刺し違えてもふたり

谷田部乃空

第1話

正論は鋭く強く、そして脆いものだ。

裏付けるものが正しさだけなのだから。


貴方がぼんやりと見える。揺らめく姿に時折怪しい笑みを浮かべた見知らぬ誰かが混ざり込む。LINEの返事が早い。きっと昨日も徹夜をしたのだろう。


栄養剤の蓋を開けて立ち上がる。ふいに辺りが静寂に包まれた。午前六時、世界に色がつく前。


事務所をうろつきながら笑おうとしたが、笑い方がわからないので口角を上げて立ち尽くす。歌っても踊ってもひとり。


『今の私が本当の私』


付箋に書いてみた。鏡に貼って覗き込む。そこに私の顔は映らない。気温は少しずつ上がり、私は私から引き剥がされる。街もまたその役割を思い出し、鮮やかな光が弱虫達を踏み潰していった。


慌てて付箋を外し、丸めて一息に飲み込んだ。空っぽの胃に私が充満していく。貴方はそろそろ眠る頃だ。こうして健やかなる身体は今日という日を動き始める。


正しくありたかった。刺し違えてもふたり。傷つけあってでも過たずにいられるよう願っていた。実に脆い在り方だった。


汚れながらも光を浴びなくてはならない。

余白が美しいのは鮮やかさの中にあるからだと、血だらけのふたりは知ることが出来た。

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刺し違えてもふたり 谷田部乃空 @8kumaNeko

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