元魔王の人間無双
月田優魔
転生者
「人間ごときが!」
ここは魔王城の最上階、王の間である。そこでは、今まさに熾烈を極めた戦いが繰り広げられている。一方は人間の女で、もう一方はとても人間には見えない鱗や尻尾が生えている。
それもそのはず、彼は魔王なのである。魔王とは悪魔たちの王の俗称で、世界に恐怖と混沌をもたらす存在。
その魔王が自ら戦うほど魔王軍は追い込まれていた。
激しくお互いの位置をかえながら激戦は続く。
突然、勇者の仲間が二人、《時空魔法》テレポートで魔王の後方に現れる。
仲間二人は《重力魔法》グラビティを放ち、重力を何倍にも上げて魔王の動きを封じる。
魔王の動きが一瞬とまる。
勇者はその一瞬を見逃さなかった。
「ッ!!?」
勇者の聖剣が魔王を斬り裂き致命傷を負わせる。
そこにさっきまで戦っていたんだろう臣下のルークが息を切らしながら《時空魔法》テレポートで現れる。ルークはその光景を見るや、激しく怒りを露わにする。
「魔王様に触れるな!人間ごときが!」
ルークは周囲に衝撃波を放ち、勇者たちを吹き飛ばす。
ルークが魔王のそばにやってくる。魔王と勇者はお互い警戒しあって向かい合っていた。
「申し訳ありません魔王様。魔王軍は今や壊滅的打撃を受けています。各地の悪魔たちも撤退を始めました。まさか勇者などという人間一人にここまでしてやられようとは…。どうされますか?」
魔王は黙り込んだまま何も話そうとしない。
先に口を開いたのはルークだった。
「戦いましょう魔王様。魔王様に捧げたこの命、共に戦って散るのなら悔いはありません。人間共に目にものを見せてやりましょう」
ルークは覚悟のこもった瞳で魔王を見つめている。彼は魔王に忠誠を誓っており、なにがあろうと最後まで一緒に戦うつもりだった。
しかし、魔王には少しばかり悔いがあった。
正直なところ、彼は魔王になりたいわけではなかったのだ。生まれながらにズバ抜けた魔力と魔力制御のセンスがあり、周りに担ぎあげられて皆を守るために魔王になっただけで、普通の人生をおくりたかったという気持ちもあった。元々は、平和主義な性格だった。
このまま戦い続ければ消耗戦になる。
この戦いはどちらかの王が倒されるまで終わらない。
それに魔王は傷を負っている。
このまま戦い続ければ、魔王は負ける可能性がある。
《時空魔法》テレポートを使って遠くに逃げたとしても、魔力の痕跡をたどってすぐに追いついてくるだろう。
どちらかが逃げきるなどという甘い結末があろうはずがない。
魔王は考えた末に、大きな決断をする。
「仕方ない。オレは決めたぞルーク。転生する」
ルークは目を大きく見開いた。
何を言っているかわからないといった顔だ。
「しかし魔王様、この世界には転生する魔法はありません。魔導具班もそのようなものができたという報告はありませんし……ま、まさかっ!?」
ルークが目を見開いて魔王の顔を凝視する。
魔王は懐からあるものを取り出した。
「そうだ、これはオレが密かに研究を続け、いざという時のために作っておいた魔導具。名付けて、
それを聞いたルークは慌てるように言い放った。
「危険です!それはまだ未完成品ではありませんか!それに万が一転生できたとしても、副作用でなにが起こるかわからないんですよ!」
使わない方がいい、と説得するルーク。
勇者達は悪魔同士で言い争っている姿を警戒しながらただ見ていた。
「これは戦争です。どちらかが滅びるまだ戦いはおわりません。ならば、魔王様に捧げたこの命、最後の片時まで魔王様のためにお使いいたします」
ルークの瞳から覚悟が伝わってくる。
しかし、これ以上死傷者が出るのは、魔王の望むところではない。
どちらかが滅びるまで戦いは終わらない、そして魔族は負ける可能性がある。
ーーーーーならば、オレのとるべき選択は…。
魔王は目を閉じるとゆっくりと開き覚悟を決めた。
「すまぬ、ルーク。後のことはお前に任せた」
そう言い残すと、魔王は
すると、魔王の身体が光り輝き水泡のように散っていった。
この日、世界から魔王ヴァルヘイム・レイ・ヴァルキュリアが消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます