第13話





やわらかい日差しが差し込む部屋で、今日は二人ともダラダラとベッドの上で過ごしている。



俺は久しぶりに会えた毅の腕枕に頭を預け甘えている。



目の前には毅がいて、ベッドの中で穏やかにただ二人だけの時間が過ぎていく。


……とても幸せな気分だ。


ついつい嬉しくて笑いがこみ上げてくる。



「おい、何笑ってんだよ。」



毅が俺の肩を揺さぶる。



「ふふっ、だって俺、幸せだから…」



「…せ…い…」



再び恋人に目を向けると、そこには毅じゃなく中島拓海が微笑んでいる。



「…………えっ?」



「…先生…」



なんでここに中島が??



「先生」



中島は俺の肩を掴み優しく揺する。




「なっ、中島っ?!」



驚いて飛び起きた。



「……っ、はいっ。」



返事をした声の方を振り向くとそこには目を丸くした中島と演劇部部長のが立っていた。


どうやら俺は少し休憩するつもりで目を閉じていたはずが本気で眠っていたところを中島に起こされたらしい。



「……っ…ああ…そうか…」


「先生、大丈夫ですか?」



ジンジンと痺れている腕をさすりながら時計を見るともう放課後になっていた。



「ああ、平気だ。」


「あの……松岡先生、鍵を下さい。」


「はい、これ。」



俺の差し出した鍵を受け取ると演劇部長はすぐに出て行った。



「くふあ~っ」



背中を向けて小さく欠伸をかみ殺する。


中島は昨日座った場所に鞄を置くと心配そうに話しかけて来た。



「先生、疲れてますね……もしかして俺の課題のせいですか?」


「ハハ、仕事で色々疲れているだけだ。そんな事言ったら中島だって、受験勉強とかで疲れているだろ?疲れているのは皆一緒だよ。」



 俺は席を立つと眠気覚ましのコーヒーを入れることにした。



「中島、コーヒー飲むだろう?」


「はい、いただきます。」



実は中島の言う事は当たっていた。アイディアが思いついたのは明け方だった。


生徒には楽しく伸び伸びと絵を描いてもらいたいから、萎縮してしまう様な事を言うつもりは毛頭ない。


中島は勉強をしながらここで斎藤を待っているんだろうけど、俺はどうしようかな?


今日はちゃんと小説を持って来たけど、寝不足で瞼が重いから演劇部が終わるまで仮眠を取るか。


インスタントコーヒーのカフェインじゃ眠気は飛んで行かないからな。


中島の前にマグカップを置くと彼が礼を言ってコーヒーを一口飲む。


俺もマグカップと一緒にデスクに着く。


部屋にはシャーペンの走る音と時折本をめくる音が聞こえるだけでとても静かだ。


柔らかな日差しが適度に空気を温めると再び俺は眠ってしまった。





ピロリロリロリロ~♪ ピロリロリロリロ~♪



突然、携帯電話が鳴り俺は起こされた。


この着信音は毅だ。


暫く電話もメールも来ないからバイブにするのを忘れていた。


どうしよう、すぐに出たいけど、ごめん毅


電話に出ない俺に中島が不思議そうな顔をしてに聞いて来た。



「電話に出ないんですか?」


「あ、こんな時間にかかってくるのは間違い電話とか、セールス電話だから…」



久しぶりにかかってきた毅の電話なんだからでたいよ。


だけど、生徒の前で電話になんか出られるか。


静かな部屋に携帯のコールが鳴り響く。


早く留守電に切り替わってくれよ。


だがなかなか留守電に切り替わらない。


くそっ、なんかの拍子に留守電モードを解除したのか。


全く鳴りやむ気配がない。


頼む!こっちから、かけなおすから早く鳴り止んでくれ!


祈りが通じたのか、ぴたりと鳴り止んだ。



……が!



また、すぐに鳴りだした。


今度はなかなか鳴りやまない。



「俺にかまわず電話に出て下さい。」



俺が構うんだよぉ。


電話に出る前に鳴りやんでくれ。


切れるのを期待して、のろのろと携帯電話を取りだしたが、願い空しく鳴り続いている。仕方なく電話に出ると……



『遅っせえなっ!!!何してんだよ!!早く出ろよ!!』



怒り狂っている毅の怒鳴り声が室内に響いた。


慌てて受話器を手で塞ぎ、部屋の隅に行って小声で話した。



「声が大きいよ!もう少し静かに話してくれ。」


『なんだよ、俊介。すねてんのか?色々俺も忙しくって時間が取れなかったんだよ。俺だって俊介にずっと会いたかったんだぜ。しばらく抱いてやってないから、お前の身体も俺を欲しがっているだろ?今日、俺ン家、来いよ。たっぷり可愛がってやるから、明日は家から仕事に行けよな?』



俺の周りに誰もいないと思って恥ずかしい事を言ってくる。


毅の声は普通に喋っていても大きいから、静まり返っている部屋では傍にいる中島にも聞こえそうだ。


このままだと、もっと恥ずかしい事を言いかねないから、その前に早く切らなくちゃ……



「わかりました。すみませんが、いま仕事中ですので詳しい内容は、後でこちらから電話をかけなおしさせていただきます。」



俺の他人行儀な言葉に毅がキレた。



『!!っなんだよ!その態度は!ムカつくやつだな!俺が呼んだ時はこないで、呼びもしない時にばっかり来やがって!!もう来るんじゃねえっ!!』



怒鳴るだけ怒鳴って一方的に電話を切られた。


こっちの事情を察しろっつーのっ!!


一人きりじゃないって喋り方でわかんないのかよ。


どうしてこう短気で自分勝手な男かなぁ~。

 

 

 

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