GO TO ショート

 おれのこの日記のことを「お隣さん」と呼んでくれている、如月しのぶさんの「在宅医療介護で二人介護なので愚痴の一つも言ってみる」から今回のタイトルはパクっ……借りた。

 カクヨムで介護系日記を書いている人はあまり多くない。他の投稿サイトを調べた訳ではないけど、あまり多くないと思う。不人気というかなんというか。エッセイ部門でなく、介護系日記部門というものがあったらベスト10までには入れそうな気がする。


 10月31日、土曜日。快晴。洗濯物がよく乾きそうだ。


 今日から父がショートステイという名のおつとめに。世の中は「GO TO トラベル」や「GO TO イート」で盛り上がっているそうだ。完全にテレビの向こうの話なので、本当に盛り上がっているのかどうかはわからない。本当にわからない。すっかり世間の流れに置いていかれマクリスティー※。


 だが我が家の場合は「GO TO ショート」で大盛り上がりになるのである。一番厄介な人間がいなくなるというのは本当に心が軽くなるもので、それを証明するように今日は腰の調子が良い。


 母が厄介なのは病気の為だが、父の厄介さは性格から来ているものである。修理や修正のしようがない。治療はもう必要ないのだ。


 母の退院前、父にしっかりと説教し性根を入れ替えてくれたかと思ったが、やはりそんなことはまったくなく、こちらの言うことに対しては無視を貫いている。その態度を注意した母には「病院に行ってこい」と悪態をついていた。最後に都合よく後悔するのだろうが、もう遅い。


 昨日の昼間は母のうんこ掃除をしている横で黙って食事をするというアングラ邪教の宗教画のような光景が繰り広げられた。それは母の為に黙っていたのではなく、自分のこと以外まったく眼中にないからということが判明した。


 なぜそれが判明したかというと、本日も食事中ではないものの眼前で行われるうんこ掃除に一瞥もくれず、テレビのくだらない通販番組を前かがみに観ていたからである。理由はこれで十分だ。息子がお前の妻のうんこを掃除していて何も感じるものはないのかと聞いてみたくなるが、もう無駄なことはしない。


 11時、ショートからのお迎えがきた。荷物と一緒に車に詰め込み、シートベルトをつけさせる。大音量のドナドナを流しながら車は去っていった。残念ながら子牛は来週の木曜日には帰ってきてしまう。向こうで出荷してもらっても構わないのだが。


 それでも母の介護だけしていればいいというのは本当に気が楽だ。うんこ掃除もこなれた感がある。当初は兄に手伝ってもらおうと考えていたが、徹底してその場面を避けるので相当嫌なのだろう。慣れるのはおれだけでいい。


 あ、おれとヘルパーさんだけでいい。この後来てくれるから、いろいろお願いしておこう。


 久しぶりに警察を名乗る詐欺から電話がかかってきた。番号は非表示。出るなりいろいろ捲し立ててこっちの住所などを読み上げ始める若い男。


「で、なに? お前どこの部署よ」


 仮にも警察を名乗る相手にこの口の聞き方。それにもめげずにまだベラベラと喋っているので途中で遮り、


「そうか、なら電話番号言え。電話してやるわ」


 電話は切られた。

 こんなのに引っかかる奴がいるかと思うが、今日ドナドナされた男は見事に引っ掛かった。おれが東京に住んでいる時にやらかしてくれたのだ。聞くところによると、電話口でいきなりおれの名前を連呼し出したらしい。典型的なオレオレ詐欺のフローチャートにはまりやがったのだろう。


 違和感を覚えた兄がおれに電話をし、金をせびっているのがおれでないことが分かったからいいようなものの、その後は警察を呼んだり割と大変だったらしい。


 ※補足

 曲は知らないがラクリマクリスティーというビジュアル系バンドがあり、その名前にハマった末の斬新にして知性あふれる独創性の高い表現方法。使用例に「ふりかけかけマクリスティー」「連続で右折しマクリスティー」「ゴール前で差されマクリスティー」などがあるが全然受けなかった。多分バンドが悪い。

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