第18話 アメリカ編 出撃キャステイクレイク

 翌朝4時。


 仕事の時にはいつまでもぐずぐずしているおっちゃん二人がぱちっと目を覚まし、家族を起こさないように家をそっと飛び出す。まずはボートを隠している弟の会社へ。


 会社に着くと、同じように家を抜け出してきたゆうちゃんが釣りの準備をしていた。ゆうちゃんは弟の同業者の兄貴分でアメリカで弟をとてもかわいがってくれている人。弟も「にいさん、にいさん」と慕っている。この方も実はとんでもない釣りバカで話をしているととても気持ちがよい。ゆうさんもバスボートを持っていて、弟とゆうさんは黙々と準備を進める。わたしは力仕事をするぐらいしかやることがない。


 作業をしながら二人は


「今日はどこから入る?」

「右側のほうから攻めようと思ってます。」


 など脳内趣味レーションに余念がない。この時、ロス市内は15度ほど。すこし肌寒い。こんな温度で釣れるんかね。前日、キャステイクレイクのことをいろいろ聞いてみたところ


「がばがば釣れるよ。」


 と自信たっぷりの様子。いやがおうにも期待が高まる。


 忘れ物がないか確認して、鍵をしめて、出発。ゆうさんとはレイクで合流する。ロス市内からキャステイクレイクまではおよそ1時間半かかる。ロスから「きてきてきてきて」のサンタモニカを経由して北を目指す。平日なので朝早いにもかかわらずけっこう車が多い。


 アメリカには船舶の免許がいまのところないらしい。つまり、だれでも操縦できるということである。私はいちおう日本の船舶免許をとったので練習するにはちょうどいい。どちらかというと釣りよりもそっちのほうが楽しみだったりする。日本で乗った船はがんばっても50Kmほどしか出ない。弟の船は100Km近いスピードがでるという。考えただけでわくわくする。


 道すがら現在のロスアンゼルスのバス事情を聴く。現在はプレスポーニングと言っていい状態だという。


「結構釣れるんやろ?」


 という問いかけに弟は急にだまりこんだ。


「…むずかしいね。一番、難しいときに来たね。にいちゃん。」


 おいおい、おまえ、話が昨日と違うぞ。だいたい、釣りというのはギャンブルと同じで調子のいいときのことばっかり話すからいざ挑戦する時になったらみんな急に眉間にしわを寄せたり、無口になったりする。難しいとき、というのはいったいどういう時なんだろう。じゃ、いつが一番いいときなの?


「うーん。今もいいんだけどねえ。けっこう釣れるんだけど。」

「でも?」

「…むずかしいねええええ。」


 おまえ、殺すぞ。


 ロスから1時間、サンフェルナンドあたりまで市街地が続き急に町が消える。山岳地帯に入り車の量がへり、ぽつぽつとバスボートをひく車が増えてくる。みな、キャステイクに向かっている。弟は無口になり、私も初めてのアメリカでのバス釣りを思い言葉が出てこない。なんせこちとら20年ぶりのバスフィッシングである。ケセラセラ。なるようになるさ。


 Que sera, sera

 Whatever will be, will be


 この歌はアメリカではドリスデイが歌って大ヒットした。日本ではペギー葉山が歌ったとても良い曲である。もともとこの「ケセラセラ」という語は私はずっとフランス語だと思っていたがスペイン語であろうということ、そして、本当は「なるようになるさ」という意味はないらしいことを最近になって知った。そのあとに続くWhatever will be, will beという英語のセンテンスがそれを物語っている。「will」lという単語は「意思」という意味があるので「ほったらかしていたらどうにかなる」という意味ではない。My Willで「遺書」。つまりwillは「ぼんやりした未来」をさす語ではない。自分の何が知らかの強い意志があるという意味を含んでいる。だからwill beは「世の中は自分が望んでいるように進む」というような意味になる。そういう強い意志をWhateverが、がくっと弱くしている。そんな感じの歌詞だ。


 ケセラセラ

 きっと釣れるさ。自分を信じろ。

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