第20話 禁断の愛


 それから、オリアナがお肉を焼いてくれて、パンに挟んで食べて、お腹いっぱいの大満足です。こんなに美味しいお肉、いつぶりでしょうか。それに、やっぱり枷もなく、外で自由に動けるのって、最高です。首輪は付けられてるけど、檻の中に閉じ込められていたころの不自由さと比べれば、格段にマシですからね。


「オリアナー、食後のデザートくださーい」

「そんなもん、ありませんよ。今の立場、分かってます?貴方、これからメリウスの魔女の生贄にされに、旅に出るんですよ?」


 食べ終わった私は、焚火の傍の地面に寝転がり、リラックスモードでオリアナにおねだりしました。だけど、オリアナは調理に使った道具を片付けながら、呆れてそう言ってきます。

 そんなの、分かってます。言われるまでも、ありません。


「あれ……そういえば、何故オリアナが、その事を知ってるんですか?」


 オリアナがお城を追い出されたのは昨日なので、今日の出来事は、聞き及んでいないはずです。となると、オリアナが私に課せられた事を知っているのは、不自然でしかありません。

 その事を指摘されたオリアナは、手を止めて一言、こう言いました。


「しまった」


 無表情なのに、分かりやすいメイドです。


「しまったって、なんですか。大体にして、貴方に旅の趣味なんて、ありませんよね。どうして、私に都合よく、いきなり旅に出るなんて言い出したんですか。それに、私の行く手で待ち受けていたのも、不自然です」

「ひゅー、ひゅひゅー、ひゅー」

「吹けてませんよ!?」


 目を逸らし、何も聞こえませんと言いたげに、唇を尖らせて口笛を吹こうとするオリアナですが、音が出ていません。口から、空気が出ているだけです。


「オリアナ。何か事情があるんでしょうけど、教えてください。こうなってしまった以上、私に恐れる物はありませんし、どうせ死ぬ身です。隠し事も、必要ありません」

「ひゅぅ……姫様」


 オリアナは、私が穏やかに、落ち着いてそう言うと、口笛を吹くのをやめて、私を呼びました。


「な、なんですか?」

「世の中には、知らない方が良い事も、たくさんあるんです。それを知ったら、例え愛する人でも、殺さなくてはいけない事にもなりかねません。ところで、私は姫様の事、わりと嫌いではないんです。むしろ、好きと言ってもいいです」


 突然の告白に、私は不覚にも、心臓が高鳴りました。主を愛してしまった、メイド。しかも、女同士の禁断の愛ですか。私にそんな趣味はありませんが、こんな時、どう答えるべきなんでしょう。悩みます。

 なんて、バカな事を考えるのもつかの間です。オリアナが、お肉の調理に使った包丁を構え、こちらを睨みつけています。


「さて、姫様。今、何かお話をしていましたっけ。私、物覚えが悪いので、もう一度、何かご質問があればお願いします」

「いいえ、何も話していませんよ?何か、勘違いをしているようですね。これだから、物覚えの悪いメイドは困ります。バカなんですか?」

「いい子です。が、バカは余計です」


 せめてもの、脅された事に対する、腹いせです。オリアナの目が怖いですけど、包丁はしまってくれました。

 何かを隠してるのは確実ですが、今は触れずに、考えないでおきましょう。オリアナに殺されるなんて、私にとって、一番嫌な死に方かもしれません。そうならないためにも、です。


「お話は、ここまでです。夜明けまで、まだあります。今日はここで過ごし、夜明けに出発しましょう。それまで、お休みください」

「はーい。で、ベッドは?」

「ある訳ないでしょう……。ですが、荷馬車に掛布団があります。それを使い、眠ってください」

「はいはいっと」


 用意の悪いメイドに、私は内心ガッカリです。旅の支度といったら、そこまでしないとでしょう。でも、ないよりはマシです。

 私は心の中でぶつくさと文句を言いながら、ランプを持って荷馬車に上がり、中を探ります。すると、オリアナの言った通り、そこに掛布団のような、布を発見しました。牢屋の時のような、ボロくて穴あきのやつではなくて、ちゃんとした布です。

 拾い上げて確認すると、その布の下にあった物が、目に入りました。


「ううん……」


 それは、人でした。間違いなく、人でした。

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