コンビニのイートインスペースでカップ麺を食べ始めると後ろに僕を盗撮している人がいた。
スマートフォンでじっと撮っている。僕はそれを睨みつけると声をかけた。
「なにをしてるんだ。」
その人は僕が声をかけると逃げて行った。
攻撃されているのだろうか。
周りの人間に。
僕はすぐさま家に帰った。
Twitterのアカウントには通知が止まらなかった。僕の書き込みが拡散しているみたいだった。
しかも悪意ある拡散つまり炎上というものだった。
つまり頭がおかしい扱いをされていた。
僕はすぐさま炎上に対して反応した。これは僕が見た真実であると。この世界はプログラムされていると。
分かって貰えなかった。最終的にはなぜか僕の個人情報まで書き込まれるようになった。
そして名誉毀損をされた。あることないことを書かれた。
そして家の固定電話の方に電話がかかってくるようになった。
父親と母親が当惑して僕を問い詰めた。なぜあんな書き込みをしたんだ。あんなことをするからこうなっただろ!
僕は言った。
僕は誰か傷つけてはいない。ただ自分の思うところ、考えているところを書いただけだ。
憲法では思想良心の自由は保障されている。つまり本来どんなことを考えてもどんなことを発表してもいいハズだ。
その意見に対して反論してくるならまだいい。こいつらは僕の言うことを全く理解せず、把握もしようとせず
表面的なものの見方で攻撃してくる。しかも僕自身の人間性や家庭にも攻撃してくる。こんな不条理があってもいいのか?
逆にこいつらの個人情報を特定して訴えるべきだ。と答えた。
自分たちの意見と異なる意見を出した人間をバグを修正するように必死に直そうとしてくる。俺たちの意見だけが正しくてお前の意見は間違っている。と。
母親から誰かをつけ回したのではと聞かれた。
正直に答えた。確かにだれかをつけたことはある。でもそれは理由があってのことだ。もしそれが許せないというなら訴えたらいい。それはその人と僕との問題だ。他の人にどんな関係があるだろうか。
彼らは恐怖と欲望によって支配されているんだ。僕がなにか、しでかすかもしれないという恐怖と、そして誰かを傷つけたいという欲望だ。
いわゆる不良は「悪いことを昔、散々やったなぁー」で話を終わらせようとする。それによって傷つけられた人、人生を狂わされた人のことは全て無視して。
過去の悪行は棚に上げて、こちらのやってもいない暴力に恐怖して攻撃する。
こんなに狂ったことがあるか?
誰でも叩けばホコリが出るものだ。間違いを起こさない人なんていない。それを理由に第三者が攻撃してくるなんて許されない。
だが親には理解してもらえなかった。きっと理解してもらえるはずもない。なぜなら本当のことを理解しているのは僕だけだからだ。
僕は急に知り合いを許せなくなった。
僕が「つけた」知り合いだ。
彼が僕の個人情報を拡散するのを手伝ったに違いない。と思った。
訴えるなら訴えてきたらいい。なぜこんな人を追い詰めるようなことをするのか。僕は彼への復讐心でいっぱいになった。
その日僕は眠った。明日彼とどんな話をしようかと思いながら。
次の日は休日だった。僕は僕を追い詰めた彼のところにいった。
インターフォンを鳴らした。誰も出てこない。一瞬2階から僕を見ている彼が見えた。居留守を使っている。僕は考えた。
僕は彼の携帯電話に連絡することにした。出ない。しばらくかけていると誰かから声をかけられた。
警察だった。ここでなにをしているのか聞かれた。
友達の家のインターフォンを押してるだけだと答えた。
住所や名前を聞かれたので面倒くさくなってその場を離れたら応援を呼びつつ、つけ回された。
僕は家に帰った。玄関では警察と親が話し合いをしていた。
僕は思った。やっぱりあいつがやったのだと。家に訪問しただけなのに通報するなんておかしい。
許しがたい。こうやって追い詰めていってあいつらは楽しんでいるんだ。
これがストレス発散なんだ。そして事件が起きると知らぬ存ぜずを繰り返す。
自ら犯罪者を量産しているみたいだ。一人の人間を追い詰めて日常生活の悪意をぶつける。
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