瑞慶覧姉弟と僕
第7話 前編
僕がオカルトに傾倒するようになったのは、高校の頃。
部活の合宿で夜ひまを持て余していた。
学校の教室が控室兼寝床で、非日常の雰囲気がワクワク感を増やしてておかしなテンションになった1人が言い出したんだ。
「怪談話しようぜ」と。
懐中電灯を真ん中においてみんなで車座になった。
女子部も呼んだから、異様に盛り上がっていた。
まずは、オーソドックスに学校の七不思議から。
とはいえ、うちの高校に七不思議はなかったから話したやつの中学校の七不思議とか。
色んな学校の七不思議なのに、似通ったものがほとんどであとは、その学校の特色を表したようなものが幾つか。
七不思議というものは、どこも一緒なんだなぁと思いながら聞いていた。
そんななか、1人だけ雰囲気が違う女子がいた。
そこ子が話すと、それまでキャッキャしていた雰囲気が変わるんだ。なんていうか、温度が下がる感じ。
ちょっと異質な空気になるから、みんなシンとして聞き入ってしまう。
僕はその子が話す間じゅう背中がぞくぞくしていた。
どうやら、その子は手持ちのカードが豊富にあるらしく、何話か話していた。
みんなも怖いけど聞きたくて、その子にふる感じ。
「そうだなぁ。じゃあ、ひとつ面白い話を話そうかな。私が体験した話なんだけどね」
そう、前置きをして彼女が話しだした。
私の従兄弟に、心霊スポット巡りが好きな人がいるの。彼にちょこちょこ連れて行ってもらっていたのね。ある時、スポットで有名な峠に連れて行ってもらったの。
その日は珍しく夜だったの。
いつもは女の子を連れまわすからって言って昼間だったのに。坂道を登って、中腹くらいかな。
彼が車を路肩に停めて、外に出ようかって言ったのね。
街の灯りが眼下に広がって、足元は鬱蒼とした森があったの。真っ暗でね、森の中はなにも見えない。
従兄弟がね、言うのよ。
鳥の鳴き声とか虫の声が何も聞こえないだろう?って。
言われてみて気づいたわ。
さっきまでは虫が鳴いてたのに。
従兄弟になんで?って聞いたの。
下の方見てみな、っていわれたのね。
言う通りに森の方を見てみたら、無数の赤い点々があるの。ぱっと見100ぐらいあったかな。
私は従兄弟に、あれなに?動物?
って聞いたの。
違うよ。反射するもんなんてないだろ?
って返されたの。
じゃあ何?って聞いたら
あれな、幽霊の目って言われた。
私、それまでスポット巡りしても1度も見たことなかったから、興奮したんだけど、続く言葉に怖くなっちゃったの。
だって、赤いのは怒ってる色なんだよって言うんだもん。
色によって意味が違うんだって。
それぞれの色の意味は忘れちゃったけど。
え?!大丈夫なの?って聞いたら
分からない。帰りに事故らないといいなって笑ってた。
私、視力が悪いの。
いまはコンタクトしてるんだけど、当時はメガネだったのね。
でさ、従兄弟が言ったの。
裸眼で見てごらん、って。
裸眼で見たけど、別に何も変わらないの。
何も変わらないけどって言ったら
よーく考えてごらん?
お前はいま、裸眼だろ?って言われて、はぁ?となって一拍おいて気づいたの。
裸眼なのに、メガネかけてる時と同じように見えてることに。メガネかけてる人なら分かると思うけど、ありえないのよ。
光がぼやけずに、輪郭を保ったまま鮮明に見えるなんて。
動揺している私を見て、従兄弟はイタズラが成功したかのようにニヤニヤ嬉しそうに笑うの。
お前、いっつも幽霊見たがってただろ?
おめでとう。見れたなって。
従兄弟が言うには幽霊ってね、視力が悪くてもハッキリ見えるんだって。
不思議よねぇ。
僕はその話を聞きながらゾクゾクがさっきより酷くなっていることに気づいた。
そんなことは初めてだったから、風邪でも引いたんだろうと考えてた。
みんながシィンとなった瞬間、突然教室の扉がガラッと開いたんだ。
さすがに飛び上がってしまった。
キャー!とかって叫んだ女子もいた。
「こら!お前ら何やってんだ!!」
そう怒鳴りながら顧問の先生が入ってきた。
怪談話をしてたことに呆れながらも、さっさと寝ろと言って、女子たちは教室に戻るように促しながら、先生がそういえば…と前置きをして
「怪談話していると、幽霊が引き寄せられて来るらしいぞ」
ってニヤリと笑って言ったんだ。
オラー!幽霊が来る前にションベンして寝ろー!って、まだ残ってた女子たちを追い立てて教室から出した。
先生ってば今の良かったのに、最後ので台無しー!とかって女子が口ぐちに文句を言いながら去っていった。
残された僕たちも、さっきまでの雰囲気が消し飛んで白けた気分になり、もう寝るかぁってなった。
夜中にトイレに行きたくなってふと目が覚めた僕は、
みんなが転がっている間を慎重に歩いて教室から出た。
月あかりが綺麗だなぁって廊下を歩いてたんだ。
その日は満月で、窓から差し込む光で廊下に電気が点いてなくても大丈夫だった。
とはいっても、階段のおどり場の明かりはついていたから真っ暗というわけじゃなかった。
トイレに向かって歩いていると、窓の途切れた壁に人影が見えてギクッとした。
その瞬間、寝る前の怪談話をしてた時のゾクゾクを思い出したんだ。
そして、その人影は人間なんだろうかと考えてしまったから、冷水を浴びたように硬直してしまった。
「なぁに。人を見て幽霊を見たような顔しちゃって」
そう言って暗がりから笑いながら出てきたのは、怪談話をしていた時にいた女子だった。
「ごめん。さっきの怪談話を思い出しちゃって…」
「まぁ、分からないでもないけど。トイレ?」
「うん」
「私もー。怖いからトイレまで一緒に行こうよ」
その申し出は願ったり叶ったりだったから、トイレまで一緒に行くことにした。
その子とポツポツ会話しながら歩いて、トイレの前でわかれた。
すっきりしてトイレを出て、一応少しだけその子を待ったけど出てこないから、もしかしたらもう戻ったのかもと思って僕も戻ることにした。
窓から校庭を見ると、さっきの女子がいた。
何してるんだろ?
先生に見つかったら怒られるぞ。
その子は僕に気づいてニッコリ笑って手を振った。
僕も手を振り返してから教室に戻った。
また、転がっているみんなを慎重に避けながら自分の寝床についてタオルケットにくるまった。
そういえば、怪談話をしていた時のぞくぞくがスッカリなくなっている。
風邪じゃなかったのかなぁ。
あれはなんだったんだろ。
その瞬間、背中がぞくっとした。
うわぁ…やっぱりヤバいかも。
そういやあの子、薄着のままだったけど大丈夫かな。
夏とはいえ、近頃は朝晩少し肌寒くなってきているし。
そこでとある事に気付いたんだ。
さっき寝起きで頭が働いてなかった僕は、トイレまでメガネをかけずに行ったことを。
え…?
ドクンと心臓が強く脈打った。
待って。
僕、さっき、あの子の顔がハッキリ見えてた。
“従兄弟が言うには幽霊ってね、
視力が悪くてもハッキリ見えるんだって。
不思議よねぇ。”
そんなセリフが頭の中を駆け巡った。
廊下を歩く、ひたひたとした足音が聞こえた気がした。
いや、気のせいじゃない。
聞こえる。
その足音は、僕のいる教室の扉の前で止まった。
カラカラカラ…
扉がゆっくり開く音がした。
心臓がうるさいくらいになっている。
口の中がカラカラに乾いて、悪寒がする。
ひた、ひた、ひた…
足音が教室の中に入ってきた。
その音は、ゆっくりこちらに向かってきている。
時おり立ち止まる。顔を確認しているんだろうか。
僕は目をギュッとつぶって顔をタオルケットで隠した。どんどんこちらに近づいてきた。
このまま気絶でもできたらどんなに楽だろう!
でも僕の意識はしっかりしたまま。
むしろ、緊張でどんどん冴えてきている。
足音がとうとう僕の後ろで止まった。
ゆっくりと、気配が近づいてきた。
そのとき-
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