足枷と花束

@sai_go

プロローグ

 また、地獄のような一日が始まる。このまま眠るふりを永遠に続けていたかった。


 もう涙はとっくの昔に枯れてしまって、いつの間にかどれだけ自分が辛かろうと零れもしなくなった。何で生きてるんだろう、物心ついた時にはもうそう思うようになってしまっていて、どこを見ても絶望しか周りには転がっていなかった。このままずっと眠っていられたらよかったのに。


 酷く重い瞼をこじ開けると、空が何故か淡い桃色に染まっていて灰色の靄が濃くかかっていたことを今でも鮮明に覚えている。傍には母と母の恋人が倒れていたことも、つま先が熱くて熱くてたまらないのに何故か何も叫べなかったことも、あの時、あの人がヒーローのように、火のあがっている私の家から私を誘拐して、初めて私に希望を与えてくれたことも、そして、その後の一週間のことも私は今でもずっと、ずっと鮮明に覚えている。


これは、私と私の悪いヒーローの二週間の物語。

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