幼少期

第1話 僕の目覚め

僕の人生の始まりはどこか。

家の庭の池の前。

それ以前のことは覚えていない。

でもその瞬間のことはよく覚えている。


山深い民家。

山深いと言うよりは今思い返すと山の中にある家だった。

さわさわと騒ぐ竹林の音が印象深いところに僕は立っていた。


一体自分は何者なのか?

その問いに、「名前を思い出す」。

同期されているという感覚が近かった。

知らないのに知っている。

その感覚を不思議に思い、家の中を歩き回ると人に出会った。

彼女は僕を見て笑う。

そしてまた「同期」され、彼女を「思い出した」

彼女は私の叔母であった。


そこから僕が始まった。

長い長い白昼夢のような、そんな生活の始まりだった。


僕は、かつてとても活発で、スカートやワンピースが好きで綺麗好きの女の子だったらしい。自分をお姫様と言い、その頃の写真を見るといつも笑顔でピースサインをしていた。


この小説は、僕から僕の中にいる彼女に送るものである。



僕の家は山の中にあった。

家族は9人。

工場を経営するパチンコ中毒の祖父

優しい祖母

責任感が強く、結婚したDV束縛男から逃げ帰ってきた叔母

気が強くヤンキーだった過去を持つ叔母

弱く頭が悪くキレやすい父親

弱く言葉が通じない母親

そして僕と、妹と弟。


隔離されたこの場所で、歪んだ人間達がどうにか生活していた。


幼少期の記憶はどうにも抜けや過去の美化が大きい。

その為できる限り時系列で書いていこうと思う。


僕の両親は、離れに住んでいた。

トタンの青白い壁に、フローリングの床、トイレはボットン便所で、上下水道は引いていない。山の湧き水をタンクに貯めて使用し、汚水はどこかの畑に流していた。(祖母は嘘つきなので、流し先は嘘かもしれない)

そんな離れで、何が起こっても誰が叫ぼうと他の家族が入ってくることは無かった。


思えば父親はそこでだけ甘えられていたのかもしれない、なんて今は思う。


父は、母を殴る。

なんとも情けない鼻から出た泣き声を母が出す。

髪をぐちゃぐちゃにして、顔を真っ赤にして時には噎せ、時には号泣しながら母親は耐えていた。

その頃はよく「お前の躾が悪いからこいつがダメなんだ」と僕を理由に母親に暴力を奮っていたのを覚えている。


その頃の僕は大声で泣いていた。

3歳か4歳である。父も母も好きだった。

喧嘩を見るのも嫌だった。


「煩い、黙らせろ」

と父親は怒鳴る。

止めようとしても止められなかった。

業を煮やしたように父はこちらに来て、僕の鼻と口を両手で抑え、壁に押し付けた。

息が出来なかった。はじめは必死にもがいていたが、そのうち膀胱あたりから力が抜けていき、抵抗できなくなった。

動かなくなった僕を見て、父は手を離し母にこう言った。

「こいつ動かなくなりやがった」

とても嬉しそうに、憎そうに。


父親がその残忍さを出す時は大抵目をギラギラさせて笑っている。

征服している感覚に酔っているのだ。

なので今も僕は男の笑いが怖い。

これで、僕は声を上げて泣かないようになった。

死なないために。




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白昼夢みたいな人生の僕から貴方へ かとり @ryuryuryu11

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