12月12日 蹴りで会話

 12月12日、土曜日、曇り。ものすごくどんよりしている。


 今日の母の状態。

 昨晩18時からからずっと眠り続け、朝の7時に起きた。食事ができるか怪しかったのでしばらく様子見。食事を飲み込む前に眠ってしまったら大事になる。

 案の定1分と起きていることができない。血糖値は125。母にしては低い。できれば早いところ食事を済ませて血糖値を上げたいところではあるが、完全に目覚めることはあるのだろうか。


 10分ほど待ち、ベッドを起こす。意識を取り戻すには声掛けよりもこちらの方が効果は高い。おぼろげながら目を開けたので、温めたタオルで顔を拭いてやる。予想通り目覚めた。


 食事をなんとか済ませ、薬を飲ませる。あとは歯磨きをしなければならない。歯磨きというかスポンジで口の中をきれいにする作業。強めにスポンジを絞っておけば水を口に含まずに済む。

 その準備をする為に洗面台へ向かい、一式持ってベッドに戻ったところ、母は眠っていた。たぶん20秒くらいの間に寝ていた。ドーピングしているとはいえ、のび太よりも寝付きが早い。こちらとしてはドラ泣きするしかない。何がドラ泣きだ腹立つな。


 その後、兄が仕事へ。リビングで父と母の様子を見ながら調理。白菜を切っている時、母が大きな声を上げた。怒りの声というか不満の発露というか、それをうまく表現する言葉を持たない。

 包丁を握っているついでにガスも使っていたので、本を読んでいる父に命令を下した。


「話しかけて手を握ってやれ」


 無視。聞こえなかったかと思い、火を止め包丁をしまい、深呼吸してから父の眼前へ。同じ言葉を繰り返すも完全に無視。


 感情が限界を超えた。

 父が座るキャスター付きの椅子を蹴り進め、母のベッドサイドへと近づける。できれば怒鳴り散らしたいが、大声を出すと母に悪い影響を及ぼす恐れがある。

 小声で再度命令を繰り返した。


「今、大変なので、手を、握って、やりなさい。お前は、それしか、できないんだから、それを、やりなさい」


 やっと。ここまでしてやっと。指示に従わせるのにここまでしなければならない。むしろいない方が役に立つ。椅子が空くからだ。

 やっていいことか悪いことか。後者であることは自分でよくわかっている。わかっているからこそ何も起きなかったのだ。


 それにしても深呼吸の効果よ。火を止めて包丁をしまったのも良かった。自分でも危ないと理解している、そして自分を信用していないからこそできる防衛手段である。全ての介護者にお勧めしたい。まずは深呼吸をして、火の元を確認した後、あぶないものをしまおう。


 母の叫び声がちょっと落ち着いたようだったので、再び蹴りで椅子ごと元の場所へ戻す。ふと父が読んでいた本に目を落とすと、「私にとっての介護」というタイトルが見えた。


 たぶんだけど、そいつは介護する側が読むべきものではないのか。間違えても介護される側が読むものではないのではないか。興味ないので確認はしないが。

 どういう意味でそれを読んでいるのか尋ねる気にもならんが、こういったところからも父が自分のことしか考えてないのだということがわかる。本当はそうではないのかもしれないが、おれの目にはそう映る。「お前はこの本に書いてあることに比べて劣っている」などと今にも言い出しそうな気もする。


 その後も母は数分に一度のペースで大声を上げる。手を握ってやると今のところ治まる。これでは仕事どころか調理も洗濯も、小説を書くのも難しいね。正直トイレに行くのも不安なので、自分もリハビリパンツ履いてやろうかと思っている。我が家の4人中、3人がリハパンもしくはおむつ! これはなかなか壮観だが、おれが漏らした場合は誰が片付けてくれるのか!

 やはり自分か! 意味ねえなガハハ!


 本当に嬉しいことなのだけれど、いまだに「念仏代わりにレコードを」を楽しんでもらっている。ものすごく励みになっている。笑って読んでもらえたらそんなに良いことはないし、こちらにとっても本当に嬉しい。いつかきちんと、長編を書く時間が欲しいな。


 その後、昼の12時30分。目を覚ました母ははっきりした声で


「お水飲みたい」


 と言った。ここ数日で一番意識がはっきりとしている。その後の会話もしっかりしていた。だがそれも長くは続かない。5分も経たずに再び傾眠へ。


 意識がはっきりしているということは、悪い方に考えれば薬が効いていないということだ。量を減らした結果がこれなので、今晩あたりにどうなるか気をつけておきたい。毎晩こんなことばかり考えているから口内炎がなっかなか治らないんだよねー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る