20201023雑記

 10月23日、金曜日。曇り。


 昨日の夜18時50分。あとは父を寝かすだけと皿を洗っていたところ、救急車のサイレンが近づいてくることに気づいた。なんか近所に来てるなあ、いや、ずいぶん近いなと思っていたら、サイレンは我が家の前で止まった。

 テレビを見ていた父が、赤く光る窓に視線を移しながら言う。


「お前呼んだのか」


 救急車を呼ぶのが我が家だけの専売特許だと思っているのか。必要もないのに呼ぶわけがない。どうやら斜向かいのお宅に何かあったようだ。


 そこの家は我が家とも親交がある。20年くらい前、くも膜下出血の為、風呂場で倒れた母に救急車を呼んでくれたのがそこのおばさんだった。どうやって家の中の情報が伝わったかというと、ほぼ寝たきりだった祖母がコンクリートを四つん這いで進んで知らせてくれたのである。


 昨日の朝も挨拶がてら「お母さん、具合どう?」と聞いてきてくれた。正直に余命のことを話すとさすがに黙り込んでいたが、悪気があっての報告ではない。


 一日明けて、まだ特別な動きはない。何もないと良いのだけれど。もしかしたら、我が家の近所の人達もこんな気持だったのかなあ。



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 母の病院で門前払いを食らうことに定評のある兄が、またも門前払いされた。ここでいう門前払いとは、ナースステーションで止められてある程度の説明を受けたのち、


「かえれ」


 と言われることを指す。

 おれなどはタイミングが良く、もしくは悪く、前触れ無く余命を聞かされたついでに顔を見ることを許されたりしている。どう考えてもタイミングが悪い。


 そんな兄が、うれしい情報を持って帰ってきた。


「退院日が決まってから、自分で食事が取れるようになったらしい。最後の方は疲れて無理だったらしいが」


 ちょっと前までは食事に介護が必要だった。だがやはり家に帰れるという希望が母の根性に火を着けたのだ。多分、なるべくこちらが大変な思いをしないように全力で頑張っているのだと思う。


 人から見れば、家に帰るというのは本当に小さなことだと思う。けどその小さい希望が全力で母を生かしてくれている。

 何回も繰り返すし、いつまでも言い続けるが、希望なんて小さい方がいい。もし潰えたとしてもまた芽生えるまでの時間が早いのだ。

 希望の火を消さない為に、更に家に帰りたくなるような些細な情報を手紙に書いておくことにしよう。新しいアイスを買っておいたとか、気合と牛すじの入ったビーフシチューを作っておくといった、本当に些細な情報を。



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 カレンダーに印をつけてあるので間違いないはずなのだが、父の往診医が30分過ぎてもやって来ない。往診の最後に翌月の日程を確認してからカレンダーに印をつけているので、間違いはない。だが医者は来ない。


 1時間過ぎたので、病院に電話をすると「来週ですよ」とのこと。

 となるとおれが日付を勝手に一週間ずらしてカレンダーに書き込んだことになる。認知症か。


 また、母の入院している病院から「今度から往診になるので病院が代わる。ついては貸している血糖値測定器を返却せよ」との連絡があった。


 この測定器は確か、前に母がお世話になっていた糖尿病専門のT病院で借りたものではなかったか。T病院に確認をすると、やはりそうだった。返却に行く旨を伝え、母の入院先に連絡をする。


「T病院のものです」

「なら結構です」


 カチンとくるわな。ただでさえ入院先から電話が来たらビクッとするのに、「なら結構です」とか言われたら、そりゃあカチンとくるわな。


 だいたい、なら、とは。

 本来ならば「あ、そうだったんですね。こちらの勘違いでした。確認してないですがどうせうちのものだと認識していました。忙しいこっちが調べるよりヒマなお前が調べた方が道理に適っているだろ。すみませんと言う気はありませんがそう思ってはいる。めんどくせーから言わないだけで」くらいの言葉を費やしてもいいのではないか。実際にこう言われたらカチンでは済まないが、この内容を「なら」の一言で済ますな。

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