魔法少女sick jewels
佐藤 損軒
第1話 彼女達
お城を支えている大きな
そして、その鎖の先にはサイズの違う鉄の輪がありまして、今は僕の左手の手首につけられています。
……本当はそうじゃなかったんですけど、何て言うかこれはもう、
鎖の
と、こんな形で
むしろ、その逆です。
何せ手錠を付けてくれたのは、魔法少女なんですから――
―――――――――――――――――
僕のいた世界に、彼女達八人の魔法少女は
彼女達が現れたのは、とある化け物を追ってきたからなんです。
彼女達が追ってきた化け物のせいで、僕の生まれた国は大被害を
それから十日後、彼女達は僕のいた国の最大戦力と協力し、化け物の退治に成功しました。
そうです。成功してしまったんです。
それから、僕は彼女達と共に、この得体の知れない異空間へとやってきてしまったのです――
―――――――――――――――――
魔法少女共に生活をしてはいますが、僕はどこにでもいる何の能力もない、
ならどうして捕まっているのか? その魔法少女という存在に悪さでもしたか、さもなくばその魔法少女が悪で君は被害者なのか?
そう思われるかも知れませんが、僕は被害者でも捕まっているわけでもありません。
……まぁある意味、被害者なのかもは知れませんけど……
とにかく、この手錠は身柄を拘束するものではないんです。この手錠は、法律と同じなんです。
僕の行動を制限してしまってはいますが、この手錠が争いを抑制してくれて、結果僕を守ってくれているんです。
どういうこと?
と思うと思いますので、
一番手は彼女達のリーダー、
「では失礼するぞ、
「は、はい」
親鳥が
「あわ、あわわわわ……」
「ふぅ、やはり
超、接近されてしまっています。
彼女の
考えるな僕! これはただの呼吸! 何も考えるなぁ! ……あっ。
僕より、グランディディエライトさんの方が身長が高いんです。つまり、彼女は今腰を折って僕に抱き付いてくれています。そして、彼女は一枚の青い布で作られたような、上半身がかなりオープンなドレスを普段着にしています。
つまり、初めは軽い接触だけで意識せずに済んでいた女性特有の二つの
あっ……
何がかはお答えできません。察して下さい。
「あぁ、やはり藤堂は不思議な香りがする。落ち着くようでありながら、どこか興奮するような、矛盾する香り……。出来ることならこのままずっと…………いや、何でもない」
グランさん!? 耳元でそんなこと
大人らしい落ち着いた声が、男なら誰だって勘違いしたくなる言葉を囁いてきました。でも勘違いしてはいけません。
彼女達は別の世界の人間です。僕の世界の常識、特に恋愛に関するものは一切持ち合わせていないんです。ですので、それらしい言葉の一つ一つを真面目に受け止めていたら、命がいくつ有っても足りません。絶対に、勘違いをしてはいけません!
……でも、真面目なグランさんなら、
「Hey グラン。もう魔力は回復してるはずデス、いつまでダーリンとそうしてるつもりデスカー?」
はっ!? 危ない危ない……
って、今の声は!
グランさんの右肩に、後ろで並んで待っている彼女の四本の指が、しっかり喰い込んでいました。
「カナリートルマリン……」
グランさんが喋る前に、小さく舌打ちが聞こえてきたような気がしたのは、たぶん聞き間違えです。
「ほらグラン、次が
グランさんは背筋を伸ばし、僕の両肩に手を置いてゆっくり後ろを振り返りました。
青く、光を反射した水面のような長髪が、僕の顔を撫でていきました。そうして、グランさんはカナリーさんを真っ直ぐに見据えました。
対してカナリーさんは、首を傾げ黄色のロールした髪を揺らし、笑顔でグランさんを出迎えていました。
青と黄。リーダーと副リーダー。二人が睨み合い、無言の重い時が流れていきます。
……また、喧嘩が起きてしまうのでしょうか。
「……ふむ。確かに、言われてみれば魔力は回復していた。交代、するべきだな。……では、名残惜しいが藤堂。また今度だ……」
不意にこちらに向き直り、耳に唇を当ててきたグランさんはそれだけを呟き、潔く僕から離れていきました。
さすがは彼女達のリーダーです。こんなにあっさり僕を次の人に
そんなグランさんだからでしょう。僕は何となく、その後ろ姿に向かい手を伸ばしてしまっていました。
「……Hey ダーリン。今はミーとの時間デスヨ?」
逃がさないと言いたげに、満面の笑みのカナリーさんが僕を背後から持ち上げてきました。
「痛っ」
持ち上げられてしまい、途中で鎖が伸びきり左手が引っ張られ、声を上げてしまいました。
「ワッツ? アォ、Sorryダーリン! 大丈夫デスカ!?」
「あ、はい。……大丈夫、です」
「オー、良かったデス。……にしても、ホントにムカつく鎖デース。こんなの、ぶっ壊してしまいたいネー……」
僕が声を上げた瞬間、正面から背筋がゾクゾクする謎のエネルギーを大量に浴びせられてしまいました。
多分、漫画とかでいう殺気というのは、この謎のエネルギーのことをいうのかも知れません。
ちなみに、背筋のゾクゾクはまだ続いています。
「ケースケが痛いって言ったケースケが痛いって言ったケースケが痛いって言ったケースケが痛いって言ったケースケが痛いって言ったケースケが痛いって言ったケースケが痛いって言ったケースケが痛いって言った」
「ちょっとカナリーさん。何してくれちゃってるんですかぁ?」
「あの黄色……ァ、アホか、○ね……」
あぁ、これは、さっきよりヤバイ状況になっています……
僕が「痛い」と言ってしまったばっかりに、並んで待っていた皆が“病んで”しまったようです。
しかも、カナリーさんの次に待っているのは……
「おいカナリートルマリン。てめぇ、俺のトードーに何してくれてんだよ!」
「「「「は、俺の?」」」」
赤髪の彼女の一言で、広間の空気が一変しました。
黄色と赤。それとピンクと黒と緑の光が、彼女達一人一人から発せられてしまいました。
彼女達が発光するのは、魔力を使っている時です。それも、大量に消費している時だけなんです。
つまりこれは、大乱闘が始まる予兆、ということです。
それにしても、魔力を補充する為に並んでたはずなのに、どうして消費をしないといけないんでしょうか? 彼女達魔法少女の思考回路はやっぱり、不思議です。でも……うん、こんなのは間違ってます。こんな無益な争いを認めてはいけません!
普段、彼女達に守ってもらってばかりいる情けない存在の僕ですが、言うべきことは言います! だって、僕は男ですから! 女の子が傷つけ合う姿なんて見たくないんです!
と、覚悟を決めて意見しようとした僕でしたが、
「ンギュ!?」
カナリーさんがクマのぬいぐるみを抱きかかえるみたいに、僕をひっくり返して抱き締め直してしまったんです。
顔に、二つの柔らかいものを押し付けられて、呼吸するのも困難な状態です。
「おいカナリー、てめぇ、挑発のつもりか? だとしたら……大成功だぜ」
スポーツブラにすごく短いデニムという、小麦色の肌を激しく露出させている赤い短髪の彼女。パイロープガーネットさんが火の玉のように髪を逆立ています。
これは、彼女が激ギレしている時になる髪型なんです。
「最後のチャンスだカナリートルマリン。トードーをてめぇのその汚ぇ皺くちゃの胸から出せ。今すぐ出すんなら、特別に半殺しで許してやる」
「ハン、離すわけないデショ。バカデスカ? まぁ、ダーリンを痛がらせてしまったことは素直に謝りマス。デスが、魔力補給は今ミーの番デス。交代するつもりもダーリンを離す気もありまセン。それに、ダーリンはパイロープのじゃなくミーのダーリンデース!」
状況が状況なら、下半身と闘わなければいけない状況なんですけど、とてもそんな気分にはなれません。
僕を抱き締めながら不適に笑う美人なお姉さんと、不良チックにキレてる胸の大きいスポーツ少女が睨み合っているんですから、胸の感触に興奮してる暇なんてありません。身の危険を感じることで精一杯です。
「そうかい……なら燃え死ね! カナリートルマリン!」
拳を燃やし、殴りかかってきたパイロープさんでしたが、
「Shut up idiot! ダーリンごと燃やす気とか、一回脳ミソ取り替えてやるデスこの牛乳女!」
突然現れた透明な蜂の巣状の物体に、拳を止められてしまいました。
「チッ、防護壁なんて出さねぇで素直に殴られやがれカナリートルマリン!」
パイロープさんを止めたのは、彼女達が防御の際に使う魔法防護壁です。まぁ、簡単にいえばバリアですね。
防護壁の色は黄色です。つまり、これを展開しているのはカナリーさんということになります。
「……本気ですネ。信じられマセン」
カナリーさんから、笑顔が消えました――
オラオラオラと、拳に力を込め、防護壁を押し込んでくるパイロープさん。彼女の拳は燃えていることもあり、熱と腕力で少しずつ防護壁を歪めていきます。
それを、カナリーさんは冷たい瞳で見つめていました。
「ダーリン。悪い子に花を咲かせますので、ちょっと目を閉じていてくだサイ」
「え!? ダメです! それはやり過ぎですカナリーさん!」
力を振り絞り叫んだ僕の声も、カナリーさんには届きませんでした。
パイロープさんの引き締まった脚に、カナリーさんの視線が注がれます。
「Ben」「そこまでだ」
一瞬の出来事でした。
二人の間に、グランディディエライトさんが割って入ってきたんです。
しかも現れたその時にはもう、左手でパイロープさんの燃えている手を捻り上げ、右手は防護壁をあっさり突破してカナリーさんの目を塞いでしまっていたんです。
「まったく。貴様等、魔力補給で魔力を消費してどうする!? ここで今あの怪物共がやってきたらどうするつもりだ!!」
リーダーであるグランさんの
――――――――――――――――――
残りの皆さんと握手をし、魔力補給を終えた僕は、今日も無事に自室へ戻ってこれました。
今日も大変な一日だったけど、全員無事で良かった……
僕達が迷い込んだこの世界には、昼や夜といった
城の外にあるのは隕石のように浮かんでいる幾つかの塊と、色んな絵の具をぶち撒けたかのような、んにょんにょしている空間だけなんです。
ここを彼女達魔法少女は、「
疲れているのでしょうか。何だか、眠くなってきてしまきました。
こんな世界に来てしまった僕ですが、特に、後悔はしていません。
元いた世界の住人の一人として、彼女達に贖罪をしなければいけないので。
それに、戻ったところで……
……ダメですね。
僕にはもったいない豪華なベッドに入り、大きなシャンデリアがぶら下がる天井を見ながら、今日も何に対してか分からない祈りを捧げます。
今日も全員無事に、一日を終えられることに感謝します――
こういった感じで、僕の一日は終わります。
ですがこの後、目を閉じ意識を手放してしまった僕は、
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