じゃあ誰だ
母の入院している病院に着くと、警備がものものしくなっていた。当然コロナの影響である。
モニターの前に立つと体温を測定してくれるのだけれど、どうせなら体温だけでなく「胃が悪い」とか「虫歯あり」とか診断してくれればいいのに。次の世紀に期待しよう。
病棟を進み、母のいる階へ。ナースセンターで「入院している桑原の家の者です。待合室まで運んで頂いてよいですか?」と声をかけた。出発前に母に電話をし、サンダルを届ける旨を伝えておいたので、車椅子には乗っているはずだ。
様子を見に行ってくれた看護師が戻ってきた。彼はこちらが全く予想していないことを言った。
「あの、次男さんが先程見えて、ちょうどベッドに戻ったところなんです」
次男は私です。ああそうか。兄が来てくれたのか。一応「次男は私です」と伝えると「じゃあ長男さんですかね」と彼は言った。その時は女性看護師が母を連れてきてくれたらしい。つまり、二人がその誰かを見たということになる。
サンダルだけ渡してもらうことにし、病院を出た。兄に電話をかける。
「来てたのか」
「どこに?」
「病院」
「いや、無理。今日は忙しいので」
ん?
先程の出来事を説明すると、兄も困ったようだ。
「おれかお前以外の誰かが行ったってことか? それはもう母に聞くしかないな」
「まあそうなんだけど」
母の携帯電話にはつながらない。ベッドに寝転がっていると着信に気づかない為、会話可能なタイミングが少ないのだ。
「もう一度行ってみろよ。ナースセンターに」
そう言って兄は電話を切った。もちろんそれは考えてもいるが、帰り際ナースセンター見た時、会議してたから行きづらいんだな、これが。
などと思っていたら病院から電話。今後のことについて説明をするので明日また来いと。明日は父が帰って来る日なのであるが、優先事項は母の方。父には遅れて帰ってきてもらうことにしよう。なんかいやな忙しさだ……。病院に来たのは誰か、明日聞くことにしよう。
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