手と骨

世界を旅する黄色いイキモノ「みじんこ」

序章 - 溶けるように死んだ女

 韓国で若い女が溶けるように死んだ。名前だけは国際的な感じがする誰も知らない賞をいくつか獲り、無責任な友人の言葉に寄りかかったアーティストだった。所属ギャラリーがあるわけでもなく、とはいえどこかに売り込みに行くでもなく、積み上がったプライドが扉をふさぎ、部屋から出ることができなくなって餓死したと聞いた。


 四畳ほどの部屋のコンクリートの壁には、指でこするように消した鉛筆の跡が残されていた。部屋の中に残された無数の作品は、溶けた彼女自身が浸み込んで腐臭を放つ。食べ物がなくても手放さなかった携帯電話。

 母親に送られた最期のメッセージには、こう書かれていた。


「やっとできた。タイトルは『手と骨』これでダメなら、もうアートはやめようかと思う」


 彼女の遺作は、今も見つかっていない。

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