第25話 いい拳です
雨は、降りやむことを知りません。むしろ、強くなっている気がします。今日はもう、ここから動ける様子がないので、ここで過ごす事にしました。降り止んでも、日が沈むまであまり時間もありませんからね。だったら、ここを拠点にして、一夜を過ごした方がいいという判断です。
という訳で、オリアナが作ってくれた、美味しいご飯を食べ、後片付けを手伝い、する事がなくなってしまいました。
「……」
焚火に当たりながら、レストさんは、本を読んでいます。そのレストさんを、横目でなんとなく、観察してみます。
本当に、キレイな人。銀色の髪は、何でというくらい艶やかで、流れるみたい。自分の、キレイだと思っていた髪の毛が、ちょっと恥ずかしくなってしまうくらいです。それに、本を読む姿が、なんというか……絵画のモデルさんのようで、その姿を絵にしたら、高く売れるんじゃないかと思うくらい、絵になります。
「……ところで」
「ひゃ!?」
それまで、ボケーっとしていたオリアナが、突然声を上げ、私は驚いてしまいました。
「な、なんですか、オリアナ。突然、喋らないでください」
「そうなると、私はいつまで経っても喋る事が許されないような気がするのですが、気のせいでしょうか」
「ま、まぁいいです。それで、なんですか」
「先ほど、レスト様に渡した、姫様のパンツなのですが」
「えぇ、大切に、ポケットにしまってありますよ。それが何か?」
本に栞を挟み、本を閉じて言うレストさんは、いい顔をしていました。でも、何か?じゃないですよ。人のパンツをポケットにいれて、何言ってんですか。ちゃんと返してくださいよ、それしか持ってないんですから。
「実を言うと、あのパンツは姫様のパンツではありません。本物は、こちらに」
そういって、オリアナがポケットから取り出したのは、私のパンツです。あれ?レストさんが持っているはずなのに、何故それが、オリアナのポケットにあるんですか。
「そんな、バカな……!では、このグレアちゃんのパンツは、何なんですか!?」
同じく、ポケットから私のパンツを取り出す、レストさん。それは、間違いなく私のパンツです。ですから、高らかに掲げるのは止めてください。
「そちらのパンツは、控えのパンツになります。姫様がまだ履いたことのない、新品のパンツです。こちらのパンツが、本物の、正真正銘姫様の脱ぎたてパンツでございます」
それなら、尚更掲げるのはやめてほしいです。
というかこの2人は、人のパンツを掲げ合って、何してるんですか?新手の宗教か何かですか。
「んなっ……か、輝きが違う……!」
何言ってんですか、この人は。パンツが輝く訳ないでしょう。
でもまぁ、気持ちは分かります。なんてったって、この私のパンツですからね。
「じゃあどうして、濡れていたんですか?」
レストさんに渡された、偽私のパンツは、濡れていたようでした。控えだというのなら、濡れているのはおかしいような気がします。
「いつでも履き替えられるように、ポケットに常備しておりましたので、私と一緒に濡れてしまったんですよ」
「どうして、そんな物を常備しているんですか。私のパンツは、ハンカチか何かと一緒なんですかっ」
私はそう言いながら、双方のパンツを取り上げました。いい加減、人のパンツを掲げるのはやめてほしいので、ついでに返してもらいました。
「ああ、何をするんですか、私のパンツぅ!」
「レストさんのじゃないです!あと、激しく動かないでください!布、めくれてます!ちょっと見えてますから!」
パンツを追撃してくるレストさんの布が、置き去りにされてしまい、色々な所が見えちゃっています。そりゃあもう、色々と見えています。
「あ、ああ、もう!ふん!」
「ごっ!?」
私の拳骨が、レストさんの頭を直撃しました。あまりにしつこいし、色々と見えちゃっているので、思わず手を出してしまったんです。私は、悪くありません。
「き、効きました……いい、拳です……」
「ちゃんと、隠してください」
頭を押さえ、蹲るレストさん。布がはだけて、もう全裸な彼女に、私は布を拾い上げ、肩にかけてあげます。せめてもの、情けです。というか、裸でいないでほしいので、そうしました。
「姫様こわーい」
「五月蠅いです」
私は、茶化してくるオリアナをよそに、布団を敷いて、寝支度を始めます。布団といっても、ただの布切れですけどね。このゴツゴツした岩の上じゃ、あんまり気持ちよく眠れる気がしませんが、贅沢は言えません。
「もう、眠るんですか?」
「はい。明日もあるので、早めに寝ておこうかと」
「……そうですね。その方が、良いかもしれません」
オリアナが、チラリと洞窟の入り口の方へと、目を向けました。外は、相変わらずの大雨です。外は、何も見えず、視界ゼロのような状況が広がっています。
「グレアちゃん、寝るんですか!?でしたら、私も一緒に──」
「寝ません!」
なんとなく、絶対に言ってくると思いました。なので、最後まで言わせずに、強く拒否します。
あと、頭の上のたんこぶが、凄いです。そんなに強く殴ったのかな、私。
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