第36話 コンタクト

 翌朝。


 中古船販売サイトの担当者から電話が入る。S馬さんという物腰のやわらかそうな男性である。私が見た船の内容を再度伝える。


「見学したいんですけどご都合はいかがでしょうか?」

「ええと、オーナーさんに伺ってみますね。一度電話を切ってお昼ごろ連絡差し上げます。」

「よろしくお願いします。」


 約束通りお昼過ぎにS馬さんから電話が入る。


「あ。もしもし。」

「どうも。」

「ええと、オーナーさんが来週の月曜日の13時なら見せられるけどということなんですがケイさんのご予定はいかがですか?」

「大丈夫です。時間はなんとかします。で、どこに伺えばいいのでしょうか。」

「ええと、今、船はF市に置いてあります。Fマリーナってごぞんじでしょうか?」

「いや、わかりません。」

「ええと、じゃあ、住所はメールしておきますね。Fマリーナに13時ということでよろしくお願いします。」

「こちらこそよろしくお願いします。」


 当日。


 私は少し早めにFマリーナに到着した。車を止めて待っていると私と同じようなハイエースが一台マリーナに入ってきた。念のため声をかけてみると、持ち主のYさんであった。Yさんは私に「ちょっと待ってくださいね。」と言ってFマリーナのオーナーへ声をかけに行った。S馬さんはもう少しかかるということなので二人で雑談をしながらS馬さんを待つ。


「あの。こんなこと伺っていいのかどうか。」

「はい、なんでしょう?」

「どうして、この船を売ろうと思ったんですか?」

「ああ、あのですね。今すぐ乗ることはないですしね。私も釣りが好きなんですがもっと大きな船が欲しいなと思って。」

「はあ、なるほどね。」


 Yさんは自分で自動車の修理工場を経営しているようだ。物腰の静かな人で時折見せる笑顔が柔らかい。私たちが談笑しているとS馬さんがキャンピングカーで到着した。


「はじめまして。」

「キャンピングカーですか。すごいなあ。」

「ええと。はい。こんな仕事をしていると九州中の港に行くんですがなかなかホテルが直ぐにとれなくて。はい。」

「じゃあ、仕事で港に行って帰る時間が無かったら寝て帰る?」

「そうなんです。今日も熊本から来たんですがこれから門司に行かないといけないので車中泊ですね。」

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