冬のポーラスタア 「一瞬のきらめきを、君と共に。」
11月13日、金曜日。すごい晴れ。処方箋を提出するために数日ぶりの外出。おそとたのちいね。
昨晩は激戦だった。毎度の繰り返しになるがヘルパー、食事、うんこ、歯磨き、うんこ! わーいうんこうんこ!! わーい……。
時系列を追うとこのようになる。
17時30分、ヘルパー到着。この時点での大便は確認されず。その前のうんこは15時30分だった。2時間ではまあ出ない。
18時00分、ヘルパー退出。同時に配膳を始める。薬を飲まないとてんかんの小発作を起こすので毎回少しだけ焦る。ある程度食事を進めていたところ、急に母が押し黙った。膝を突き合わせ正面から箸を差し出しているので表情の変化はすぐにわかる。
「うんこかね」
母は小さい声で「ごめん」と言った。確かにヘルパーがいる時にうんこをしてくれればこちらとしては助かるが、好きなタイミングでうんこをできる人間はそんなにいない。仕方がない。仕方がないのだ。
18時45分、父の体に薬を塗ったくり、寝かす。この時、隣のリビングにいる母のか細い声が聞こえた。何事かと慌てて様子を伺うと、またうんこだった。まだ出る可能性があるので、先に歯を磨かせる。寝たきりなので洗面器は必須。それからうんこ掃除。大変だったなあ。そりゃあ母もおれも疲れるってもんよ。
うんこうんこと連呼しておいてからなんだが、ちょっとクラッとするような小説の読書体験を久々にしてしまったので記録しておく。読み終わった後、久々に気持ちが晴れた。忘れないように書いておく。たまには時間を作ってやりたいことをやると良いですよ、という自分への注意書きだ。
その小説のタイトルは「一瞬のきらめきを、君と共に。」。ツイッター経由で知った。
なのでツイッターで感想を書くのが普通だと思うんだけど長文は書けないし、なんか「おっさんだけど世の中について行ってるんですよ、そのタピオカストローめっちゃナウくね?」みたいな感じがしてダサいやらしい。
おれは前科
故のひがみが生じていることは知っているが、ツイッターは普通の方が使用するツールである。おれは普通より下なのであまり使わない。インスタグラムは別世界のものでしょ。Facebookは生活が充実していない人がやったらダメなんでしょ。だから陽の当たらねぇここで色々とぶちまけているのである。
だいたいツイッターなんて、てめぇそんなもん見る余裕あんのかと言われると困るのだが、ちょっとしたニュースやプロ野球の情報を確認するのはそれが一番手っ取り早いのだ。テレビだったら知りたい情報を得るためには時間を無駄にしなければならないが、ツイッターなら母の様子を見ながらでもできる。写真付きでうんこ掃除なうである。
ふとタイムラインに流れてきた音はつきさんのツイートに、強烈な光を放つキャッチコピーが書かれていた。
「青くて脆くて拙い僕に、君が永遠の光をくれた」
アガーッ。いきなり見ると眩しすぎて明順応で悶える。グアーッ。暗闇側の住人として、ちょっとの光ならそれを目印に進むことができるが、眩しすぎるのはダメだ。目にも心にも悪い。携帯電話を落としかけて画面を握りしめたところ、まんまとバナーの部分を押していた。
主人公は
それを示すように、この少年の心根の優しさを感じさせるエピソードが下校中に起きる。本当に無気力なら「自分とは関係がない」と切り捨てるような他人のトラブルを「だから田舎は嫌なんだ」と毒づきつつも行動するあたり、優しさがねじくれている。恐らく、礼を言うおじいさんに顔を向けることすらしなかったのではなかろうか。
表現としては「真新しいズボンとスニーカーを泥々にした」という事後の表記に唸らされる。あえて手伝った場面も無粋なセリフも省き、救出場面を想像しやすくしているのではないだろうか。こちらが毎日のようにうんこだ何だと書いているのが恥ずかしくなる。
ヒロインの
冬を場面とした小説で重要なアイテムになりうる服装に関してだが、もこもこのオレンジ色のマフラー、もこもこのスエードブーツといった描写からかなりもこもこした暖かい雰囲気がある。笑顔でもこもこしている奴といえばミック・フォーリーやミシュランのあいつが真っ先に思い浮かぶが、それとは笑顔のベクトルが違う。
咲果がニコニコ笑うとすれば、おれが思い浮かべた両者はニヤニヤ笑い、特にミシュランのあいつが浮かべているのは糖分の過剰摂取で意識を失いつつある中たまたま顔面の筋肉が笑いの形に強張っただけのニヤニヤに過ぎない。
笑顔でもこもこしている子から感じるものは包容力と相場が決まっているが、咲果はそれだけではない。笑いながら無駄遣いを勧めるような性格の可能性がある。なぜならば実際に樹に対し脅迫めいた行動を取るからだ。内容は可愛らしいものだが、クラスにまだ馴染みたくない樹にとってたまったものでは無いだろう。
校歌を歌い出した咲果の声に驚き、素直に称賛する樹。歌手への道を勧めるが咲果がうなづくことはない。何かの出来事で断念したのかもしれない。この辺は樹が周囲に対し鋭い針を伸ばして距離を置くのと対照的に、もこもことした咲果なりの距離の取り方ではぐらかされる。
終盤、樹は「彼女には少しくらい話してもいいのではないだろうか」と思い、自分がなぜ夢を諦めたかを語り始める。しばらく黙っていた咲果は、夜空へ石を放り投げ、川に落とす。そして樹に小さな石を手渡す。描写が美しい。最後のセリフは象徴的だ。
夢は願えば叶うものというが、さまざまな事情により諦めなければいけないものもある。
「一瞬のきらめきを、君と共に。」。この物語はどうしても捨てたくないものを捨てなければならなかった者の物語と受け止めた。その為、両者の名前が再生をイメージさせる植物から付けられているのではないだろうか。本人ができなくても次の誰かがという思いかもしれないし、樹と咲果の根幹の似ている部分の暗喩も含んでいるのかもしれない。
それを踏まえると、あれほどキラキラしていたタイトルが、一気に苦いほとばしりを含んだものとなる。「一瞬のきらめき」という言葉の明と暗を浮き彫りにしているのだ。
場面の大半は夜空である。田舎だし冬だから空気が澄んで星が綺麗なのだろう。その中には北極星があるはずだ。一等星のように明るく輝いているわけではないが、誰かが必要としている明かりが。いきなりのキャッチコピーで目が潰れかけたが、読み終わってみればおれのようなものにこそ必要な物語だった。
最後に。
樹が現役サッカー部員を敵と認識するのは必然である。サッカー部とバスケ部と軽音部は人類共通の敵なのだ。
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