最強魔術師なのに聖女にフラれたから、パーティ抜けてマッチング掲示板に登録してみた

南川 佐久

第1話 聖女にフラれたからパーティを抜けます


 その日、世界に激震が走った。


 世は人と魔族が長きに渡り争いを続ける、勇者と魔王の戦国時代。異界から現れたチート勇者が魔王を倒すべく仲間と共にパーティを組んで戦いに挑む中、俺はこの地で生まれ育った天才魔術師として東の勇者に同行していた。東大陸で神を殺した悪しき魔王を討ち滅ぼすべく。


「今日か。いよいよこの日が来たな……」


 魔王との決戦に向かう直前。いつもより少し質の良い宿屋のロビーにて、メンバーの点呼を取っていた勇者に短く告げる。



「がんばってくれ。俺、パーティ抜けるから」



「「「……!?!?」」」


 鳩が豆鉄砲を食ったような面々が一斉に振り向く中で、緋色の和服に身を包んだ聖女だけが、そわそわとした上目遣いで俺を見ている。事情を知っているのは、彼女だけだから。


(そんなに可愛い顔……向けてくれるなよ……)


 昨夜、俺をフッたくせに。


 東の大陸を苦しめる魔王との決戦前夜。『心残りの無いように』とリーダーの勇者に言われて、俺はパーティメンバーの聖女、マヤに告白をしようとした。マヤはこの東の大陸を治めるお姫様の家系で、魔王討伐にも並々ならぬ想いを抱えている。そんな彼女の一生懸命な姿に惹かれ、傍で一緒に戦っているうちに俺はいつしか、そんな彼女を愛するようになっていたんだ。


『大事な話があるんだ。夜、街の噴水広場前に来てくれないか?』


 そう、いつもとは異なる面持ちで告げたのに。いくら鈍い奴でもこれが告白だってわかるように、空気で、声で、伝えたはずなのに。


 マヤあいつは、勇者の元へ行ったんだ。


 そんなパーティには、もう居られない。マヤには悪いけど俺は魔王の討伐には興味が無いし、このパーティに誘われたのも成り行きだ。強引な陽キャ勇者の押しかけスカウトに負けて、隣にいた聖女のマヤを『なんだか可愛いな』って『この子のためなら』って、そう思っただけで……



 なのに。フラれた。



 昨日の夜は泣き明かしたよ。


 魔術で隠しているけれど、本当なら今、俺の目はひどく腫れあがって、イービルアイみたいなギョロ目になっているはずだ。使い魔のサキュバス、ナイトメア・メアリィも昨日ばかりは『ヤらせてくれ』なんて一声もかけてこなかった。らしくもなく俺の傍で背をさするだけで、何するわけでもなく心配してくれた。他の使い魔もそうだった。あいつら、普段なら所かまわずべったり甘えてくるくせに、昨日の俺はそんなに酷い有様だったのか、皆で周囲をそわそわとうろつくだけで、心の底から――


「うっ……」


 思い出したら、また泣けてきた。


 こんな状態で魔王討伐なんて足手まといもいいところだ。呪文の詠唱?できるわけがないだろう?マヤの隣の後衛で?どんな顔して唱えればいいんだ?教えてくれよ、なぁ勇者……?


「大丈夫か、ジェラス!?どうしたんだよ、急に!?」


「ちょっと、色々あって……まともな精神状態じゃないんだ。戦えそうにない。置いて行ってくれ。てゆーか、抜けるから」


「は――!?今から魔王の討伐なのにお前が居なくてどうするんだ!?勝てる戦も勝てないよ!!」


 勇者の驚いた表情。

 ああ、お前にそんな顔をさせられただけ、一矢報いれたのかな……?


「大丈夫だよハル。お前なら勝てる。俺が居なくても……」


「そんなわけないだろう!?俺達にはジェラスの力が必要だ!」


「魔術師ならリリカもいるだろう?」


 俺と同じようになんだか落ち込んだリリカがさ?

 俺の見立てでは、あいつはハルが好きだった。それが俺と同様にあんな顔をしているってことは……フラれたんだろう。目の下のくま、隠しきれてないぞ?

 呪術師としては優秀なリリカだが、変装術はまだまだだなぁ?もっと教えてあげればよかった。


 そんな俺は勇者のパーティメンバーで、最強の魔術師。そう謳われてこいつらと共に神に挑んだりと数々の功績を残してきたが。それも今日まで。


「ジェラス君、どうしてなん?」


 うるうるとした大きくて綺麗な瞳。艶やかな黒髪の毛先を弄り、『嘘であってくれ』と俺を見あげている。


「マヤ……」


(お前がそれを、言うのかよ……)


「ねぇ、ジェラス君……?」


「……!」


 俺の脳裏に、様々な思い出がフラッシュバックする。



『ジェラス君っていうの?ウチは東で聖女をしてる、マヤと言います!よろしくね!』


『今日のご飯当番ウチやったんやけど、美味しく作れてるかなぁ?味見してもらっていい?』


『なぁ、ジェラス君はどうしてそんなに魔法が上手なん?今度稽古をつけてくれへんかなぁ?ウチ、もっと強くなりたいんよ!』


『あぁ、怪我してるやん!?見せて見せて?今癒すからね、待っとって?』


『みんなは絶対、ウチが守るから!』



(マヤ……)



「ジェラス君……?」


 そんなお前が、大好きだったんだよ……


 まともにマヤの顔を見られなくなった俺は、その場から逃げるように立ち去った。


「ハル。マヤのためにも、必ず魔王を倒せ。俺が居なくても、お前ならできる……」


「待ってくれよ!ジェラス!!」


「ジェラス君!!」


「……ごめん」


 ……マヤ。


      ◇


 宿屋を出た俺は、即座に転移魔法を使って自宅に帰還した。あいつらと旅にでてから一度も帰ることの無かった我が家は埃だらけで、薄暗い中を陽ざしに照らされてきらきらとした静けさを放っている。俺は汚れるのも気にせずに本で埋め尽くされたベッドに身を投げた。


「はぁ……」


 帰って、きた。来てしまった……


「何やってんだ……」


 そのぼやきに、使い魔のサキュバスがふわっと姿をあらわす。白い肌に菫色の瞳、黒い下着のような衣装ぬのを纏った、露出度ギリギリの淫魔。寝転んだ俺の上に跨って、うずうずと見下ろしている。


「まーだ落ち込んでるの?マスター?」


「当たり前だろ……俺がどれだけマヤを好きだったと思ってるんだ」


「メアリィが、元気出させてあげよっか?」


「今、下半身に元気は要らない……てゆーか、当分要らない。勝手に杖から出てくるな……」


「ええ~?そしたら、メアリィが死んじゃう~!」


「死なないだろ……どこかでテキトーに男でも漁って来いよ……」


「マスターが一番美味しい!」


「当たり前だろ?贅沢言うな。俺は最強魔術師なんだから。てゆーか、どいて。重い」


「ええ~?マスターツレなぁ~い!」


 メアリィはピンクの長髪をふわっと払うと、コウモリのような翼をパタつかせてヒラリとどいた。俺は起き上がって命じる。


「じゃあ、家の掃除して?」


「ええ~?メアリィお掃除苦手!そういうのは家事妖精のシルキィに頼みなよぉ!」


「シルキィにはご飯作ってもらうから。心と体に優しい系のごはん……」


(昔、風邪ひいたときにマヤが作ってくれた『おかゆ』みたいなやつ……)


「うっ……」


「あ。マスター、まぁた泣いてる」


「だって、マヤが……マヤの作ったおかゆが食べたい……」


「マスター女々し~い!」


「うるさいな……!魔術師の男は大概根暗で女々しいって、相場が決まっているんだよ!」


 ゆらりと睨むと、メアリィはけらけらと笑いながら天井付近を浮遊する。


「その言い訳、北の男の口癖だよね?」


「北国出身者は根暗が多いって?そりゃあ、これだけ雪深くて寒いんだからどうやったって籠りがちな生活になるんだ。仕方がない――」


「でも、魔力が美味しい男も多い♡」


「ならいいじゃないか。まぁ、メアリィみたいなサキュバスに好かれても意味ないんだけど」


「何ソレ!失礼しちゃう!マスターのばか!」


「だったら、可愛くて尽くしてくれる癒し系の女になってみろよ?搾り取る系の女じゃなくてさぁ?」


「サキュバスにそれはムリかも……」


「だろぉ?」


 俺の使い魔、皆がっつりベタベタでそんな奴ばっかりだからな。

 だが、魔力の質が良いのにかこつけてそんなのばかりを従えていたせいか、俺には他にまともな友人がいなかった。幼い頃から魔術と妖魔が友達の根暗な天才ジェラス君。ついたあだ名は『誘魔の神童』『魔性の暗黒術師』『銀杖の悪魔』などなど。他にはえーっと……

 とにかく。どこかイヤミの混じった二つ名ばかりで手放しで喜べるようなものではない。思わずため息が出る。


「はぁ、彼女欲しい……」


 こんな俺を優しく包んで温めてくれるような、そんな彼女が。

 対等な立場で言葉を交わし、柔らかい陽だまりのような笑顔を向けてくれる彼女が。


「彼女が……欲しい……」


 亡霊の如く呟き続けていると、メアリィはぽん!と手を叩いた。郵便受けに向かったかと思うと一枚のチラシを手渡してくる。


「マスター!これはどう!?」


「……?マッチング……掲示板?」


「うん!登録しておくと、委員会が相性の良い女の子とマッチングさせてくれるんだって!いつもシルキィが捨てちゃうけど、たま~に入ってるんだよ?ほら、マスターって魔術師としては将来有望だからさぁ!」


「カジュアルなお見合いみたいなものか……?」


 促されるままに紙面を流し見る。


『酒場のマッチング掲示板に登録しませんか?あなたにお似合いの彼氏、彼女が見つかるかも!お相手の条件は望むがまま!いざ行かん!恋の旅路は順風満帆!』


(恋……順風満帆……)


掲示板それなら、家から出ないマスターにも彼女が見つかるかも!ほら、マスターは最強だし?収入安定、財産潤沢!おまけに色素が薄くて……イケそうだよ!」


「銀髪の色白は北国じゃ普通だ。あんまり白すぎても悪魔の生まれ変わりとか言われるし……」


「でも、そこが好き!!」


「?」


「……って子もきっといるよ!あはは!」


「何?今の間」


「な~んでも!ほらほら!まずは登録!」


「マッチング掲示板ねぇ……?」


 どう考えても、その記事は内容が薄くて胡散臭いものだった。何の保証もないくせに登録料はお高め設定。俺のような根暗な非モテが金を余らせているのにかこつけた、悪どい商売としか思えない。


(しかし……)


「彼女……欲しい……」


(パーティを抜けてすることも特にないし、ここ数年で得た謝礼や報酬も使うアテがなく貯まり散らかしている……)


「かのじょ……」


 聖女にフラれてパーティを抜けた俺は――


 とりあえず、マッチング掲示板に登録した。


※あとがき

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