後編 和井仕上げを行う

「いらっしゃいませ~」

「あの・・・サマージャンボクジをバラで3万円分お願いします」

「はい、1枚300円ですので丁度100枚分ちょうど頂きます。ありがとうございました~」


俺は和井に指示された通り、宝くじを購入しに販売所巡りを行っていた。

日本全国に在る宝くじ売り場はネットで調べると全国で少なくとも3000件以上が存在することが分かった。

俺はそれを順に巡りながら受け持ちの500件で100枚ずつ、5万枚を購入するのが目的だ。

まさかこんな抜け道が隠されていたなんて・・・








「3億円を現金化?」

「そう、今この金は使うに使えない闇金って事は分かるよな?これを実際に自由に使える金に変えるんだ」

「ちょっと待ってくれ、これ偽札なの?!」


ハハハハッと笑う和井は首を横に振って教えてくれた。

今目の前に在る現金は表に出せない金、大きい買い物をすれば出所が怪しまれ、貯金などを行えば有事の際に動かせなくなる。

その為、入手経路がハッキリしている現金に切り替える必要が有るという事であった。


「1億5千万円を1億で購入する方法を知ってるか?」

「いや・・・分からない・・・」

「簡単な話さ、1億円の宝くじ当選券を1億5千万円で売れば良いのさ。宝くじってのは・・・非課税なんだぜ」


それはバブル時代よく話されていた話であった。

実際に裏ではこう言った取引が頻繁に行われていた時代があったのだという。

脱税や横領で入手した裏金、それを表立って使える現金に変える為に多用された手法なのだと和井は言った。

宝くじを手に入れた者は自由に使える現金に変える事が出来、現金を手に入れた者はタンス預金の様に領収書の必要にならない買い物で使っていけばいい・・・

まさに目から鱗とはこの事であった。


「でもそれなら宝くじが当たらなかったら大損じゃないのか?」

「まぁ目減りはするだろうね、宝くじの還元率ってね・・・50%以下にするように当せん金付証票法で定められているのさ」

「法律で?!」

「そして、平均還元率は高額当選を除いても25%前後が見込める!」


その言葉に簡単に計算をする・・・

3億の25%と言えば7500万円・・・

それはあまりにも・・・


「あまりにも減りすぎなんじゃ・・・」

「ちっちっちっちっ・・・何も分かってないな、お前の取り分は5000万円だ」

「えっ・・・」


5000万円、今の生活を一生続けてもそれほどの現金を稼げる訳が無い。

だがそれだと和井と自分の儲けに差が・・・


「勘違いしてるな?これは高額当選が出ようが出まいが固定で払うって契約だ。それとも完全折半が望みか?」

「いや・・・」


そう言われ俺は言葉を止めた。

よく聞く話だ、例え1億使ったとしても高額当選が1枚も出なかった・・・

もしそうなら折半にしたとして運が悪いと折半すれば3000万円も残らないかもしれない。

だが和井は宝くじの購入を手伝うだけで5000万円の現金を約束してるという・・・

学生時代のワクワクが蘇ってくる・・・

俺は和井の手を取り協力を約束した・・・








「ふぅ・・・ここで隣の県に移動しないとな・・・」


俺は購入した宝くじを小さい段ボール箱に詰めて自宅へ郵送する・・・

流石に全ての宝くじを持ったまま移動するのは大変だと考えたが和井は既に簡単な方法を作り上げていた。

購入した宝くじをあらかじめ用意しておいた物に詰めて封をして自宅へ郵送するのだ。

これも全て和井が計算をしており、クリックポストと呼ばれる物を使って郵送した。

驚く事に厚さ3cmまでで1キロ以下の荷物を全国一律188円で送れ、追跡番号付いていて配送状況が確認できる。

これで不着対策まで取ってあるのだ。


「全くあいつは凄いやつだよ・・・さて次行こうか」


ここまで頭の回るやつだ、俺の現在位置もGPSを使って確認しているに違いない、なによりあんな裏金を見せてまで俺の事を信用してくれたんだ・・・絶対に成功させないと!


こうして俺は予定通り500件の宝くじ売り場を2日かけて巡った。

家に帰ると和井も数時間遅れで帰ってきて合流することが出来た。


「お疲れ、飲み物買ってきたからお祝いしようぜ」

「おっ良いねぇ~」


こうして全ての仕事が終わり二人で祝杯を挙げた。

そして、これが俺の最後の記憶となるのであった・・・
















田舎の山の麓の一軒家にパトカーが集合していた。


「警部補、お疲れ様です」

「害者はあれか・・・」


仰向けに倒れた男性の死体。

周囲に血が飛び散り部屋が真っ赤に染まっていた。

噎せ返るような血の臭いがする部屋の中に警部が入り掛けられたシーツを剥がす。


「酷いもんだ・・・」


そこには顔面が叩き潰され両手がぐちゃぐちゃになるまで潰された死体が在った。

警部はそっとシーツを戻し部下の報告を聞く。


「周囲に散らばる血液型と体格、容姿からここに住む和井という青年であろうと鑑識と住民から確認が取れました」

「確かか?」

「えぇ・・・ですが歯形も指紋もこの状態では取れず確証は・・・」

「け・・・警部!!」

「どうした?」


その時、一人の警官が1冊の日記を見付けた。

そこに書かれていたのは死体を底なし沼に捨てに行った人間を脅してお金を振り込ませた記録・・・

そして、その全ての金をギャンブルで使ってしまい逆に脅迫を受けていると言う記載であった・・・


「こ・・・これは・・・おい!上に報告だ!本部にも!これは重大事件だぞ!!!」


その翌日、全国を震撼させたニュースが報道された。

底なし沼から100を超える死体が発見され、そこの奥へ沈んでしまった遺体は引き上げ不可能・・・

噂ではその5倍以上の遺体が沈んでいると報道され村の名前は一躍有名となった。

また日記に記載されていた通り怪しいと思いながらも騙されていた整備工場から死体遺棄を行った物凄い人数が検挙されていった・・・









「お待たせしました。こちらが高額配当金になります」

「ありがとうございます。お話していた通りこちらで預金させていただきますね」

「はい、ありがとうございます。今後とも当銀行を宜しくお願いいたします」


自動ドアを出る時、支店長までもが入り口で頭を下げてくれていた。


「いや~面白かったなぁ~結局高額当選込みで約1億2300万円か~」


そう言ってアパートの部屋に帰る。

あの日、友人を身代わりにして和井は入れ替わったのだ。


「あの口座にちゃんと5000万円残しておいたからアイツあの世で使ってくれてるかな?」


そう言って買ってきた炭酸飲料を片手に窓から空を眺める。

和井が言っているのは勿論友人への報酬である、だがその金は宝くじの当選金ではなく最初から振り込まれた金の残額であった。

全ては和井の考えたシナリオ通りに進んでいたのだ。


「さぁ~て、次はこの金を元手に何して稼ごうかな~」


そう口にして炭酸飲料を一気に飲む。

和井は部屋のごみ箱に空き缶を投げ捨て部屋を出ていく・・・

もう二度と戻らないこの部屋を・・・



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億万長者への道 昆布 海胆 @onimix

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