第2話 戦闘1


 それから数分後、紺色のシャツと黒いズボンに着替えた乙葉は祖父譲りの懐中時計と首飾りを身につけ、家を出た。

 

 家を出るとすぐに先ほどの鴉が肩に乗った。郊外とはいえ、鴉を肩に乗せていれば目立つはずだが、通行人は乙葉の方を見ようともしない。否、見えていないのだ。


 «あいかわらず、その首飾りは優秀だな»


 鴉が肩の上から言った。

 

 「ああ、人に見つからずに行動できる。それで、今日は?」


 «本家が言うには町の北のはずれだそうだ»


 「・・・ここから反対側まで行かなきゃならないのか。気が重いな」


 «そういうな。これからもっとめんどくさいことになるかもしれないんだから»


 「そうなのか?」


 «跡継ぎを見てきたが、正直頼りない»


 「学校ではそんな風にはみえないが?」


 «霊装がまるでなっておらん。当代は霊力に過敏なほどであったが、跡継ぎはその逆だ»


 「そんなこというなよ、さらに気が重くなる」


 乙葉はうつむきそうになる頭を無理やりに上げた。


 (これは、俺が介入しなきゃならないかもな)


 乙葉が住んでいる町で悪霊討伐をしているのは、町の中心にある神社の篠宮家しのみやけだ。鴉宮家えみやけはサポート役、いわゆる予備であった。


 その証拠に鴉宮家には簡単で必要最低限の術しか伝わっていない。しかし、十代前から実力関係は逆転し、限られた術で戦う鴉宮家のほうが強くなってしまったのだ。


 なので、以前よりも鴉宮家は頼られることが多くなっていた。


 「当代は霊力をイメージでつかめるが、跡継ぎはできないってことか」


 «ああ、自分が自然にできたことを教えるなど無理であろう。だからこそ、我々がいる»


 「だが、術を使えば一発だろう? 本家の術は相当なもののはずだ」


 «その術を使うための霊装がなっておらんのだ。どうしようもない»


 「そうだった・・・」


 霊装。それは術者の霊力を鎧として顕現させる術を指す。これは霊力消費が激しい代わりに、強力な術が使用可能になる。もちろん、鴉宮家には伝わっていない。鴉宮家では、せいぜい武器を作るのが精一杯だ。


 «そろそろだ。こっちも霊装を使っておこう»


 「わかった。いくぞ」


 乙葉は懐中時計を左手で前につきだし、右手を左手の二の腕あたりにおく。


 「我、契約文を捧げ、我が身に宿る式神に問う」


 呪文と共に左肘を曲げ、続ける。


 「霊装展開 鴉」


 懐中時計の長針が高速で回り始め、時計が刀に変わる。


 肩にいた鴉は黒い霧となって、乙葉の周りを巡り黒いコートに変わる。


 乙葉はメガネをとり、夜空のような瞳を爛々と光らせた。


 ※次回更新 2月12日 水曜日 0:00

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