第24話

「ごめん。全部任せちゃったね」

 治療がひと段落し、ふぅ、と一息吐いたタイミングで、真木が声をかけてきた。振り返る気力がないが、伝えなきゃいけないことがあった。唾を飲み込み、喉を震わす。

「先輩こそ、索敵と隠蔽に奔走してたじゃないですか。こんなとこで見つかったら、それこそ命はなかった」

 細胞活性は電気刺激による強制細胞分裂だ。当然、通常の細胞分裂ではないので発ガン性も高く、それなりのリスクがある。しかし、そこは魔術。発ガン性の高い細胞を浄化により排除することで、ほぼノーリスクでの治療が行える。

「ううん。これしかできなかったから」

 戦闘科も、簡単な応急処置は出来る。自分の傷を塞ぐぐらいは、魔術も用いれば簡単だ。しかし、こと他人の命を預かれるかというと、答えはノーだ。

「怖かった……」

「はい」

 真木自身も大怪我したことはあるし、仲間が傷を負う姿も見てきた。慣れた気でいた。血を見るなんて日常だと、自分を誤魔化していた。だが、仲間が傷つくことは、何度経験しても慣れない。

「それでいいんです」

 傷を覆うように包帯を巻いていた手が止まる。浄化だけで、それ以外は何もしていない。魔力が残り少ないのもあるが、戦闘要員ではない自分には最低限で十分だ。

「ごめんなさい。ちょっと、眠ります……」

 瞼が重くなってくる。

 やるべきことはやった。そう思った途端、プツリと意識が落ちた。

「斎ちゃん!」

 朧げな夢の中、暖かい何かに包まれる。まるで揺り籠の中のような安心感に、知らず笑みが溢れた。

「まったく、無理するんだから……」

 腕の中にすっぽりと収まった華奢な身体は、その印象に反して所々筋張っていた。不思議な抱き心地に、ドキドキと胸が鳴る。

「寝顔はこんな可愛いのに」

 どうして、カッコよく見えてしまうのか。

「ほんと、変な子だよ。君は」

 真木は耳をそば立て警戒を続けながらも、胸に背を預ける後輩を、優しく撫でるのだった。

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