第6話 当主として


 「なんであなたが!」


 「僕が君よりも強いから、かな」


 そう言うと彼女は黙り込んでしまった。2人の間に沈黙が下りるのと同時に再びドアが開いた。


 バン!


 「今すぐ来なさい。美空」


 「お父様!?」


 (よくもまあ、あの体で動けるものだ)


 《それだけ娘が大切なのだろう》


 彼女は信三に引きずられながら部屋を出ていった。


 (まるで嵐だな・・・)


 乙葉が紅茶を飲み干すと、美紀が入ってきた。


 「ごめんなさいね。気を悪くしたかしら」


 「いえ、お気になさらず」


 美紀は紅茶のおかわりを入れ始めた。


 (え、俺まだ帰っちゃいけないのか)


 「あ~、おじさんは大丈夫なんですか?」


 「大丈夫とはいえないけど、死なない程度にがんばると言ってくれたわ」


 (おじさん、気の毒に・・・・)


 「・・・あの子にも悪気がある訳じゃないのよ」


 「と言うと?」


 「あの子はね、」


 美紀はためらいがちに話し始めた。彼女、美空のことを。


 「祖父が死ぬところを見てしまったの」


 「・・・・それは恨まれても仕方ありませんね」


 本家の前当主は妖世での戦闘で戦死しているのだ。霊力の使いすぎで寿命を削ってしまったからである。そしてその場にはもちろん分家の前当主、乙葉の祖父もいた。


 「確かにそばにいたくせに何もしなかった鴉宮家を彼女は恨んでいるでしょうね」


 「いいえ、あなたのお祖父様は全力を尽くしてくれました」


 そこだけは譲れないとでもいいたげな様子で美紀はきっぱりと言った。


 「でもあの子には何もしなかったように見えてしまったらしいの」


 「霊的な延命処置は素人では視認すらできませんから」


 (さて、どうしたものか)


 「あの子のことはこちらに責任があるわ。でも、どうかあの子を見捨てないで欲しいの」


 美紀は前のめりになりながら、そう言った。しかし乙葉は、


 「何か勘違いしていませんか?」


 そう、冷たく言い放った。


 「僕がお嬢さんの訓練を引き受けたのは、ひとえにあなたたち夫妻に感謝しているからであり、言わば個人的な感情によるものです」


 「う、うん」


 乙葉はゆっくりと紅茶を口に運ぶ。一息着いてから、更に続ける。


 「しかし、今の僕は鴉宮家の当主です。彼女の態度が変わらないようなら、僕は当主としてこの件から手を引きます」


 「え、え?」


 「悪霊の方はご心配なく。そのための分家です」


 「で、でも神楽祭が」


 「鴉宮家としては本家が神楽祭で笑い物にされようが、恥をさらそうがどうでもいいことですから」


 「そ、そんな」


 「ぼくもお世話になった人にこんな事は言いたくありませんが、鴉宮家にもこの地域を守る責任があります。本家の面倒を見ている余裕はありません」


 ※次回更新 2月26日 水曜日 0:00

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