ハッピーエンドが書けなくて

結城彼方

ハッピーエンドが書けなくて

ある売れない二流どころか三流以下の作家がいた。彼の名は「いそがば三歩」。人からは三歩と呼ばれていた。三歩が三流の原因は、創りあげる物語にある。なんと彼はハッピーエンドの話を作れないのだ。そのため、彼の作品は陰鬱なものばかり。カルトなファンがいなければ生活もままならないところだ。いや。すでにままならなくなりかけてた。彼の担当編集が言う。


「三歩。ハッピーエンドの話を書いてくれ。それが一番売れるんだ。お前だって作家として一流になりたいだろう?」


三歩は別にこだわりがあって陰鬱な作品しか書かない訳ではなかった。自分でも幸せな物語を書きたいと思っていた。でも、どうしてもハッピーエンドというものを思い付けなかったのだ。そこで、三歩はハッピーエンドというものを研究することにした。ハッピーエンドと評判の小説、漫画、映画を片っ端から見ていった。そしてある共通点に気がついた。それは、ハッピーエンドの作品は物語序盤の主人公の願望が、紆余曲折あり最後の方で成就しているということだ。そうと分かれば簡単だ。三歩はペンを持ち、書き始める。主人公の願望を書き、紆余曲折まで書き切った。いよいよだ。ついにハッピーエンドが書ける。そう思った三歩の心がザワついた。そして心の奥から声がした。


「ここまで頑張ってきた主人公をどん底に落としてみないか?」


三歩は頭をブンブンと横に振り、必死で手を動かした。紆余曲折を書いていた頃とは異なり手が重く感じた。さっきの声の主がハッピーエンドにさせるまいと邪魔しにかかってるように三歩は感じた。気がつくと0時を回っていた。体は重くなり、心は疲れ、主人公をバッドエンドに追いやるアイディアがごまんと湧く。それでも三歩は頑張った。頑張って主人公を幸せにするんだと、自分自身を奮い立たせた。その日の15時頃、三歩は目が覚めた。どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。目が覚めると同時に強烈な不安が三歩を襲った。


(主人公はどうなったんだ?)


慌てて机の上の原稿を読む。良かった。主人公は無事だ。無事にハッピーエンドにたどり着いたんだ。三歩は大喜びした。心の声に打ち勝ったと、自分にもハッピーエンドの物語を書けるんだと。その勢いで担当編集を訪ね、作品を見てもらった。すると担当編集が言った。


「つまらないね。コレ。」

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ハッピーエンドが書けなくて 結城彼方 @yukikanata001

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