第4話
「……と、かっこつけてみたは良いが、正直2人で依頼をこなすのは不安だ。人数を増やしても報酬額に変わりは無いか?」
冒険者は少人数で行動する。行動するが、流石に2人というのは少なすぎる。最低でも4人、欲を言えば6人程度いれば、おおよそ安定して様々な役割を分担出来るのだが。
「構わん。金を惜しんで貴公等に死なれても困る」
「それを聞いて安心した。では早速他のパーティメンバーを探してこよう。鼠、行くぞ」
「あっ、待ってよメディ~」
私を追いかける鼠の足は、思ったよりも素早かった。
***
「さて、パーティメンバーか……」
「メディには普段パーティ組んでる人はいないのか?」
「いないな、欲しい素材が手に入りそうな依頼を探して募集するか、既にある程度集まっているパーティに一時的に入れて貰うか、という具合だ」
「なんか普通にパーティに入るよりコミュ力要りそうじゃない、それ?」
「どうだろうな」
鼠の軽口を流しつつ、今までパーティを組んだことのある連中の顔を思い浮かべる。真っ先に思い浮かぶのはユーシズ魔導公国で学生をしていた頃の級友だが、彼ら彼女らは無論この大陸にはいない。その他にも様々な人物が脳裏を過ぎるが、正直、私達と同等以上の実力を持った者、となるとほとんど思いつかない。
「掲示板に貼り出したとして、金に目が眩んだ雑多な冒険者が集まるのがオチだな……おい鼠、お前は心あたりは無いのか」
聞くと、鼠はニヤリと
「……このガメル信者が」
呆れて、本当の貨幣神の聖職者に聞かれれば張り倒されかねない罵倒が口から出た。
「流石に冗談だよ。パーティメンバーでいる内は出血大サービスさ」
「はぁ。で、そこまで言うなら良さそうな人物がいるんだろうな」
「もちのロン。って言っても、冒険者じゃないんだけどね」
「まあ、探し屋のお前といる時点でそれくらいは些末なことだ。で、誰なんだ?」
「“悪竜団長”ガラニカ。メディも聞いたことくらいはあるんじゃない?この地区の自警団のボスさ」
その名前には聞き覚えがある。自警団、と鼠は言うが、
「……信用出来るのか?」
「少なくともクライアントとしてと、
「お前が言うなら確かなんだろうな」
出会ってからそう時間は経っていないが、鼠が話す情報は信ずるに値する。そもそも、こんな幼い少女がこの無能地区で探し屋として生きていけていることが驚嘆すべき事実なのだ。つまり、彼女が年齢など気にならない程に優秀で、仕事が出来るということなのだろう。
「この時間なら騎士団のアジトにいるはずだよ。会いに行く?」
「荒事になっても私達なら平気だろう。乗った」
「よしきた」
そうして私達は、無能地区の路地裏へと歩を進めていった。
***
途中何度かごろつきに絡まれたが、魔力を込めて剣の鞘で打てば、大概は一撃で気絶した。やがてごろつき共が私達に道を譲るようになると、悪竜騎士団のアジトだという建物が見えてきた。
黒い竜が炎を吐いている少し趣味の悪い看板の下をくぐると、強い酒の匂いがして、全身に刺青を入れたり、奇抜な髪型をした男共の視線が一斉に私達に向いた。思わず剣の柄に手が伸びたその時、荒々しくも良く通る男の声が奥の方から聞こえてきた。
「おうおう、カチコミかい姉ちゃん達」
黒い鱗、赤い瞳、2メートルを超える巨躯、皮膜の翼。これらの特徴を備えた人族は1つしかない。リルドラケン、剣を持ちたいと望んだ竜が形を変えたと言われる種族だ。
「挨拶の1つもしなかったのは謝罪しよう。別に襲撃ではないよ。交渉をしに来た」
「アタイだよガラニカ。今日は情報を売りに来たわけじゃないけどね」
私の下手に出た態度より、鼠の気安い態度の方にガラニカは緊張を崩した。そもそもこの2人は顔見知りなのだろうから、最初から任せておけば良かったのだ。
「なんだ、ラットじゃねえか。随分美人を連れてるが、コレかい?」
ガラニカは小指を立てる。それが恋人や伴侶を指すジェスチャーであることは、私も承知していた。
「なわけないでしょ。今この人とパーティ組んでてね。詳しいことはこれから話そうと思ってるんだけど」
「パーティだぁ?おめえは強いが冒険者じゃねえだろ、どういう風の吹き回しだ」
「金に目が眩んだ結果だ」
「ははっ、ラットは金に目がねえからなあ!」
このガラニカという男は、私が思っていたよりも話しやすい部類の人物であるようだった。なるほど確かに、集団をまとめ導くのには向いているのだろう。
「ま、話があるんなら部屋を用意するぜ。ついてきな」
言われた通りにガラニカについていく。私を見る男達の下卑た視線だけがこの空間で気にくわないものだった。
***
部屋の扉が閉まって、私は息を吐いた。自分で思っていたよりも大きな音が出ていたのか、その動物の耳はやはり聴力が良いのか、鼠が私の顔色を窺う。
「どうかした、メディ?」
「いや、どうにも男が苦手でな。言っておくがそっちの
「悪いな、どうにもここは男所帯なもんでよ。で、話は何だ?」
個室には多くの酒が置いてある棚があり、そこから一本取り出して開けてから、ガラニカはそう問うた。リルドラケンは総じて酒好きであり、そして大して強くは無い。グラスに注いだ分を一口で飲み干した後は、その黒い鱗の間に赤みがさしていた。
「鼠からお前は強いと聞いてな、今私達が受けている依頼を手伝って欲しい」
「へぇ……報酬は?」
「最少で1人1万、最大で3万」
報酬額を聞いて、ガラニカの目つきが変わった。決して報酬金額に目が眩んだ、という雰囲気ではない、剣呑な目だ。
「依頼人は?どうしてそんな高額な報酬を出す」
「依頼人はクロウリーという男。報酬を出す理由は、道楽だそうだ」
あくまで簡潔に伝える。下手に喋りすぎて墓穴を掘るようなことはしたくなかった。
「あの金髪の男か……ならその金額にも頷けるが、内容は?」
どうやらガラニカもクロウリーとは知り合いらしかった。今まで私が知らなかっただけで大層な有名人らしい。
「『教団』とやらの情報収集、あるいはその壊滅。情報だけなら1万、壊滅出来れば合計3万ということになっている」
「ラット、おめえこの依頼受けたのか」
「お金、欲しくて……」
ばつが悪そうに頭を掻きながら、ラットは正直に答えた。ガラニカは大きく溜め息を吐き、次いで音を立てて膝を叩いた。
「わかった。ラットが死んだら俺も寝覚めが悪い。手伝ってやる」
こうして、存外すんなり話は通った。ガラニカはその後団員達にしばらく留守にすることを伝えると、私達に同行することになった。
***
人物紹介
“悪竜団長”ガラニカ リルドラケン/男/40歳
無能地区に存在する自警団『悪竜騎士団』の団長。ならず者の多い団員達をとりまとめ、悪竜騎士団が無軌道な暴力集団にならないよう目を光らせている。本人は情に篤い人物であり、友人や仲間に助けを乞われれば断れない性質。
無能地区の治安は賢者達の間でも度々議題に上がるが、優秀な賢者達でも魔法を使えない人々に対する有効な政策が思いつかず、結果的に荒れたままになっている無能地区を立て直すために悪竜騎士団を設立した。
習得技能:グラップラー9、スカウト8、プリースト(ティダン)7、エンハンサー3
習得特技:《追加攻撃》《カウンター》《トレジャーハント》《ファストアクション》《武器習熟A/格闘》《魔力撃》《マルチアクション》《変幻自在》《防具習熟A/非金属鎧》
主な装備:パワーリスト+1、パワーアンクル+1、アラミドコート、スマルティエの風切り布、真・ブラックベルト
用語解説
貨幣神ガメル
ラクシアの通貨、ガメルを作り出した古代神。彼の存在によって、ガメルは一定の価値が保たれている。公平な取引を良しとしているため、劇中のメディのように守銭奴に対して「このガメル信者め」などと言えば、本当のガメル信者からは顰蹙を買うことになる。
※SW2.0時代に存在した公式の神様です。
悪竜騎士団
“悪竜騎士団”ガラニカが率いる無能地区の自警団。自警団ではあるが実態はギャングのようなものであり取り締まりと称して行われた暴力事件は枚挙に暇が無い。しかし彼らの存在が抑止力となり、無能地区での凶悪犯罪は減少傾向にあるため、国としてはどうすべきか手を焼いている。
***
あとがき
あとがきとは言いますが、勿論これからもまだまだ続きます。物語中に差し込まれる作者の言い訳は、なかがきとでも表現するべきでしょうか。
まずは更新が遅れてしまい申し訳ありませんでした。実生活が慌ただしかったり、ファイアーエムブレム風花雪月に今更ハマったりして執筆が手につかない状況でした。
さて、このままの勢いで裏話というか、このタイミングになってこの作品が出来た経緯を話させて、というか書かせてもらおうと思います。
まず、この作品のあらすじにある通り、この作品の舞台になっているケルディオン大陸は、自分の身の回りのTRPG仲間(身内とか、鳥取とか言われる集まりです)の間でシェアワールドとして色々と違法建築したものです。ですから、この作品に出てくるキャラクターも、元は自分で考えたわけではないものもいます(クロウリーさんが最たる例です)。この大陸を使ったセッションを続けている中で、ちょっとした小話やコラムを書いている内に、TRPG仲間の一人から、カクヨムで二次創作を書いてみないかと誘われ、実際に書いてみたのがこの作品です。
さて、この作品の人物紹介では、詳細に(とはいっても読んでいてくどくならない程度に)キャラクターのデータを記載しています。これは実際に、ルールブックⅢにある9~10レベルのレギュレーションでキャラクターシートを作成したものを載せています。キャラクター保管所様でメディやラットの名前で検索すれば、彼女達の実際の能力値を見ることが出来るでしょう(もちろん、ノベルにするにあたって、本当にダイスを振って判定をしているわけではありませんが)。読後のちょっとしたオマケとして、見てくださっても構いません。
改めて、こんな前提知識が通用しない滅茶苦茶な二次創作小説を読んでくださっている読者様と、自分一人では思いつかない芳醇な世界を創ってくれている仲間達に、深くお礼申し上げます。
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