第1話 終わらない夢
昨日と同じ今日、今日と同じ明日―――世界は何度も繰り返し、変わらない時を刻んでいた。
だが――本当の世界は残酷にその姿を変えていた…。
―――そう…あの日を境に私の『日常せかい』も姿を変えてしまったのだった。
夢を見た。それはとても悲しい夢だった。
目の前に立つのは2人の少女だった。一人は腰まで伸びた長い黒髪の少女。その手には一振りの日本刀を携えており、抜身の刀身からはただの芸術品ではなく、実際に人を切った人斬り包丁であるというのを予感した。
それに向かい合うのは肩までかかるかくらいの長さをし、日本人ではかなり珍しい白い髪の少女だった。彼女の手にも人斬り包丁が握られており、これから斬り合いを行うというのが明白だった。
だが二人の少女…彼女たちの決定的に違ったのはその瞳だった。黒髪の少女はその瞳に覚悟を宿し、鋭くも凛としたその瞳は武人のものだった。それに相対する白髪の少女の瞳には悲しさが滲んでいた。その瞳はまっすぐに黒髪の少女に向けられており、困惑や悲しみが溢れ出し涙が滲んでいた。
お互いは一言二言なにかを告げているのが見える。しかし、彼女たちはなにを話しているのか、どんな声をしているのかはいつも分からなかった。
だがお互い話をする中で白髪の少女は必死で黒髪の少女になにかを訴えかけており、黒髪の少女はそれを拒絶しているのを理解した。だが黒髪の少女は白髪の少女と話をする中で感情が溢れそうなのを無理やり堪えているのが目に見えていた。
黒髪の少女はなにかしら葛藤をしている様だったが、その迷いを振り切ろうと言わんばかりに刀の切っ先を白髪の少女へと向けた。
―――瞬間、火花が散った。
黒髪の少女は一瞬で間合いを白髪の少女へと迫り刀を振り下ろすも、白髪の少女が持つ刀がその攻撃を防いでいた。それが戦いの合図だったのだろう。彼女たちは刀を振るい始めた。
その剣撃は時代劇や剣道なんて「お遊び」と感じるくらい激しいものだった。一撃一撃が鋭く、強く、刀身同士がぶつかり合った瞬間に響き渡る鋼のぶつかり合いは「確実に相手を仕留める威力」ということを明確に示していた。突きや斬撃はお互いの急所を狙うべく閃き、それらから避けるべく躱したり、牽制するべく蹴りや拳はどちらも鋭いものであった。
実力は恐らく、黒髪の少女が上だったのだろう。その斬撃の鋭さは白髪の少女は避けることすらままならず、1合2合と打ち合わせると白髪の少女の肌には赤い線が1本、2本と数をどんどん増やしていった。
対する白髪の少女は黒髪の少女よりも格下だったのだろう。彼女の斬撃も十分鋭いが、それでも黒髪の少女に一歩も及ばないのか防がれては牽制の蹴りをくらってしまい吹き飛ばされていた。
白髪の少女の剣には迷いがあった。黒髪の少女を殺したくないのか直撃する手前で動きを鈍くしたり、振り抜くのを止めてしまうことが何度かあった。その瞳には大粒の涙をぼろぼろとこぼしながら祈る様に剣をふるい続けていた。
それに対して黒髪の少女は何度も声をかけていた。まるで白髪の少女を叱咤激励するように、自身も大粒の涙をこぼしながらも必死に白髪の少女に声を届くように繰り返していた。
すると白髪の少女の動きに変化が起きた。それまでは迷いがあるのか一つ一つの動きが鈍かったのに対し、黒髪少女の声を聞いてからは一つ一つの動きが鋭く、斬り結ぶ時は黒髪の少女が競り負けてしまうことが増えてきた。
気がつけば白髪の少女の瞳は鋭いものとなった。その瞳には覚悟を決めたのか黒髪の少女をまっすぐ見据えていた。
そこからの二人の剣撃は見違えるほど鋭くなった。白髪の少女は黒髪の少女の斬撃を紙一重で交わしてはカウンターのように深く彼女の胴体を切り裂こうとする。しかし、黒髪の少女は跳ねるように後ろに下がって回避をし、体勢を整えてから再び白髪の少女を股下から上段を縦一文字に切り裂こうと斬撃を繰り返し、躱される。
―――まるでお互いがお互いを寄せては引いてを繰り返しては攻め手と受け手を切り替えるように…。舞い踊るように剣戟が響き渡った。
しかし、その戦いも長くは続かなかった。お互いが満身創痍となった瞬間、2人はただ静かに剣を構えていた。黒髪の少女は一撃で仕留めると言わんばかりの防御をかなぐり捨てた上段の構えをし、白髪の少女もそれに応えるべく身体を低くして刀を下段に構えて獲物を狙う獣の様に静かに体勢を低くしていた。
―――そして、光がぶつかり合った。
最後に立っていたのは白髪の少女だった。彼女の持つ刀には赤い血が流れており、彼女はただその場に1人立ち尽くしていた。その後ろには赤い血溜まりを作りながら黒髪の少女が地面に倒れ伏しており、二度と動くことのない骸となり果てていた。
私が見た夢はいつもここで終わる。
夢の意味は今も理解はできない。でもきっと2人の少女たちは親友だったのではないか?もしくは家族ではなかったのではないか?
私には聞く術もない。でもこれだけは言える。2人はお互いをとても大事に思い、そして夢での戦いは本当に辛く、悲しいものだったのだろう。
―――これは「私」が見続ける悪夢。終わらない悪夢だ。
―――もしも、私も同じような状況になった時…。白髪の少女のようになれたのだろうか?
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