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影神

1900年、後半にかけて異名を持つ殺人鬼が多く表れた。




数ある殺人鬼がいたが何れもそれらは


自己満足者でしかなかった。


そのほとんどが自己欲求により命を略奪し、


快楽を満たす。






ある写真家が言った。




「死とは意図的に訪れていいものではない。


他人の命を奪うなど、もってのほかだ。




死とは生涯を通じて起こりうるものであり、


瞬間的な死は神の手招きにてのみ招じる。




そして死とは美である。




生涯を通じて死得たものは美と称し、


自ら己の命を絶つものはそれに準じない。




美が最終的な終着地であるなら、


自ら命を絶つことはアートに過ぎない。」




と。






私は幼い頃から両親に虐待を受け、


それによって色彩に異常をきたしていた。


全てのものが黒く見え、ほとんど色というものが


わからなくなっていた。




長年の虐待に耐えきれず、両親を殺め、


私は刑務所に入ることとなった。






牢の中には私と歳が近い男がいて、


日を追う毎に彼とは仲良くなっていった。


そして私はそこで初めて愛情というものを知る。




彼からはいろいろなものを教わり、


いろいろなものを与えられた。




彼は風景や、人、建造物や、植物などの、


写真が掲載されている雑誌が好きだった。


私にはその雑誌の写真が全て同じ色に見え、


何がいいのか分からなかった。




そんなある日、看守に呼ばれ、面会室へと向かった。


そこには高そうなスーツを着た男が座っていた。


話を聞くと男は弁護士で、私の無罪を主張したいと訴えてきた。


弁護士はまだ新米故、功績を挙げる為に無償で私を弁護し、


更には無事に終わったら金銭も渡すと約束してきた。


私は正直驚いたが、勿論それを承諾した。


面会が終ると私は嬉しさの反面、彼との別れが寂しくも思った。




看守と牢に戻ると彼は倒れていて、


身体とその周りには綺麗な色をしたものがあった。


私はそれを見て感動し、涙した。


その色は初めて私が見れたとても綺麗な色だったからだ。




何日か経って私は弁護士により、無事出所することができたが、


その間二度と彼が戻ってくることは無かった。


出所の際、彼が持っていた雑誌を看守から渡された。


シャバに出て私は何をすればいいか分からなかったが、


雑誌に求人募集があり、とりあえずその場所へと向かった。


身分を隠し、面接は無事に受かった。


仕事は被写体を撮るカメラマンと呼ばれるものだった。




私は弁護士から貰ったお金でボロいアパートを借りた。


黴臭い臭いと、薄っぺらい壁で


四方から音がして中々眠れなかった。


うとうととしていると、隣の部屋から銃声が聞こえた。


気になって部屋を出るも誰も居なかった。


相変わらずいろいろな音が飛び交っていてうるさいぐらいだ。


私は隣の部屋のドアをゆっくりと開ける。


鍵はかかっておらず、扉は音をたててゆっくりと開く。


すると、ソファーの椅子の上で男がうなだれていた。


そしてその男の後ろの壁には綺麗な色が広がっていた。


テーブルの上にはカメラがあり、レンズは男を向いている。


カメラは自動的にシャッター音が鳴ると、眩く光る。


私はそれがあまりにも綺麗だった為、


そのカメラを手に取りレンズを覗く。


夢中でカメラを持ち、いろんな角度で被写体を写す。


レンズからも見える色鮮やかな色が私を引き込む。


しばらく撮り終るとカメラは止まり、


ふと我に返り、急いで部屋へと戻る。


そしてそのカメラを胸に抱き、眠りについた。




翌朝私はカメラを握り、職場へと向かう。


初めての仕事はうまく進んだ。


ただ、シャッターをきればいいだけだから簡単だった。




私は仕事に慣れ、給料も貰うようになり、


次第に生活に余裕が出るようにもなった。




そんな生活を送っていると、


真夜中に一本の電話がかかってきた。


電話に出ると警察からで、殺人事件があった為、


直ぐさま現場へと来てほしいとのことだった。


現代と違い、昔は警察官に現場写真を撮る者はおらず、


写真家や、記者などが証拠として撮るのが普通だった。


私はカメラを握り急いで現場へと向かう。


早くあの綺麗な色が見たかったからだ。


現場には人集りができていて、警察がいる。


中へと通されると女と男が横たわっていた。


男の頭の周りには綺麗な色があり、女の身体にはなかった。


私は写真を撮り終え、家へと向かう。




帰り道で何度かある現象をよく考える。


人が倒れていていても、綺麗な色が映る時と映らない時、


違いはなんだろうと。




仕事が休みの日、駅を張り込み、じっくりと機会を伺う。


2、3日もせずにそれは直ぐに訪れた。


駅のホームには決まってホームレスのおばあさんが一人。


周りには誰もいない。


私は周りを警戒しながらも電車の音が近づいてくるのを待つ。


そして、時を見計らいおばあさんを線路へと突き飛ばす。


電車が来て車体は気付かずにおばあさんを引く。


線路にはおばあさんの身体があったが、


そこには私の求める綺麗な色はなかった。


私はこの結果を踏まえて、一つの仮説を立てた。


仮説を実証する日はそう遠くはなかった。




世間ではインターネットが発達し、


私が行動を移すのには絶好だった。


ネットで、自殺願望のある人を探し、


お金を払う代わりにそれを見せてもらう。


相手は直ぐに見付かった。




その子は12歳の女の子だった。


小さな頃から父親にレイプされ何度も何度も妊娠し、


医者には行けないのでその都度トイレに流したという。


私はお金を払い、彼女はそのお金で赤ちゃんの玩具を買った。


そして、彼女は今にも産まれそうな子供を打ち、


彼女は口の中に銃口を向けて放つ。


私はとても感激した。彼女の作品はとても素晴らしかった。


それをカメラに残し、またもうひとつの仮説が立った。




私は次の被写体を探す。




彼は35歳の男。


仕事もなく、ずっと親の脛をかじっていたが、


つい口論になりやってしまったという。


私はお金を払い、彼はドラッグを買う。


彼はドラッグでハイになり上機嫌になった。


そして、彼は笑いながら銃を握り頭へと向かって引き金を引く。


私の予想通り彼には綺麗な色はなかった。




これらによって私は導き出す事が出来た。




「不幸は人を苦しめるが、最後には綺麗な証を残し、


幸福は人を堕落させ、最後には何も残す事が出来ない。」




それからも仕事を続けながらひたすら被写体を探した。


皆お金を渡すと喜んだ。各々の最後のモノを買う。


最後には皆それぞれの綺麗な色を放った。






不幸な人生、不幸な被写体。


綺麗な色、綺麗な被写体を


私の時間の許す限り探し求めた。






そして、最後は自分を被写体にすることにした。


初めて借りた、黴臭い臭いと、


薄っぺらい壁の向こうの部屋の隣人のように






「死とは軈て訪れるものである。




己の死は自らの引き金により招かれる。




そして死とは時にアートでもある。




決して自ら己の命を絶つものを哀れんではならない。




何故なら自ら命を絶つことは優雅で、


時に可憐であり、それは誰かの被写体となるからである。」














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art 影神 @kagegami

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