少女のつがい
鈴居 凛大
一日目
友人から一つの箱を譲り受けた。
材質は紙。表面はクラフト色の無地。柄板紙を重ね加工された素材からつくられた箱。つまるところ、どこにでもある段ボール箱である。変わったところがあるとすれば、手書きのラベルが雑に貼られていることと、完全に封をされた箱ではないということくらいだろうか。
彼はしばらく留守にするから預かっていてほしいと言っていた。まあこれと言って重要な用事がない私は一つ返事で引き受けたのだが、彼は中身について何も話してくれない。箱を受け取った私を見ると、何なら君にやるとまで言い出した。きっと君に向いている、君なら退屈しないだろう。そう言い終えると彼は手を振り去っていった。
慎重に運んできたらしいが、なぜか上面の固定は甘く、開きかけて隙間ができていた。その箱を渡してきた友人は「密閉してやるな、可哀想だから」と加えて言うものだから、内容物は知らないがそういうものなのかと思い、手渡されたままの状態を保って自室へ持ち帰ったのだった。
机の上に箱を置き、中を開いて確認する。
ありふれた段ボール箱の中には、ちいさな人型のものが二体入っていた。肌色のそれは、着せ替え人形のようだ。どうしてこんなものをと手に取ろうとしたところ、それらはトテトテと箱の隅に走り逃げていった。
どうやら人形ではない。
これは驚いた。彼は私に何を持ってきたというのか。そういえば、箱にはラベルが付いていた。先ほど確認し忘れていたラベルを読むと、そこには「少女のつがい」と書かれていた。
段ボール箱に裸のまま入れられた二体のそれは、生きたつがいであるようだ。にわかには信じられないが、たしかにそれらは動いているし。いきなり箱の中へ手を入れたものだから、きっと怯えているのだろう。二体はぴったりくっついて、小さな瞳でこちらを見ている。姿かたちは私たちとそっくりなのに、手のひら大のおおきさをしている。小さな瞳に見つめられ、庇護欲というか、なんというか、情のようなものが湧いた気がした。
元の所有者である友人が「君なら退屈しないだろう」といっていた理由が少しわかった気がする。せっかくだから、彼女たちの生態を記録に残していこうと思う。
本日を一日目として、彼女たちの様子を記録していくことにしよう。
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