第6話 可愛い超常現象の主②

 妹からのLINEに、輝夜は明るいスタンプを貼って「大丈夫よ!」と答えた。

 続けざまにメッセージが入る。

『本当に? ストーカーとか不審者とか、怪しい人じゃなかったんだね?』

『そう! 怪現象は解決してるから、心配しないでね』

 原因が分かったのだから怪現象ではないだろう、たぶん。


 電気ケトルの湯がわき、輝夜はそこでスマホを置いた。ケトルのそばでは、そわそわしながら怜史が待機している。

「じゃ、ティーバッグを使った紅茶の淹れ方ね」

 と、ふたつのティーバッグをふたつのマグカップに落とし、お湯を注ぐ。紅茶の製造メーカーごとに抽出時間などが異なるので、パッケージを読み上げて説明した。

「……というわけで、お湯を注いでから適切な時間をおいて茶葉を取り出すと、おいしい紅茶になるのよ。さ、もういいかな。取り出して?」

 怜史は素直にティーバッグを取り出し、ソーサーの上に置いた。

 両手で赤色のマグカップを持ち上げ、くんくんと香りを嗅ぐ。

「わぁ、すごくいい匂い!」

「でしょう? 香りがお気に入りのブレンドティーなの」

 テーブルに着いたふたりは、クラッカーをおともに、しばし紅茶の香りを楽しんだ。

 ちなみに怜史は、食べる必要はなくとも、食べ物を摂ること自体は可能らしかった。今も、おいしそうに紅茶を飲んでいる。

(消化器官は……いや、深く考えないことにしよう)

 怜史が嬉しそうだからそれでいいや、と輝夜は頬を緩めた。


 洗い物をしていると、怜史が寄って来て、輝夜の手元を覗き込む。どうやらやり方を覚えようとしているらしい。

 その姿はほほえましいものだったが、弟妹の世話を焼いて育ってきたので、身の回りのことは一通りこなせる。怜史に無理をさせてまで手伝ってもらう必要はない。

 そう伝えると、怜史はぽつんと言った。

「これまで、ひとりきりで寂しかったんだ。だからかぐやがイヤじゃなかったら、お手伝いさせてほしいな」

 などと可愛くお願いされては、輝夜に否のあろうはずもない。

「いいよー! お姉さんがなんでも教えてあげる!!」

「ありがとう! かぐやはいいひとだね」

 これまでの人は怖がって出て行っちゃったから……と怜史が言うので、それはそうだろうと輝夜は思った。輝夜だって、住み着いているのがこんなに可愛い幽霊じゃなかったら引っ越しを考えたかもしれない。

「明日はお休みだから、一緒に朝ごはん作ろうか?」

「うん!」

 輝夜は腕を伸ばし、怜史の触れない髪をイイコイイコと撫でてあげた。


 思えば、怜史の存在が輝夜の寂しさを紛らわせてくれているのだろうと思う。

 朝方少し早く目が覚めたときなど、静かで素晴らしいと思う反面、物足りなさを感じてもいたのだ。

 それが今は。朝起きれば怜史がおはようと言ってくれる。帰ってきたら、怜史がおかえりと言ってくれる。それにどれほど癒されているか、輝夜は改めて怜史の存在をありがたく思うのだった。

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