第4話 戦闘後
戦闘後、乙葉は篠宮家を訪ねていた。目的は後継ぎではなく、現当主である。途中までは自分も同席すると言って聞かなかった後継ぎも、当主が言うとすぐに引っ込んでいった。
「お久しぶりです。信三さん」
「・・・ああ、久しぶりだね。乙葉君」
乙葉と篠宮信三は10年ほどの付き合いである。最近は信三が体調を崩し、半分隠居みたいな生活に入ってから会う機会も減ってしまったが。
「いつ引退されるのかと思ってましたが、こういうわけですか」
「ああ、とてもではないがあの実力で当主にするわけには、ゴホゴホ」
「だ、大丈夫ですか?」
「最近、特にまずくなってきてね。そろそろ本格的に隠居したいとは思ってるんだ」
霊気に敏感な人間は悪霊の気に当てられて、体に変調をきたすことが多い。もちろん、妖世に行かなければ症状は治まる。
「はあ、僕が援護すれば彼女でも当主は務まりますか?」
「・・・いいのかい?」
「あなたには小さいころからお世話になってきましたからね。恩返しだとでも思ってください」
「ありがとう」
「ただ、ひとつだけ」
「なんだい?」
「あんなところで法具は使わせないでください」
「なっ! 使ったのか?」
「その前に止めましたけどね。放っていたら、周りの正常な魂が漂白されるところでしたよ」
篠宮家の法具、つまりは強力な術を使うと、強制的に悪霊の魂を浄化する。しかし、周りへの影響も大きく、正常な魂まで浄化してしまうので絵にかいたような仙人が出来上がるのだ。
「わかった。きつく言っておこう」
「ええ、よろしくお願いします」
そこから二人は少し世間話をして、乙葉は部屋を出た。
「なあ」
«なんだ?»
コートから顔だけを出した鴉が返事をした。
「あの症状はどれくらいで治る?」
«さあっと見たぐらいだが、2、3年はかかるだろう»
「そうか・・・」
(やはり、俺がやるしかないよなあ)
「あら、乙葉さん」
「ご無沙汰しております。美紀様」
「そんなにかしこまらなくてもいいのよ」
「はい」
「少し、お茶していかない?」
「ええ、喜んで」
彼女は自分の部屋に乙葉を招き入れると、茶葉を手に取った。
「今日はあの子の戦い方を見てきたんでしょう?」
「はい」
美紀は手際よく紅茶を入れていく。
「忌憚のない意見を聞かせて頂戴」
美紀は乙葉の対面に座ると、紅茶を差し出しながらきつい口調で言った。
「わかりました。正直申しまして、彼女は陰陽師に向いておりません」
※次回更新 2月19日 水曜 0:00
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