第6話 失せ物探し(結)

「それで? 結果はどうだったの?」


モモちゃん先輩が珈琲の入ったカップを持って向かい側に座わる。


「指輪は、やっぱり遺族が持ってました。被害者も逝くべきところに逝きましたよ」


「結局、呪術師は分からずじまい?」


「そうなんですよ。

設楽先輩が言うには、なかなか悪辣な奴らしいです」


「設楽がいうくらいだから、抜け目ない奴なのね」


「みたいですね。設楽先輩の包囲網に引っかからないくらいだから」


「いやぁね。設楽みたいな奴が他にもいるなんて。

設楽がこっち側の人間で良かったわ」


「それ、本当に思います…」


「ところで!」


「なんですか?」


「この子の名前は考えたの?!」


モモちゃん先輩の膝の上で本来の蛇の姿でくつろいでいる物の怪を撫でながら言った。


「…」


「その顔は、まだね。さすがにこの子も可愛そうよ?」


「なんというか…親が子供の名前で悩む気持ちが分かった気がします」


「ぷっ。なぁにそれ? 慎重に考えてるのは分かったけど、大好きな人に名前を呼ばれないこの子の気持ちも考えてあげてね」


「はい…」


そうなのだ。


こいつと出会ってもう1年以上経つのに、いまだ名無しのごんべぇ状態なのだ。

分かってる…分かってるんだ…。


ただ最初に見た時にペスみたいだと思ってしまったせいか、浮かぶ名前が犬っぽいやつばかりなんだ。


でも、モモちゃん先輩がいうように、このままじゃダメだと思っている。

そいつ とか こいつ とか、嫌だよなぁ。


俺は、じっとそいつを見つめた。



「――ハク」



「え?」


モモちゃん先輩が首をかしげた。


「ハク。こいつの名前はハクにします」


パッとハクが顔をあげてこちらを見た。


「うん!いいじゃない。素敵!ハクちゃん、どう?」


蛇の姿のままコクコクうなづき、にょろにょろ身悶えた。


「…私、蛇って苦手だったんだけど、ハクちゃんと出会ってからどうも萌え対象になったみたいなのよね」


「分かります。ハクって、萌えツボをガンガン刺激してくるんですよね」


2人して悶えてる蛇を見ながら呟いた。




今回の怪奇譚の顛末としてはこうだ。


遠藤静香ちゃんと俺に起こっていた妙なできごとは

無事、解決した。

使役霊として使われていた被害者の霊はあるべき場所へ。

今回の呪術師は誰か分からずじまい。


そして…。


俺たちに復縁の代償として呪いの依頼をした女はあれから大学に来ていない。

聞いたところによると、日に日にやつれていき暗がりを見て怯えたり、ブツブツと独り言を言うようになっていたらしい。


設楽先輩曰く、使役霊を使役するために使用したエネルギーみたいなものが行き場を失い、呪い女のところへまっすぐ戻っていったのだ。


呪術の媒体に女自身のもの、例えば髪の毛とか爪とか血とかそういった類のものを使用していただろうから。

使役霊がいなくなったとしても、そのあたりはゼロになるわけじゃないらしい。


「もちろん、やり方にもよるから呪術師があえてそうしたんだろうな」


とのことだった。


うん。やはり、その呪術師怖い。

人を呪わば穴二つというものを目の当たりにした気がする。


ただ


「彼女がちゃんと君たち2人に謝罪して自分の行動の責任を取るようであれば、祓ってあげるけどね。

まぁ、あとは彼女次第だ」


と設楽先輩が申しておりましたので

俺は、お節介だがそんな伝言を女の友達にでも託そうと思う。

チビ先には死にはしないのだからほっとけ、と言われたが。


さて。


俺は、今日これから都内のあちこちを回って

貢物を手に入れなければならぬ。

設楽先輩への貢物…お菓子だ。


貢物とはいっても、お金は設楽先輩から預かってるからただただお使いである。


甘いものが大好きな設楽先輩は、ネット販売されていない隠れた名店のお菓子をご所望なのである。

それを俺は買うために走り回るのだ。


まさに「体(力)を使って割引額を払う」わけだ。

体で払わせるといつつ、ちょっとお小遣いもくれるイケメンである。

設楽先輩の影響か、最近ハクもちょっと甘いもの好きになってきた。なのでハクの分も買う予定だ。



「よし、行こうか。ハク」




リリン…

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