キミは光の中で輝き続ける
yuzuhiro
第1話 疼き
「イテッ!」
左膝に痛みを感じて立ち止まる。
おかしいな、天気予報では今日一日晴れの予報だったのに。
雨の日は古傷が痛む。
梅雨時なんて最悪だ。
「淳平くん、大丈夫?」
しゃがみ込んでしまった俺に一緒にいた久美子と春樹が心配そうに覗き込んできた。
「受付で休んでろよ」
春樹に促されてサークルのテーブルに向かうことにした。
一緒にいたのは同級生の
文芸サークルの仲間だ。
「あれっ?どうしたの?」
サークルのテーブルに着くと4年生の
「悪い、膝が痛いからちょっと休憩させてくれ」
彼女とは中学、高校の同級生なので先輩と言えどもタメ口が許されている。
「大丈夫?これ使って」
香奈は自分の膝の上に置いてあったブランケットを俺に手渡してきた。
「いや、お前が寒いだろ。安静にしてれば落ち着くと思うからお前が使えよ」
手渡たされたブランケットを香奈の膝の上にかけ直して膝を摩った。
「あ、じゃあ一緒に使おうよ」
折りたたんであったブランケットを広げて俺の上にもかけようとしたが、少し届かなかったのでイスごと近づいてきた。
「おい、近い」
「いいでしょ別に。それとも意識してくれてるの?」
悪戯っぽく言ってはいるが耳まで赤くなっているため照れているのは明白だ。
「おい、お前は勧誘班だろ?何呑気に座ってるんだ」
苛立つような声に視線を向けると4年生の
「ちょっと膝が痛かったんで休憩っすよ」
苛立ちを覚えながらも平常心で答えると「チッ」という舌打ちが聞こえた。
「もうすぐ出てくるから勧誘はしっかりやってくれよ。お前には期待してるんだからなモテ男さん」
吐き捨てるように言い放った言葉には刺があった。
「もう、男の嫉妬は見苦しいね」
「お前が言うなよ」
水野は去年、香奈に告白して振られている。
「私は淳平が好きだから」
そんな断り方をしたらしく、それ以来俺は水野の中で敵認定されているらしい。
「それを淳平が言うの?」
呆れたような表情の中には悲しさが見え隠れしていた。
「……だな」
俺もまた香奈からの告白を断っていた。
元々俺が受け入れないとわかった上での告白。
「気持ちが溢れちゃっただけだから、気にしないで」
付き合いが長い分、言葉にしなくてもわかる部分がある。
「はいはい、イチャつくのはその辺にしといてください。とりあえず私と春樹は先に勧誘に行くから、落ち着いたら淳平くんも合流してね」
「なっ、イチャついてなんてないよ⁈」
慌てて香奈は俺から距離を取る。
動いた拍子にブランケットが落ちたので拾うために屈むと、目の前にはスラリと伸びた久美子の白い脚があった。
「じゃあ、私がこんなことしても平気ですか?」
屈んだ状態の俺を久美子が上から抱きかかえてきた。
「ちょ、ちょっと久美ちゃん!それはズルい、じゃなくて苦しそうだから離しなさい!」
今度は慌てて立ち上がるものだから拾ったブランケットがまた落ちた。
「ふふふ。かわいいですね香奈さん」
後輩にいいように揶揄われているわけなんだが、巻き込まれた俺の立場も考えて欲しい。
そして、恥ずかしいならやるなよと久美子に言いたい。
「久美子、顔」
いまだに俺に抱きついている久美子の顔はキスできるくらいの至近距離にあることに気付いてなかったようだ。
「へっ?あっ、いや、ごめんなさい」
慌てた久美子がさっと起き上がり、開放された俺はため息をついた。
「はぁ〜、ちゃんと周り見てくれよ。ただでさえ今日は人が多いんだから」
「はい、気をつけます」
うなだれる久美子と困惑ぎみの香奈の頭に一発ずつチョップを入れる。
「「痛い!」」
「はい、仕事しましょうか」
涙目の2人を放置して他のサークルメンバーに声を掛けた。今いるメンバーは10人ほど。すでに入学式が行われている講堂に陣取っている水野らを含めて今日の参加メンバーは15人。
「みんな勧誘頑張ってください」
香奈の掛け声とともに勧誘メンバーは講堂から校門までの道沿いにバラけて配置につく。
今後のサークル活動の運命を握る新入生争奪戦が始まった。
俺が所属しているのは文芸サークル「
web小説の普及によって物語に触れる機会が増えたこともあり、気軽に出入りできるサークルを目指して活動している。
かく言う俺も多少小説もどきの話を書いたりしている。
文芸サークル活動「光」です、よろしくお願いします。春樹や久美子ら勧誘メンバーがチラシを新入生に配っている。どこのサークルも勧誘に必死なので新入生の手にはチラシの山が築かれていく。
香奈のブランケットのおかげか、膝の状態もよくなったので勧誘に参加しようと席を立とうとしたところで「ねぇ」と香奈に呼び止められた。
「どうした?」
もう一度席に座り直して問いかけた。
香奈は俯いたままで口を開いた。
「まだ、気持ちは変わらない?」
唐突だなと思いつつも、さっきの話の流れからかと判断しながらも答えるのに躊躇していた。
「誰とも付き合う気はないんだ」
香奈からの告白に俺はそんな言葉を返していた。
「あれから2年経ったよ。私の気持ちは変わらない。ううん、もっと大きくなってる。淳平が好き。ごめんね、迷惑かなって、重たいかなって思うけどね。変わらないんだ」
「……香奈、俺は—」
「淳!ヘルプ」
香奈への想いを言葉にしようと思ったところで春樹がやってきた。
「あっ」
「行ってあげて」
香奈は顔を上げて微笑みながら送り出してくれた。
「ああ、悪りぃ」
「ううん、頑張って」
♢♢♢♢♢
「どうしたんだ?」
少し興奮ぎみの春樹に先導させて目的地に向かう。
「今年の新入生にモデルがいたんだよ!」
一学年2000人以上いるんだから有名人がいてもおかしくないだろう。それでも春樹でも知っているということはかなり露出が大きいということがわかる。
「モデルねぇ。あまり興味ねぇな」
あまりという、本音を言えば関わりたくない人種だ。モデルにはいい印象がない。
「なぁ春樹。まさかそのモデルを勧誘しろってことじゃないだろうな?うちみたいな日陰サークルにスポットライトを浴びるモデルは不釣り合いだぞ?」
適当な理由をつけて接触回避を試み。
「だめならだめでいいからとりあえず声かけてみようぜ。じゃないと水野サンにも言い訳できなくなるぞ」
それならば自分で声かければいいじゃないか?そう思うのは間違いじゃなかろう?
「だったら自分で声かければいいだろう?」
「可能性の問題だ。お前の方が女性ウケするしな。っと、いたぞ」
人垣をかき分けて行き着いた先にいたのは、栗毛のショートボブに、説得力のあるプロポーションをした俺がこの世で1番嫌いな女性だった。
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