12月22日 13時39分
13時39分、医者による母のご臨終が宣言された。
その前の12時20分、息しているかなと体を揺さぶった。胸は上下しているように見えた。呼吸が確認できない。もしかしたら認めたくなかっただけなのかもしれない。
20分経過した12時40分、訪問看護に電話をした。
「どうも呼吸が確認できないようなのですが」
幼稚な伝え方だが、それ以外に伝える言葉がない。
13時、訪問入浴到着。お付きの看護師さんに診てもらう。瞳孔を確認したり聴診器を使用している。訪問入浴の看護師さんは、やって来た本来の訪問看護に対し首を横に振った。
再び、訪問看護による瞳孔や脈拍の確認。
この間、どれくらいかかったか分からない。看護師は
「呼吸、してないね……」
と残念そうに言った。
そうですか、と応えるつもりが言葉にならなかった。何かにつかまらないと立っていられなかった。決めていた覚悟は現実に木っ端微塵にされた。
兄に電話を入れた。急いで帰ると言っていた。
帰っていく訪問入浴の人たちがとても暖かい励ましの言葉をくれた。だが何も返せなかった。
訪問看護がケアマネと往診医に電話をしてくれた。
やがて来た往診医は一通りの診察を終え、
「13時39分、ご臨終です」
と言った。
こうして母は76歳の生涯を閉じた。最後の一年はなんでここまで大変な思いをさせなければならないのかと思うほどのものだったが、最期の最期は眠るように安らかに逝くことができた。病院で亡くならずに良かったとも思う。
その後、訪問看護師主導のもとに、母の体を拭く作業へ。体を動かしていた方が気が紛れる。化粧を施してもらい、全てが終わった。
これから葬儀屋との打ち合わせだ。何より大変なのは、デイに行った父が帰ってくることだ。「どうして死に目に会わせなかった!」となじられることも覚悟している。
また明日、心を整理して色んなことを記録していこう。
ずっとベッドに横たわる母の顔を見ている。今にも目をギョロッと開けて
「おすしたべたい」
と言い出しそうだ。
顔を撫でてやる。もう冷たい。
「がんばったね。本当に良くがんばったよ。お母さん」
聞こえるように大きい声で伝えた。
「おれもがんばったから、悔いはないよ。ありがとう」
これが今の本心だ。
さっき父が帰ってきた。母の遺体の横に座らせて、状況を説明。どうやら理解したようだ。
「何時に?」
「13時39分」
その後、「デイで取ってきたものがあるからカバン取ってくれ」と言い出した。何かと思いきや、カバンから取り出したのはクリスマス柄に包まれたトイレットペーパーだった。
「輪投げで取ってきた。クリスマスだからお母さんにあげようと思って」
そう言って父は悲しそうな顔で笑った。
「トイレットペーパーで喜ぶわけないだろ」
と笑いながら言おうとしたが、何も言葉にできず、ただ嗚咽した。
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