GO TO ニート

 11月7日、土曜日。曇り。左手首周辺に謎の激痛。力を入れることができない。


 前に勤めていた会社の社長から電話。一瞬身構える。最近の流れから訃報かと疑ってしまったのだ。思い当たる人もいるし。

 かと言っていきなり


「誰が死んだんですか」


 と聞くのもイカれすぎている。死亡前提の誰“か“でなく誰“が“。緊張したまま話を続けると、「仕事やらへん?」というありがたいお誘いだった。関西系の会社だったのです。

 だが現状、パソコンの前で作業するのはほぼ無理。生活の全ては母の介護の為に。残念ながらお断りすることになってしまった。


 10月の大きい仕事の時は母が入院していたので何とかなった。父はデイに行かせれば何とかなるし、もし家に居てもおれは自室で仕事をする。足に着けている装具(足首周辺を支える歩行補助具)のおかげで歩けばその音が部屋まで伝わってくるのだ。もちろん見回りは必要だが、装具の音が聞こえたらトイレの介護をすればいい。


 そろそろ年末が見えてきたところで、切実な問題が大きく立ちはだかってきた。カネがないのである。「ない」ので「ある」。スーパーエクセレントユーモア。

 カネの問題は切実だ。特に介護ものにとって何より大事なものと言ってもいい。

 当然だが全てのサービスはカネを払うことにより成立している。カネが無ければ何もお願いすることができない。デイにしろ訪問看護にしろヘルパーにしろ、何一つ使うことができなければ発狂することは間違いない。介護放棄ならまだマシだが、その先もありうる。


 まず現状を打破するためには取引先を増やすのが第一条件。だが取引先が増えたらパソコンで作業をする時間が増える。

 いきなりつまづいた。それができないから困ってるんだというのに。


 母の様子を見ながら仕事をする為にノートパソコンは必須なのだが、それでも作業する場所がなければ話にならない。今のように台所でiPadと向き合うだけでなく、マウスを動かせるスペースが必要。これが難しい。家の狭さをここで嘆いても仕方がない。

 また、動画等をこしらえるにはモニターが小さいと悲しい。やり辛いのは当然として、辛いを通り越して悲しい。メモリも余裕を持っておかねばならない。ここでもカネが飛ぶ。


 このままではどん詰まり。煉獄への片道切符お買い上げありがとうございます、日本政府公認のGO TO ニートキャンペーンにようこそ状態である。

 あ、ニートというのは30代までなんだっけ。ノットエドュケイショントレーニングなんとか。今は40代だからスーパーニートか。50代ならばスーパーエリートニートになれる。

 けど、動き方でなんとか現状をダハダハ打破できるとは思う。自信はある。大丈夫、やれるはず。がんばるぞ。


 と意気込んだところへふりかかってきたよ、また別の不安がよお!


 左手首あたりがド派手に痛みます。激痛ほとばしりマクリスティー。手のひらを見つめるのは問題ない。だがそれを返し、手の甲を上に向けると痛みでひきつる。力を入れて何かを抑えるのも難しそうだ。

 痛いのが分かっているから試していないが、たぶん左手でドアノブを開けることはできない。ちょっと賢い猫よりも行動範囲が狭くなっている。右手が使えることを忘れ、誰かが開けてくれるまでドアの前で立ち尽くすのだろう。

 介護どうする。介護が必要なのは、おのれではないのか。


 動きをチェックした。○は問題なし、×は無理、△は気合でなんとか。


 自分の食事 ○ 食器を持てないが問題なし

 キーボード入力 △ 左半分は右手でなんとか

 母の食事介護 △ 食器をもてないのでちらかる恐れ

 食事の支度 ×よりの△ 野菜類を切れない、ナタを買え

 うんこ掃除 ×よりの△ ズボンのチャックを下ろせない

 父の薬塗り ○ 片手でやれば問題なし

 可動範囲 ○ 痛みを我慢すれば


 できないことも気合でカバーすればなんとかなる。


 もしかしたら風が吹いても痛いアレなのかもしれない。痛みを我慢すれば動くという経験が数年前にある。前は右肘だった。あまりに痛むので外科に行ったら


「つーふーですね」


 と言われたのだ。詳細は去年の3月に「痛風日記」としてアップしてあります。あれ、痛かったなあ……。


 それにしても思い当たるフシが見つからない。プリン体高めのものといえば納豆くらいしか思い浮かばない。最近納豆を一日三食食べていたから、プリン体がプリンプリン固まっている可能性、なきにしもあらず。

 納豆くらいでそんな、と言われるかも知れないが、ヒドい人になるととんこつラーメンなら大丈夫だけど味噌ラーメン後は歩けなくなるというパターンもあるのだ。とんこつラーメンはプリン体が低いらしい。人によって症状や地雷はさまざまなのである。傍から見てる分には大変面白い。


 ツイッターで痛みをこぼしたところ、「サタデーナイト症候群」ではないかと教えて頂いた。アイスちゃんさんありがとう。

 この激痛がそれかどうかは分からないが、患者をバカにしきっている様な名前でもれっきとした神経痛だそうで、カップルたちがよくする腕枕が原因になることからこう呼ばれているらしく、なるほどうるせえな一人だよやっぱバカにしてんだろバーカ! なんなんだその昭和の医者のしたり顔が見えるようなネーミングは。


 左手をゆっくりと持ち上げ、手のひらを返して手の甲を上にする。どうやらこの動きが最も痛いようだ。少なくとも現時点では。


 だけどそんな動き多用しているかなあ。せいぜいアップルウォッチ様を光らせる時くらいだろうなあ、そんな動きは。いままでそんな動きあまりしてないもんなあ。ウォッチ様を着け出してからだもんなあ。なあ。


 ……アップルウォッチを着けてからだもんなあ。こんな動きしだしたのは……。原因が全く思い当たらないな……。

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