第29話

 高槻桔梗。戦闘科四回生の武者であり、幻想派の中でも才媛と名高い生徒である。

 難易度の高い気流操作を得意としており、小規模ながら竜巻を任意に作り出すなど、幻想派の名に恥じないファンタジックな技を使う。

「いわゆる風使いってやつ。インファイターの私らとは、相性最悪さ」

「気流操作って、そんなに難しいんですか?」

 医療科というのもあるが、いまいち感覚がわからない。

「かなりの高等技術です。触れられない、感じにくいものを操るんですから」

「私らは目に見える、肌で感じるものを弄ってるからね」

 直に感じられないというなら、医療魔術のほとんどが該当する。気流操作……。医療魔術に近い分野かも知れない。

「直接殴ったほうが早いし」

「その口ぶりはすっごい頭悪いですよ」

「言ったなこのぉ!」

 こめかみを拳骨でぐりぐりされる。小学生へのお仕置きの定番であるあれだ。傷もつかず、ただ痛いだけのこれは罰として最適なのだ。頭の奥にぎゅーっとくる痛みに身悶える彼を見て、雪村がコロコロと笑う。

「ちょっ、助けてぇぇぇ!」

「あははははっ!」

 大笑いする彼女に見捨てられ、しばらく頭を抱えて痛みに悶える。助けてくれなかった雪村に恨みがましい目を向けるも、微笑みで返されて何も言えなくなる。

 この三人は十分以上、シリアスな雰囲気を保ったことあっただろうか……。

「さって、話を戻そっか」

 真木の柏手に引き戻され、再び三人が顔を突き合わせる。切り替えは早い三人である。

「まず確実に言えるのが、相手は逃す気はない、ってこと」

「私怨怖い」

「この場合も私怨なんでしょうか?」

「え、違うの?」

「ーー二人とも?」

 二分と保たなかった。ただ、そんな二人を諫める真木自身、この雰囲気に助けられていた。それ程、今の状況は悪い。

「このまま逃げ続けるのも不可能じゃない。でも、見つかれば確実に先手を奪われる。ーー他のチームもいる都合上、こっちの分は悪すぎる」

「あっちが猟師で、こっちは野兎か」

 現状で既に追い詰められてる。

「じゃあ、どうします?」

 雪村が一歩踏み込む。生き抜くために、何をすればいいのか。

 真木はゆっくり息を吐き、そして、後輩二人を交互に見た。

 ーーリーダーとして、覚悟を決める。

「一転攻勢ーー夜戦だ」

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