第37話 諦めましょう
ご飯を食べ終わった私は、レストさんに手を握られて、目を閉じて集中しています。先程言った通り、魔法を教えてくれると言うレストさんは、私にそうするように指示をしてきたんです。
魔法は、体内にあるエネルギーである、自らの生命力を引っ張り出して使用するため、それを引き出せなければ話にならないようです。そのエネルギーは言い換えれば魔力であり、生命力が強い人ほど、魔力も強いと言える。でも、その魔力を引き出すにはまず、出口がなければ出てこれません。その出口があるかないか、または、出口が広かったり、狭かったりするかが、魔法を使うのに不可欠であり、才能にかかわってくるという事です。
「……」
目を閉じて、もうしばらくの時間が経っています。
目の前には、ずっと暗闇が広がっていて、私はその中に、はるか遠くにですが、光る丸い球体を発見する事に成功しました。
「……グレアちゃん。それが、魔力の源です。そちらに、もうちょっと近づいてみてください」
「……」
私の手を握っているレストさんが、そう言ってきました。私は目を開かずに、言われた通りに、そちらへ行くように集中しますが、中々上手くいきません。
私の手を握っているレストさんの手にも、力が入ります。
レストさんは、私の手を握り、私が体の中の魔力を探しやすいように、手助けをしてくれています。私の手から、微量の魔力を流すことにより、それが見つかりやすくなるようです。もうずっと、私の手を握ったままなので、疲れているとは思いますが、それでもずっと、手伝ってくれています。私もそれに、応えなければいけません。
「っ……」
でも、上手くいきません。どうしても、そちらに近づけないんです。
「少し、休憩にしましょう」
「はぁ……!」
私の手を、レストさんが手放すのと同時に、暗闇の向こうの光が消え去りました。私は目を開き、集中をとくと、どっと疲れが押し寄せてきました。何もせず、ただじっと目を閉じて集中していただけなのに、物凄い疲労感です。
「ふぅ。人の魔力を引き出すと言うのも、なかなか難しいですね」
ニコリと笑いながら言うレストさんの額にも、汗が浮き出ていて、疲労が伺えます。
「は、はい……」
私は、全身の倦怠感から、レストさんに対してまともに答える余裕もありません。息を整えながら、項垂れて、倒れてしまいそうです。
「どうやら、無理のようですね。才能ないんですよ。諦めましょう」
オリアナが、私にタオルを差し出してきて、そう言ってきます。私はそれで汗を拭きながら、自らを奮い立たせます。これくらいで、諦めてたまるもんですか。
「さぁ、レストさん。続きをお願いします」
「わぁ。オリアナちゃん、グレアちゃんやる気満々ですよ。逆効果だったんじゃないですか?」
「……」
レストさんも、オリアナから受け取ったタオルで、汗を拭いている所でした。私は休憩もそこそこに、オリアナの嫌味のような言葉に対して、やる気で応えます。
「あー……そういう事ですか」
何が、そういう事なのかは分かりませんが、続きです。私が差し出した手を、レストさんが先ほどと同じように握りしめて来ます。
「ちょっと、力が入りすぎですね。少しだけ、肩の力を抜きましょう」
「そうは言われても……」
難しいです。気合が入った今、余計に力が入ってしまいます。オリアナのせいですよ、と訴えるように、オリアナを睨みつけてやります。しかし、オリアナはこちらを見向きもしません。もしかして、怒っているのでしょうか。私が、魔法を覚えようとすることが気に入らないようなので、可能性はあります。
「感覚を忘れない内にするのは、賛成です。ですが、体力的に、次で止めておきましょう。これ以上は、明日にも響きそうですしね。いいですね?」
「は、はい」
そんな事、考えている場合じゃありませんね。今は、集中です。次で最後なんだから、頑張らないと。
目を閉じて、先ほどと同じように、暗闇の中に光の玉を見つけます。でも、やっぱりどうしても近づけません。むしろ、先ほどよりも遠ざかっている気さえします。
「……グレアちゃん」
「も、もうちょっとです。もうちょっとで、行けます」
レストさんの声掛けに、私はそう答えて、尚も集中します。でも、時間だけが無駄に過ぎていくだけです。一向に、成果がないまま、ただただ体力を削り、時間が過ぎていくだけです。
「グレアちゃん」
「……」
再び、レストさんの声掛けに、私は答える事もありません。集中を続行しますが、やはり成果はありません。光の玉は、遥か彼方で光り輝いているだけで、届く気配が全くありません。
もしかしたら私には、オリアナの言う通り、魔法の才能がないのかもしれませんね。レストさんに教えを請い、ようやく教えてくれる事になったと思ったら、これですか。なんとも、情けないです。
諦めかけた、その時でした。
私の、もう一方の手を、誰かが握りしめてきました。その人物は、私の隣に寄り添うように座り、私の手を握っています。考えるまでもありません。それは、オリアナです。突然、何ですか貴方は。私が魔法を覚える事に反対しておいて、今度は励ましのつもりですか。
分かりましたよ。もうちょっとだけ、頑張ってみます。頑張ればいいんでしょう。私は、オリアナの手を強く握り返しました。
「コレは……」
レストさんが、驚きの声をあげました。私は、いつの間にか、光の玉の目の前までやってきていたからです。
目の前にある光の玉は、凄まじい大きさでした。というか、大きすぎて、全貌が見えてきません。遠目から見た時に球体と分かりましたが、間近で見るとそれすらも分からないくらい、大きいです。
「コレが、私の生命力なんですね……」
「はい。そしてこれが、魔法の力の源です」
そう言うと、レストさんが私の手から、手を離しました。その瞬間に、目の前の光の玉も、消え去りました。
「はぁっ、はぁ……!ど、どうですかっ。私、ちゃんとたどり着けましたよ」
息を整えながら、レストさんに訴えかけるように言います。私ほどではないですけど、レストさんも疲労感を隠せていません。息が少し、乱れています。私の意地に、付き合わせてしまったせいですね。
「よく、頑張りましたね」
「えへへ」
隣に座っていたオリアナが、私を褒めながら汗を拭ってくれました。私はそれが嬉しくて、思わず笑顔になってしまいます。
「オリアナちゃんに甘えるグレアちゃん……かわええ。はぁはぁ」
そんな私達を見て、レストさんが別の意味で息を荒げています。
「それより、どうでしたか、私の魔法の才能は」
「あー、ありません。さっぱりです。なので、オリアナちゃんお言う通り、諦めましょう!」
「……へ?」
私は、笑顔であっけらかんと言ってくるレストさんに、呆然とします。今、なんて言いました?私に、才能がない?あんなに、頑張ったのに?オリアナも、応援してくれたのに?
私は、隣に座っているオリアナの膝の上に、倒れこみました。もう、ダメです。体力、残っていません。そこへ無情な事を言われて、私の意識はどこかへと飛んで行ってしまいました。
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